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マッキンゼーは、十数年にわたってさまざまな企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援してきた。その中から選りすぐりの200社のクライアントとの間の共同研究から得られた効果検証済みの方法論をまとめた書籍が『マッキンゼー REWIRED: デジタルとAI時代を勝ち抜く企業変革の実践書』だ。タイトルの「REWIRED」は、ビジネスの配線をやり直すことを意味する。同書の著者であるエリック・ラマール氏と日本語訳の監修をつとめた黒川 通彦氏による、DX成功のエッセンスと日本企業への提言とは。
DXへの取り組み10年の総括、銀行業界から学ぶ厳しい現実
DXの取り組みが始まって十数年経ちますが、その間にテクノロジーは根本的に変化しました。大規模で進化の遅いシステムは、モジュール型で急速に進化するシステムに変わり、企業にはアーリーアダプターのマインドセットで顧客によりよいサービスを提供することが求められるようになりました。
では、かけた投資と労力に見合う価値がDXには本当にあるのでしょうか。我々は、その事実を把握するため、最も早くからDXに取り組んでいる銀行業界に着目し、80の銀行を5年間にわたって調査して、最もDXに取り組んでいるトップと遅れているボトムの20行を比較しました。
その結果は明白でした。先進的なトップ20行は、株主の総リターン、売り上げの増加、顧客数の増加などすべての指標でボトム20行を上回っていました。
そして、調査した5年間、トップの銀行は一度もボトムには落ちませんでした。また、ボトムの銀行は一度もトップにはなれませんでした。これは、DXに必要なケイパビリティ(組織的な能力)を培うのに時間がかかるからです。そして、いったん作ったケイパビリティは、複製困難な競争上の優位性をもたらすからです。
もちろん、他の業界でもデジタル・AI技術を活用して変革に取り組んでいる(Rewiringな)企業はたくさんあります。
たとえば、AIによって銅の年間生産量を増加させたフリーポート・マクモラン、2桁の成長を実現したレゴ、独自のECサイトで成功したナイキなどです。
重要なことは、一晩で何かを成し遂げた企業は1社もないことです。これらの企業は、時間をかけて、少なくても5年程度をかけて変革を成し遂げました。したがって、現在、DXが遅れている企業は、今、何もしなければ手遅れになってしまうでしょう。
デジタル・AI変革(Rewired)に必須の6つの能力
では、デジタル・AIによる変革(Rewired)に成功しているトップ企業に共通している能力は何でしょうか。我々は3つのレイヤーに分かれた6つの能力を見い出しました。
最初に必要なのが「ビジネス主導のデジタルロードマップ」です。これは、ビジネス側がDXのロードマップを作成する能力です。そしてこれは、必ずトップダウンで実行しなければなりません。
次に、ロードマップができたら、それを推進するデリバリーの能力が必要です。これは「人材」「オペレーティングモデル」「テクノロジー」「データ」の4つに分かれます。
ここでは、少し分かりにくいと思われる「オペレーティングモデル」について少し補足します。これは、ビジネスの人たちとエンジニアが連携して、アジャイルな開発を進める能力です。重要なのはスピードです。テクノロジーというブロックを組み立てて、素早く競合優位性を生み出せなければなりません。
そして、3つ目のチェンジマネジメントのレイヤーで必要なのが「導入と拡大」の能力です。毎回、新しいテクノロジーを導入するためには、常にチェンジマネジメントの活動が必要になります。
求められる活動は2つです。1つはユーザーに対するものです。テクノロジーを使う人たちがテクノロジーをしっかりと理解し、適応できるようにしなければなりません。もう1つは拡大(スケール)の活動です。たとえば、日本で導入としたソリューションを他の国でも作り直すことなく使えるようにすることが大切です。
【次ページ】「デジタル・AI変革」を成功させるトップ企業の共通項
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