0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
社会の風景を一変させるような発明は、いつも妄想から始まる。突き抜けた発明をしたければ、妄想する習慣とそれを直ちに試すフットワークを身に付けることだ。マルチタッチ(入力インターフェースを2本以上の指を使って操作する)システムの開発者として知られる東京大学 大学院 情報学環教授 暦本 純一氏 が、自著『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』をベースに、ひらめきを現実に変える方法をアドバイスした。
本記事は、2021年5月に開催されたエクサウィザーズ主催のオンラインイベント「ExaForum2021」の内容を再構成したものです。
"壁を楽しめる才能"が常識を打ち破る発明を生み出す
暦本氏は、コンピュータ・サイエンス、ユーザーインタフェースの研究者である。1990年代には世界初のモバイルAR(拡張現実)システム「NaviCam」を試作した。また、スマートフォンの操作方法として知られるマルチタッチの基礎研究を世界に先駆けて行った人物でもある。
同氏は2021年2月、『
妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』を上梓した。この本は、今までの常識を打ち破るような発想(同氏はこれを「妄想」と表現する)をどのように得て、どうやって現実のものにしていくのかというプロセスについてアドバイスするものだ。
映画監督 黒澤 明 氏の発言(“悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!”)を引き、暦本氏は「天使のように考えて、悪魔のように実行する」と表現する。
天使のように爛漫に大胆な発想をすることが妄想だ。誰にでもできることではないと凡人は思う。しかし、誰もが日常的に妄想しているが「実現できるわけがない」と捨てているのだと、同氏は指摘する。
その証拠に、何か新しい発明が出てくると「あれは私も考えていた」という人は多い。現実にする方策が分からなかったり、壁に直面するなどしてゴールにたどりつけなかったことが勝敗を分けたのだ。
果たして妄想を実現する力は、「才能」なのか、「熱意」なのか。両方必要だが、暦本氏は中でもカギを握るのが「壁を楽しめる才能」だという。
「壁にぶつかっても『これは乗り越えるためにあるもの』程度に考えることです。熱意やモチベーションは、案外続きません。しかし、研究者というものは、失敗しても失敗しても平気でネチネチやり続ける傾向があります。他の分野においても、そういう人が突破するんじゃないかという気がします」(暦本氏)
妄想を現実にする第一歩は「言語化」すること
妄想を現実にするための第一歩は言語化することだ。頭の中に生まれた思いつきを1行の言葉にまとめてみる。すると「言葉にすると意外に面白くないな」「結構いけるのでは」「違うやり方もあるな」と、思いつきを客観的かつ冷徹に吟味し、編集できるようになる。また、言語化できれば人に意見を求めることもできる。
そもそも妄想する習慣がない人に対しては、暦本氏はトレーニングの一環として「面白いものを見つけてきて発表する会」を開くことを勧める。これは実際に東京大学 大学院情報学環 暦本研究室で行っていることだ。
「発表するために面白いものを見つける必要がありますが、まずそこで何を面白いと思うかという本人のセンスが問われます。また、面白さを伝える技術も必要です。自分がなぜ面白いと思ったのか人に伝えなければなりません。あるいは、ビブリオトークといって、『面白い本を見つけてきて発表する会』でもいいと思います。やはりどんな本を面白いと思うのか、なぜ面白いと思ったのかを考える訓練になります」(暦本氏)
こういう取り組みを繰り返していくうちに、人をうならせる発想というのがどういうものか、理解できるようになっていくのだ。
【次ページ】脳の一部がAIにしみ出す世界とは?膨らむ妄想が現実を引き寄せる