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  • 2024/06/26 掲載

シロアリはなぜ「木だけ」で生きられる?「100年の謎」を解いた東工大 本郷氏に聞いた

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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木造住宅といった木材を食べる害虫として厄介者扱いされるシロアリ。大多数の生物はデンプンを分解してエネルギーを得るが、シロアリは樹木の大部分を占めるセルロースを分解してエネルギーを得ている不思議な虫だ。その秘密は、シロアリの腸内に住んでいる微生物にある。ただ、シロアリと微生物が共生関係にあることは100年前からわかっていたが、その詳細な役割や機能まではわかっていなかった。この100年の謎を解き明かしたのが、東京工業大学 生命理工学院 教授 本郷 裕一氏。今回、本郷氏に、興味深い研究成果と生命の不思議について聞いた。
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シロアリ腸内原生生物とその細胞内・細胞付着共生細菌の役割の模式図
(後ほど詳しく解説します)

100年“謎”だったシロアリの腸内微生物の役割

──(大隅基礎科学創成財団 理事 野間 彰氏)シロアリとその腸内の微生物の共生関係を調べられて、なぜシロアリが木だけを食べて生きていけるのかを明らかにされました。研究の概要を教えていただけますか。

本郷 裕一氏(以下、本郷氏):まずシロアリは「アリ」という名前がついていますが、実はゴキブリの仲間です。木造住宅に住み着いての柱や土台などの木材を食べてしまうという害虫というイメージが強いですが、自然界では倒木を分解したり土壌改良の役割を果たす益虫であり、最近ではバイオ燃料開発で注目されたりしています。

 シロアリは腸内微生物と共生関係にありますが、これは1920年代からわかっていました。たとえば、高濃度の酸素を与えると腸内微生物は死んでしまうのですが、その後でシロアリに木を食べさせると、そのシロアリも死んでしまいます。つまり、共生関係があるということです。

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東京工業大学 生命理工学院 教授 本郷 裕一(ほんごう・ゆういち)氏
1969年東京都生まれ、2000年東京大学大学院博士課程修了、博士(理学)取得。日本学術振興機構博士研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2009年に東京工業大学生命理工学研究科生体システム専攻准教授、2014年に同教授。2016年から現職。

 また、腸を丸ごと使った生理化学的な実験をすると、腸内微生物が木を分解・消化して発酵し、酢酸が作られます。その酢酸がシロアリの栄養源になること、そして発酵の過程で発生した水素を腸内微生物が除去することで発酵を促進させることも、おぼろげながらわかっていました。

 ただし、具体的に腸内微生物がどのような役割を果たしているのかという決定的なことはわかっていませんでした。その理由が、腸内微生物の培養が困難だったからです。この100年間、微生物学者が努力してきたのですが、極めてまれに成功するくらいで、うまく培養できなかったのです。

シロアリが「木だけを食べて」生きられる仕組み

──そこで「シングルセル・ゲノミクス」という手法を開発されて、腸内微生物の細胞を1つ取り出し、DNAを増幅、ゲノム解析によってその機能を明らかにされました。

本郷氏:シロアリの腸内の微生物は大きく原生生物(原虫)と細菌にわかれます。

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イエシロアリ(左)、腸内原生生物(右上、べん毛虫:シュードトリコニンファ)とその細胞内共生細菌(右下)
(出典:Hongoh et al, 2008, Science)

 細菌は原生生物の細胞内と細胞表面に付着して、それぞれが共生関係にあるのですが、ゲノム解析でわかったことは、細菌が空気中の窒素をアンモニアに変換してアミノ酸や核酸を作り、それが原生生物とシロアリの栄養源になっていたということです。

 木には窒素がほとんど含まれていないにもかかわらず、なぜアミノ酸が作られるのかわからなかったのですが、その仕組みをゲノム解析によって明らかにすることができました。

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シロアリ腸内原生生物とその細胞内・細胞付着共生細菌の役割の模式図。原生生物が木片を分解し、細胞内共生細菌が空気中の窒素分子を取り込んでアミノ酸と核酸を合成して、原生生物とシロアリに提供する。この細胞内共生細菌の機能をゲノム解読によって初めて明らかにした
(出典:本郷氏提供)

 もう1つは先ほども軽く触れた水素です。発酵が進むと水素がどんどん出て発酵が止まるはずですが、その水素を細菌が酸化して取り除いていることもわかったのです。

ヤマトシロアリの腸内原生生物であるディネニンファの細胞表面付着共生細菌2種の局在。(右の画像の)緑色の細菌が木質消化酵素を分泌し、マゼンタ色の細菌が水素除去を行う
(出典:本郷氏提供)

 木を分解する能力についても、原生生物が主に分解していると考えられていたのですが、細菌のゲノム解析を行うと、細菌も木を分解する消化酵素をかなり出していることがわかりました。

 このように、シロアリ、原生生物、細菌がそれぞれ共生して、複雑な関係を保っていることがわかってきたのです。 【次ページ】100年の謎を解明できた「ゲノム解析の手法」

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