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  • 2018/11/14 掲載

GAFAの今後を左右する「テック規制論」、保守・リベラル・IT大手それぞれの立場

連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤 

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米テクノロジー大手が巨大化する一方で、相次ぐユーザー個人情報の漏えいや悪用が発覚している。IT大企業の自己統治(ガバナンス)能力に疑問符が投げかけられ、規制論が超党派で盛んだ。しかし、風当たりの強まりを逆手に取り、業界にとって都合の良い「規制」に換骨奪胎(かんこつだったい)しようとする兆候が見られる。10月から11月にかけて、決算への失望などからアマゾン、アルファベット(グーグル持株会社)、アップルら米テック大手の株が軒並み急落しているが、追い打ちをかけることとなるか。
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写真のザッカーバーグをはじめとし、失点続く米テック大手。議会はどのように見ているのか

(写真:ロイター/アフロ)


失点続きの米IT大手

「トランプ大統領は、グーグルやフェイスブックが保守的な意見やニュースサイトを差別していると見ており、独占禁止法に違反しているとして調査を命じる大統領令にサインする」

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 9月21日にこのようなうわさのニュースが駆け巡り、テクノロジー企業の間に緊張が走った。数日後に複数のホワイトハウス高官が否定したが、米国をはじめ世界中でテクノロジー大手規制論が高まりをみせていることを象徴する出来事だった。

 事実、米SNS大手フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)がユーザーの個人情報流出問題で4月に米議会に呼ばれて証言して以来、米テクノロジー大手の経営者たちが政治家の厳しい追及を受ける姿は、すっかり定着した感がある。

 ここ数か月だけでも、以下のように失点続きの米IT大手は守勢に立たされている。

  1. フェイスブックの個人情報が2016年の大統領選挙で悪用されたケンブリッジ・アナリティカ問題

  2. ハッカーによる攻撃で2900万人分のフェイスブックユーザーの個人情報が流出したセキュリティ問題

  3. フェイスブックが広告効果を「水増し」して代理店から提訴された問題

  4. グーグル・プラスで50万人のユーザーの個人データが外部開発者に閲覧可能の状態になっており、その事実を半年以上公表しなかった問題

  5. グーグルのスマホアプリが位置情報をオフにしてもユーザーの居場所をグーグルのサーバーに送り続ける問題

  6. グーグルのChromeブラウザでGmailサービスを利用すると勝手にそれ以外のグーグルのサービスへのログインも行って閲覧履歴などのデータをサービス間で共有し始めると疑われた問題

 こうした中、民主党のマーク・ワーナー上院議員がソーシャルメディアの規制を求め、共和党のオリン・ハッチ上院議員も連邦取引委員会によるグーグルの「反競争的慣行」の調査を要求するという具合に、表面的には規制を求める超党派の流れが出来上がっている。

「保守派」と「IT大手」の姿勢に共通点

 政治家たちの批判や追及は、以下の5つの論点に集中している。

  1. 個人情報の保護のガバナンスが機能していない。

  2. ユーザーのプライバシーの保護に熱心でない。

  3. 敵対的な外国政府による米政治への介入のジャンプ台になっている。

  4. 市場の独占により競争やイノベーションを阻害している。

  5. 従業員や地域に対する社会的責任を果たしていない。

 だが、それぞれのイシューに対するリベラル派と保守派の立場を見ると、IT大手規制論は呉越同舟の観を呈している。

 リベラル派は、個人情報保護の厳格な規制を行う欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)に準じた連邦政府による規制や、大きくなりすぎて独占状態が顕著になった企業の分割を求めるのに対し、保守派はデータ保護をできるだけ企業の自主規制に任せる一方、企業を分割してイノベーションや消費者利益を阻害しないよう求めているのだ。

 リベラル派と保守派、そして米テクノロジー大手の業界規制に関する考えを、次の表におおまかにまとめた。リベラル派がEU並みの厳格な規制を求める一方で、保守派とIT企業の考えが実は似通っていることがわかる。

(モバイルはこちらから)
イシュー リベラル派の立場 保守派の立場 IT大手の立場
個人情報保護 違反には政府が重い罰金を課し、連邦通信委員会(FCC)や連邦取引委員会(FTC)がセキュリティ対策の監視執行を求める 何らかの保護を導入、ただし運用は政府ではなくIT企業自ら行う。欧州のGDPRは負担が重過ぎる。イノベーションや収益を阻害する規制には反対 何らかの保護を導入、ただし運用は政府ではなくIT企業自ら行う。欧州のGDPRは負担が重過ぎる。
イノベーションや収益を阻害する規制には反対
プライバシー
保護
サービスに必要なデータ以外をIT企業が収集分析することに反対。ユーザーが自身のデータの所有権を行使できるようにすべき IT企業があらゆる個人情報を収集分析するのはユーザーの利益になる。欧州のような個人がデータの所有権を行使できる形ではなく、業界の自主規制で十分な保護が可能 欧州のような個人がデータの所有権を行使できる形ではなく、業界の自主規制で十分な保護が可能。データ提供企業ではなく、サードパーティーにも責任を負担させる
外国の
政治介入や
フェイク
ニュース
SNSが悪用されてトランプ大統領が誕生した。IT企業はフェイク情報や反移民の陰謀論をより厳しく取り締まるべき SNSは極端にリベラル派の論調が支配的であるため、保守派の論調をより多く取り上げるべき 保革双方に配慮したフェイクニュース検閲を強化しており、法律などによらなくても業界で対応できる
反競争的・
イノベーション
阻害
新たな競合がつぶされ、独占の中で革新も生まれないため、AT&Tなどのように企業分割が必要 垂直統合がユーザーに利益をもたらしており、イノベーションは活発。企業分割は必要なし 垂直統合がユーザーに利益をもたらしており、イノベーションは活発。企業分割は必要なし
社会的責任の
負担欠如
低賃金の労働者に食っていける給料を支払わないため、多くの従業員が食料購入補助金や医療保険助成など血税から出た保護の支給を受けている。待遇と地位と賃金の改善を求める 最低賃金引上げを消極的に支持(一部は反対)。労働者の自助努力を強調。ベーシックインカムについても、積極的な支持は少ない。寄付や投資形式の社会貢献を支持 アマゾンなどによる最低賃金の引き上げ。ベーシックインカムの導入議論。ビル・ゲイツ・元マイクロソフトCEOによる「ロボット税」の提言。寄付や投資形式の社会貢献

(リベラル派に近い立場は青、保守派に近い立場は赤で表す。
IT大手の「外国の政治介入やフェイクニュース」に関しては、リベラル派・保守派とは異なる見解を示しているため緑で表している)
 リベラル派と保守派の見解の違いの根底に見えるのは、テクノロジー企業のガバナンスと自浄能力を信頼するか、しないかという根源的な考え方だ。

 そうした対立の中で見えてくるのは、米国で根強いIT企業への「信頼」「やさしい眼差し」であり、近未来的に米国では欧州型の規制が実現することはないという現実だ。

【次ページ】規制はやむなしだが「欧州型規制」には反発、カリフォルニア版GDPRが争点に
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