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  • 2020/05/12 掲載

世界中で疑義が呈されるGAFA、日本だけが知らない現状と本質

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GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)は、若者の憧れであり、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む多くの日本企業の目標でもある。しかし、そのGAFAを取り巻く環境は、いま急速に変化している。そして、日本だけがこの変化の"蚊帳の外"にいる可能性がある。新著『After GAFA 分散化する世界の未来地図(KADOKAWA刊)』を上梓した小林 弘人 氏に、GAFAをめぐる世界の最新動向を聞いた。
執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司

執筆:井上健語 聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司

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小林 弘人 氏

いまのシリコンバレーで、スティーブ・ジョブズは起業できない

 小林氏は、「一般の人がGAFAに抱く感情が、ここ数年、日本と世界、特に欧米とではかなり食い違ってきています」と述べ、その現実と背景を説明することが、本を執筆した理由の1つだと語る。


 たとえば、サンフランシスコのミッション地区は、かつてはヒスパニック系の貧しい住人が住んでいた。ところが、グーグルが自社専用の通勤バスを走らせるようになってから裕福な住民が急増し、ジェントリフィケーションに巻き込まれた地元住民を中心に抗議活動が広がる事態にまでなった。こうしたニュースは、日本ではあまり報道されていない。

「世界中の都市で高給の人たちが下町だったところ来ることで生じる『ジェントリフィケーション(gentrification)』や『ディスプレイスメント(正式にはDIDR。再開発などによって旧住民が移転を強いられる状況)』が起きています。グーグルが来ることで地価が上がり、家賃も上がった結果、元々その地域に居住者である貧しい人々が住めなくなってしまうので、嫌厭されるのです。「Techsploitation(テクノロジー企業による搾取)」という造語も抗議活動には使われることがあります。ベルリンのクロイツベルグという地区では、グーグルがスタートアップ施設である『Googleキャンパス』を建設しようとしたのですが、大反対運動が起きて、断念せざるを得なかったほどです」(小林氏)

 1994年にWIRED JAPANを立ち上げた小林氏は、それ以前からシリコンバレーで取材活動を行っていた。当時と今の違いを次のように述べる。

「今のシリコンバレーは、あまりにエスタブリッシュ(支配階級化)してしまいました。もし、いまスティーブ・ジョブズがいたら、フォルクスワーゲンを売って、ガレージで起業することはできないと思います。地価も人件費も高騰しているので、そもそも、シリコンバレーに住んでいない可能性が高いでしょう」(小林氏)

GAFAが起こした個人情報をめぐる課題

 GAFAが引き起こした問題は、経済的な格差だけではない。個人情報の取り扱いをめぐる問題も、国を巻き込んだ議論になっている。

「たとえば、フェイスブックはメッセージングアプリのワッツアップ(WhatsApp)を買収して、さらにシェアを伸ばしましたが、異なるプラットフォームの個人情報が相互乗り入れされて、勝手に使われるのではないかという懸念が広がりました。欧州の一般データ保護規則(GDPR)は、こうした企業が取得したデータの濫用などに対して、NOを突き付けました。『個人データは、基本的人権の一部である』ということを提起したのです」(小林氏)

 GDPRが出る以前、フランスでは「忘れられる権利」が話題になった。フランス人の女性が、自分の過去の情報を検索結果から削除するようにグーグルに要請したところ、「いったん公開された情報は取り消せない」とグーグルが拒否して裁判になり、最終的に女性が勝訴した。

「つまり、その時点では個人のデータや人間性といったものをどう取り扱うか、明確なルールがなかったのです。それまでグーグルは、インターネット初期に多くの活動家たちが唱えていた『情報は自由になりたがっている』という思想の影響も色濃く、さまざまな情報をフリーにして事業を拡大してきたわけです。しかし、ここにきてユーザーの権利、また他人が作ったコンテンツを利用して利益を上げているのに、社会的にも還元されておらず、むしろ租税回避を行っている点、さらにはその寡占的な立場などに対して、疑義が呈されているのです」(小林氏)

 同様の問題は、アマゾンやアップルでも起きている。それぞれ、問題の中身は異なるが、GAFAをはじめとする中央集権的なプラットフォーマーの台頭によって、さまざまな問題が起きていることは共通している。


解体論まで出ている米国における対GAFAの動き

 GAFAによって引き起こされている問題に対して、政府レベルでもさまざまな動きが起きている。たとえば、民主党の大統領候補だったエリザベス・ウォーレン(現在は大統領選から撤退)は、GAFAの解体論を主張している。

「象徴的だったのは、最先端テクノロジーの祭典である2019年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に『不公平な富の分配』が専門領域である彼女が乗り込んできたことです。会場は大ブーイングかと思いきや、決してそうではありませんでした。GAFAを取り巻く環境は、かなり変わりつつあるのです」(小林氏)

 同じく米民主党のバーニー・サンダースは、アマゾンに対する「ストップベゾス(Stop Bad Employers by Zeroing Out Subsidies)法」を提案している。

「これは、たとえばアマゾンの倉庫で働く低賃金の人達の食費や保険料を政府が負担し、それと同額の税をアマゾンに要求するという内容です。こうした法律や政策も含めて、GAFAをターゲットにしたさまざまな取り組みが活発化しています」(小林氏)

 もちろん、GAFA側もリアクションは見せている。しかし、いずれも後追いの印象が強い。

「たとえば、グーグルは第三者へのCookieの提供をやめると発表しました。しかし、第三者が情報を利用できなくなるので、グーグルはますます有利になるのではないかと懸念されています。また、フェイスブックもマーク・ザッカーバーグが同社の個人情報の流出事故について語り、情報の扱い方について発表しましたが、後手に回っている印象です。元CIAの分析官だったヤエル・アイゼンシュタット(Yael Eisenstat)氏は同社に迎え入れられましたが、わずか6カ月で辞任し、同社の方針を批判しています。さまざまな対応策に一定の評価はできますが、やはり今のように国際的な世論が盛り上がらないと、マネタイズにばかり真剣で、ガバナンスやコンプライアンスが後回しになっているという印象は拭えません」(小林氏)

【次ページ】「無料だから、あなたの情報を使って儲けてもいいでしょう」という論理
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