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米テック大手のGAFAはプライバシー、セキュリティ、独占などの面で非難を浴びながらも、規制撤廃を座右の銘とするトランプ大統領の下で新たな規制から逃れてきた。しかし、来年の大統領選挙に向けて政策論争が盛り上がる中、何かと目立つGAFAは政治家の格好の攻撃材料になりつつある。また、政権の司法省や連邦取引委員会(FTC)も従来の立場を翻し、業界慣行の調査に乗り出した。こうして潮目が変わる中、従来見られなかった新しい規制の枠組みが姿を現し始めた。最新の議論を紹介する。
論点1:GAFAは自身がルール制定に関与することを主張
グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのGAFA各社は近年のテック大手規制分割論の高まりに対して、「政府規制に賛成しながら、そのルールを自ら作る」、「従来の自主規制の枠組みを根本から変えるのではなく、運用をアップデートする」ことを主張してきた。
7月23日には米司法省が反トラスト法(独占禁止法)に違反していないか、「検索やソーシャルメディア、ネット小売」に対する調査を開始したと発表した。それぞれグーグル、フェイスブック、アマゾンを指すものと解釈されている。ユーザーの不利益を従来より幅広く解釈する姿勢を打ち出した。
その一方で、翌7月24日には米連邦取引委員会(FTC)のフェイスブックに対するプライバシー侵害を巡る調査が終了し、制裁金50億ドル(約5400億円)の和解案で合意がなされ、事実上の自主規制を同社に認める形で調査が決着した。
これは、フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)が、「弊社は世界各国の政府と協力して、正しいルールの制定に努力している」と述べるなど、規制される側がそのルールの決定や運用に関与すべきとの立場を追認したものだ。
さらに各社は市場独占を防ぐ規制分割論に対する強固な反論を用意している。複数の米メディアに挙げられた主張をまとめてみた。
論点2:GAFA各社の「罪状」と反論──グーグル
グーグルは2013年から2年にわたり、モバイル市場とネット検索広告市場での独占に関してFTCの調査を受けたが、反競争的な商慣行は認められなかった。だが、今なお独占の疑いのある分野を多く抱える。具体的には検索、デジタル広告、スマホOSなどの分野である。また、PlayストアやYouTube(ネット配信動画)における独占的なシェアも問題視されている。
特に検索はライバルがほとんどいない状態であり、広告主が出稿に際して支払う広告料に合わせて検索の表示順位を操作することができる潜在的な能力が常に問題視されてきた。事実、中小規模の広告企業やメディア会社の多くは、その部分を違法な独占状態であると訴えている。
加えて、スマホOSでの独占的な地位を利用して、グーグル謹製のアプリを出荷前にプリインストールするよう、スマホメーカーに強制していることは、欧州当局などから問題視されている。また、独占的地位を保つアプリストアで価格競争を阻害し、イノベーションを起こりにくくさせているとの指摘が絶えない。
さらに同社は人工知能(AI)、ロボット、再生可能エネルギーなど多分野で270社に上る垂直統合型の買収を行っている。
しかしグーグルは米規制当局である連邦取引委員会(FTC)や欧州連合(EU)との「バトル」を通して培われた
強力な反論を用意している。検索における表示順位については、「ユーザーに最も適した情報を最速で表示している」、スマホOSについては、「規制でコストが上昇し、現在無償で提供しているAndroid を有償にしなければならない」、また「世界規模でみれば、グーグルは批判されるほどの力を持っていない」と主張するとみられる。
論点3:GAFA各社の「罪状」と反論──アマゾン
アマゾンに関しては、eコマースにおいて一時は50%近くと推定された支配的なシェアが問題とされる。しかし、最新の数字ではシェアが実際には37%に過ぎないとされている。
一方、アマゾンが小売業者とマーケットプレイス運営者を同時に兼ねている利益相反は長く指摘されてきた。たとえば、アマゾンのWebサイトにおけるブランド品の売れ行き傾向を分析し、類似のプライベートブランド(PB)商品を販売することで、ブランド品企業との公正な競争を阻害する恐れについては、EU当局がすでに調査を開始している。
また、アマゾンの配送センターにおいて受注、配送料決定、荷造りなどにおいて自社のみに有利な慣行がないかが問題にされる可能性もある。アマゾンはすでに競合の書店をつぶしてきた「実績」があるため、厳しい目が向けられる可能性がある。
さらに、プライム会員のプログラムについても、FTCが動画や音楽などさまざまなサービスとの抱き合わせにより公正な競争が阻害されていないかを調査することに興味を示している。
だが、アマゾンにもよく練られた反論がある。eコマースにおけるシェアは大きいが、小売全体から見れば独占的ではなく、さらにウォルマートなど強力なライバルと日々、熾烈(しれつ)な価格競争を繰り広げているという主張だ。
さらに、アマゾンのさまざまな業界への参入がより効率的な市場を生み出し、消費者が益を享受しているという主張は、強い。金融大手UBSのアナリストらは、「米規制当局は、アマゾンがどの分野においても独占的な地位を占めていないとして、手出しはしないだろう」と予想している。
論点4:GAFA各社の「罪状」と反論──フェイスブック
フェイスブックは20億人以上のユーザーのデータ収集の手法やセキュリティの不備により、政治家たちの格好の批判対象になっている。特にデジタル広告市場において22%の大きなシェアを持つ。
コロンビア大学のティム・ウー教授によれば、同社は2007年以降、InstagramやWhatsAppなどを含む少なくとも92社の競合を買収しており、その中で手ごわいライバルになるはずだった39社を解散させている。
ヴァンダービルト大学のレベッカ・アレンズワース法科教授は、「GAFA4社の中でもフェイスブックは、InstagramとWhatsAppを分離させる圧力がかかりやすい」と解説する。
こうした見方に対してフェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、「InstagramやWhatsAppが分離されれば、効率的にコンテンツ内容の検閲を行うことができない。また、政府が中国の台頭を警戒する今こそ、米国は弊社のような規模の大きい企業を必要としている。フェイスブックを分割すれば、米国の価値観を共有しない中国のテック企業が代わりに支配するようになる」と反論している。
さらに、市場占有率から見てもフェイスブックは独占企業ではない。2018年に550億ドルの売上をたたき出したデジタル広告では、グーグルに次ぐ2位で売上はその半分以下にすぎない。また、ソーシャルメディア企業としても独占的ではなく、米13~24歳のセグメントにおいて強いライバルのSnapchatが同セグメントの90%に使われるなど、競争は確保されているという。
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