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未来学者ジョージ・ギルダー氏が書いた『
グーグルが消える日 Life after Google 』の指摘を受け、元 グーグル日本法人の代表取締役社長を務めた辻野 晃一郎氏に話を聞く。
前回 、辻野氏はグーグルでの実体験を基にその弱点に言及した。今回、同氏は、“GAFA時代”のさらに先への見解を述べた。果たして、「グーグルが消える日」は来るのか。
聞き手:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、渡邉聡一郎 執筆:翁長潤
聞き手:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、渡邉聡一郎 執筆:翁長潤
「グーグル後の世界」10のルールは妥当か
――『グーグルが消える日』では「グーグル後の世界」10のルールが定義されています。それを実現するために、特に、ブロックチェーンなどの新しいテクノロジーへの期待が描かれていますが、そうした新しい世界システムをどのように受け止めていますか。
「グーグル後の世界」10のルール
1.「セキュリティー・ファースト」
2.「集中化」は安全ではない
3.セイフティー・ラスト
4.無料のものは何もない
5.時間は、費用の最終的指標である
6.安定した通貨は、人間に威厳と統制力を与える
7.生物学的非対称性を模した「非対称」の法則である
8.「秘密鍵」のルール
9.秘密鍵は、政府やグーグルではなく個人が持つ
10.すべての秘密鍵とその公開鍵の背後には、人間の通訳が存在する
(出典:ジョージ・ギルダー『グーグルが消える日 Life after Google』)
辻野 晃一郎氏(以下、辻野氏): 本書の「グーグル後の世界」10のルールは、インターネット時代の行き過ぎで生まれたさまざまな社会のひずみを本来あるべき姿に戻そうと考える筆者なりの10カ条だと思います。
ビジネスは生産する側と消費する側で成り立ちますが、データ経済の時代となって、生産する側と消費する側が逆転する現象が起きているといえます。すなわち、消費者がデータを生産し、GAFAなどのプラットフォーマーがデータを消費している構図です。
現代は、プライバシーなどもはや存在しないというような気持ち悪さと常に隣り合わせで人々が生きている “異常な”時代といえます。GAFAのサービスはこの上なく便利なので、この状況をさして気にせずにただただ利便性を謳歌(おうか)しているのんきな人たちも多いと思いますが、気にし始めるとものすごく気持ち悪くなります。GAFAのサービスを使えば使うほど自分自身をどんどんさらけ出していくような環境の中で、個人データの帰属や利用の問題には我々1人ひとりが重大な関心を寄せるべきです。
一部の独裁者たちが中央集権的な仕組みでデータを吸い上げて自在にコントロールしている時代が今だとすると、データの民主化というか、データ・デモクラシーの時代にするために、データの帰属を本来の所有者である個人に戻し、“セキュリティー・ファースト”を掲げて、公開鍵暗号やブロックチェーンで保護しよう、というのがこの「グーグル後の世界」10のルールの主張のようですね。まともな主張だと思いますよ。
進むGAFA規制、たちの悪いフェイスブック
──グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4社から成る「GAFA」に対して、規制の声も高まっています。
辻野氏: 最近、GAFAだけではなく「GAFA+M(マイクロソフト)」とか、中国だと「BATH(百度<バイドゥ>、阿里巴巴<アリババ>、騰訊<テンセント>、華為<ファーウェイ>)」などとひとくくりに語られることが多いですね。
GAFAにしろBATHにしろ、もともとまったく別々の企業ですから、ひとくくりにするとわかりやすく見えてくる共通項の部分と、逆に見落としてしまうそれぞれのユニークな部分の両方がありますね。
GAFA規制の機運が盛り上がってきたひとつのきっかけは、フェイスブックがあまりにも行儀が悪いというか、たちが悪いからだと感じています。マーク・ザッカーバーグはもともといたずら好きというか人をなめたようなところがありますが、フェイスブックの起源を思い起こしても、そもそも個人情報に対する意識が低かったのではないでしょうか。 その意識のままいつの間にかフェイスブックの影響力が世の中を揺るがすレベルになっていて本人が一番とまどっているのかもしれません。
トランプが選ばれた2016年の米大統領選やイギリスのEU離脱(ブレグジット)の国民投票に関しても、フェイスブックから流れた個人情報が悪用されたり、さまざまなフェイクニュースやフェイク広告が人々の投票行動に影響を与えたりしたと言われています。
問題なのは、こういうことを主導している人たちの裏には巨額の金銭が絡んでいるということです。トランプを大統領にしたり、イギリスをEUから離脱させたりすることで利を得る人たちがいるわけです。票を金で買うのは明らかな選挙違反ですが、SNSや広告で事実ではない情報をどんどん発信して投票行動をコントロールすることもフェアではありません。しかしそれはなかなかわからないし選挙違反で検挙されることもありません。まさに民主主義の危機です。
また、別の事例ですが、ニュージーランドでテロを起こした実行犯が自分の犯行をフェイスブックでライブ中継するという出来事がありましたが、これを阻止できなかった体質も批判されました。
これらの社会的にネガティブな出来事が頻発するようになり、フェイスブックにとどまらず、デジタルプラットフォーマーであるGAFA全体への締め付けが厳しくなってきました。
「今が最終ステージではない」という意識を持て
――画期的なテクノロジーはあるけれども、その進化の歩みが遅くなってきているという指摘があります。グーグルやその他のテック企業が規制との板挟みに立たされていると見てもよろしいでしょうか。
辻野氏: この本を読んで感じたことですが、我々は「今が最終ステージではない」という意識を常に持たねばなりません。 我々は往々にして、今現在の状況が今後もずっと続くように錯覚することがあります。でも、当然のことながら、変化や進化はずっと続くわけで、決して「これで決まり」という状態などないわけです。
地球が誕生して人類が出現してからどこかで滅びるまでの間は、常に時代は続いていきます。当然、GAFAの時代もここが人類の最終ステージというわけではなく、今後も新たな破壊的イノベーションやそれをリードする新しい企業が生まれ続けるでしょう。
GAFAの力がすぐに衰えることは考えられませんが、10年後、20年後のことは誰にもわかりません。私たちにとって大事なのは、その時々の話題に振り回されず、“深く本質を捉える力”、すなわち時間的にも空間的にも物事を俯瞰する力だと思います。
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書『サピエンス全史』において、人類が地球に誕生してから今日に至るまでの壮大な時間軸を俯瞰(ふかん)しました。また、その続編ともいえる『ホモ・デウス』においては、人類の未来として、AIやバイオテクノロジーの進歩によって、神としての人へとアップグレードした“ホモ・デウス”と、社会的な価値を持たないそれ以外の“無用者階級”の二極化が進むと予測しています。
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