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驚異的なスピードで若年層や中年層の囲い込みに成功した小売の巨人アマゾン。同社は次に中高年層の取り込みを本格化させ始めている。「健康と医療」をキーワードにすると見えてくる、同社の“次の一手”を明らかにしていこう。
ピルパック買収の真の狙いは「高齢者市場への殴り込み」
米国勢調査局によると、米国では2035年に65歳以上の人口と18歳未満の人口が逆転すると予想されるなど、高齢化が急速に進んでいる。高齢者人口は2016年推計の4920万人(総人口比15.2%、ちなみに日本は2017年推計で3514万人、総人口比27.7%)から、2035年には7800万人、そして2060年には9470万人(総人口比23.5%)と、1億人に迫る。
ここにビジネスチャンスを見い出したのが、若年層と若い中年層をしっかりと押さえたアマゾンだ。ゴールドマン・サックスの2017年の
分析では、同社のユーザーの半分以上が19歳から44歳の世代であり、囲い込みは最終段階に来ている。この「アマゾン主力」世代は一般的に健康で医療支出も少ないのだが、45歳を過ぎると医療支出が加速度的に多くなる。
そのためアマゾンは、手始めに中高年層の支出で大きな割合を占める処方薬市場を押さえる意図を持って、オンライン処方薬局「ピルパック」を約10億ドル(1,100億円)で買収した。
ピルパックでは1日に服用する複数の錠剤を一包化して、わかりやすい説明とともに届けるサービスが好評だ。主要顧客層は、医療支出が増え始める40代半ばが中心であったものが、最近では50代半ばへと移ってきている。
当局の買収認可があれば、今年後半には年間5600億ドル(約64兆円)規模の米処方薬市場に、アマゾンの強力な武器である「送料無料のプライム」と組み合わせた形で殴り込みをかけるだろう。
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また足腰が弱く“買い物弱者”とも言えるお年寄りは、処方薬だけでなく、同時に一般薬や健康関連商品もアマゾンで買い物をするようになるとの読みがある。市価より約2割も安いアマゾンPB市販薬の「ベーシックケア」の解熱鎮痛剤、消化薬、アレルギー薬、発毛剤なども同時に伸びそうだ。
スマートスピーカーは高齢者の心をつかむため?
アマゾンは7月に、「ユーザーがどこにいても、人工知能(AI)アシスタントのAlexaを使えるようにする」との目標を掲げたが、これはスマホやパソコンのリテラシーが低めの中高年層に、操作が簡単な同社スマートスピーカーの「Amazon Echo」を使って注文を出してもらえるようにする狙いもある。
アマゾン傘下となるピルパックで購入した処方薬の服用時間や服薬方法を思い出させてくれる音声通知を、Echoから「声がけ」することも考えられる。米国では処方された薬剤の50%について「忘れた」などの理由で医師の服薬指示が守られていないため、治療の効果低下が懸念されている。この面で、Echoによる医療改善に期待がかかる。
2017年4月~6月期に76%のシェアを誇ったEchoの市場占有率は、2018年4月~6月期に41%まで縮小している。だが、同期間中に16%から28%までシェアを上昇させたグーグルの「Google Home」に猛追されながらも、健康分野で差別化ができる可能性がある。
こうした中アマゾンは8月に、Echo向けアプリ開発者への報奨金を支払う仕組みを2019年に開始すると発表した。中高年にも使いやすいアプリの充実を狙う。
加えてアマゾンは、以前グーグルでGoogle Glass等を開発してきたババク・パービズ氏を、医療テクノロジーや老いに関する特別プロジェクト担当の副社長として迎え、中高年層向けの商品やサービス開発に注力している。
パービズ氏は2月に行った講演で、「高齢者の健康分野で、多くの課題と満たされていないニーズがある」と指摘。「彼らはますます寂しく孤独に感じている」と述べ、Alexaを搭載したEchoを老人の寂しさを紛らわす話し相手として位置づけた。孤独は身体的疾病につながりやすいことが報告されており、Alexaが話し相手として高齢者の健康増進に役立てるのか、注目される。
また、高齢者向けEchoの使い方としては、車いすの高齢者がテレビや電灯の操作をAlexaに指示したり、緊急時に親族に助けを求めたり、忘れっぽくなった人が、「レーガンが大統領だったのはいつ?」など、認知補助に使う場面などが想定されている。
このような場面の積み重ねから信頼を得て、高齢者利益団体であるAARP(旧称は米国退職者協会)などとも協力しながら、アマゾンの商品やサービス販売拡大につなげる考えをパービズ氏は示唆した。
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