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大手町・丸の内・有楽町エリアを歴史と未来が共存する地域として再構築を進めている三菱地所が、サービスロボットへの取り組みを加速させている。同社はさまざまな人や企業が集い交流する街を「オープンイノベーションフィールド」と位置づけ、先端技術実証の場としてビルなどを提供し、有用性や実用化のハードルについて検証を進めている。ロボット導入も世代の管理手法を追求する一環であり、施設運営・管理業務へ組み込み、課題を洗い出しながら人との連携を探っている。背景には人手不足社会到来への危機感がある。自らも運用しながら実用的なロボット開発を積極的に進めていく三菱地所は、ビルオーナーであると同時に管理者であるが故の強みを持っている。現場を持っている、現場を知っているという強みだ。ロボット事業の責任者である三菱地所 ビル運営事業部 兼 経営企画部 DX推進室 統括の渋谷一太郎氏に話を伺った。
「現場で使わないと課題は見えてこない」
まずは三菱地所によるロボットへの取り組みをざっと振り返っておこう。
三菱地所は2018年4月には丸の内仲通りでセグウェイを使ったコンシュルジュサービスを実施。同時に新丸ビル地下1FではALSOKの警備ロボット「Reborg-X(リボーグ・エックス)」を立哨(一定の場所に立っての監視)に導入した。5月にはオフィス共用部での清掃にソフトバンクロボティクスのスクラバー型掃除ロボット「RS26 powerd by BrainOS」や日本信号「CLINABO(クリナボ)」など清掃ロボットを導入して検証を行った。
さらに6月には自律移動型の警備ロボットを開発中の明治大学発のベンチャー・SEQSENSE(シークセンス)に5億円を出資し、三菱地所が運営管理するビルその他への導入や外販を進めると発表した。
9月には横浜ランドマークタワーでSEQSENSE社の警備ロボットや、各社清掃ロボット、そしてフランスEffidence社の「EffiBOT(エフィボット)」やドイツDeutsche Post AG 社の「PostBOT(ポストボット)」などの運搬ロボットなどを施設運営管理に導入するための実証実験を行った。
横浜ランドマークタワーではこのほか、69階の展望フロア等に日立のコミュニケーションロボット「EMIEW3(エミュースリー)」を4台導入して12月から運用している。「EMIEW3」は主にインバウンド対応を目的としている。また、福岡で2018年11月に開業した「MARK IS 福岡ももち」にも運搬ロボット「Effibot」を導入して、ビル館内の荷さばき場からテナントへの運搬業務の効率化を図っている。ちなみにEffibotは300kgまで運搬可能で人の追従などが可能だ。
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このほか、2019年1月には、ソフトバンクロボティクスの乾式清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」を約100台、大手町パークビルや空港などに4月以降に導入する予定だと発表し、各種清掃ロボットや運搬ロボットをプレスに披露した。渋谷氏は会見でも自ら清掃ロボットを操作して披露していたが、実際にロボットの効果も、自身で検証しているという。
「Whiz」については、もともとスクラバー機の「RS26 powerd by BrainOS」を通して頭脳である「BrainOS」の性能については把握していたことに加え、ソフトバンクロボティクスから試作機を先行で借り受けて「1週間、深夜も含めて使い倒した」。そして「使える」と判断した。
「本当に必要としているのはオーナーであり管理会社である我々です。どういうロボットであれば実際に使えるのか。我々が本当の現場で実際に使ってみないと課題は見えてきません」(渋谷氏)
今はより効率的に清掃を行うために、どう組み合わせるかを検討しているという。
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スクラバーの清掃ロボットもさまざまなタイプがある。床材による得意不得意もあれば、隅の掃除が得意な機種もあるし、短時間で掃除ができる機種もある。搭乗式でティーチングができるものもあれば、マッピングには人が必要なものもある。特徴は本当にロボットによってさまざまであり、清掃会社も「何だかよくわからないから様子見」ということになってしまいがちだ。
それを渋谷氏らは同社のさまざまなアセットを使って、どの機種の掃除ロボットがどこに適用できるのか、実際に見極めようとしている。
「これなら空港の大空間、あっちはオフィスのエントランス、タイルカーペットならこちらと。一つのロボットで全部できるわけではありません。特徴と強みを把握した上で、適材適所で使っていくことが必要です」
2019年1月に集めた清掃ロボットは、それまでの1年間で情報を集め続けた中で、本年度中に購入あるいはレンタル契約に至る可能性が高いと思っているものだという。
現場を知るからこそできる「適材適所」
三菱地所は2027年度に常盤橋で竣工する「
東京駅前常盤橋プロジェクト 」を進めている。丸ビル3棟分の巨大ビルを建てる計画だ。ただでさえ人不足の現在、今後は「ロボットが当たり前のように業務の一端を担ってもらわないと運営管理を続けることは難しい」と考えているという。
「我々の本業は建物オーナーですが、完工した後の施設の運営管理も大きな側面の一つです。特に警備・清掃業務は人手に頼っていた部分が多い。現場からはすでに『人が集まらないのでコストアップしてください』、あるいは『もう受けられません』という話もちらほら出てきています。それが徐々に増えてきています。徐々に人手不足が顕在化しているんです」
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一方、冒頭で述べたように三菱地所では新事業創造を掲げており、さまざまな最新テクノロジーの情報が集まっていた。その中で、最新のロボットが以前よりも性能が上がると同時にコストが低下していることを知っていた。そこで、他社に先駆けてロボット活用を進めはじめたというわけだ。
はっきり言って、現時点ではコストが見合わないものもあるが、実際に運営管理の中に入れてみたときにどうなるのか試してみようとしている。実証実験を行う中でさらに情報が集まるようになり、コストや性能もより明確になってきたという。
渋谷氏は「我々の強みは現場を知っていること」と言い切る。管理会社や警備会社からの生の声を聞いており、その中で、色々なロボットをその場その場のニーズに合わせることで使えるようになるのではないか、ロボットで人の作業の補完をする仕組みがあったら、「みんなにとってウィンウィンなんじゃないか」と考えるようになったという。
前述のように現在のロボットは1台で何でもできるわけではない。一方で、ロボットのほうが人よりも得意な業務もある。繰り返し作業や大面積の横移動を伴うような作業、あるいは認証などの作業だ。それらの作業をほかのIT技術と組み合わせながら、適材適所に活用していく。
たとえば警備業務も監視カメラが得意なところと移動ロボットが得意な領域は異なる。
渋谷氏は「ロボットのレベルが変わっていくことで、設備側が考える要件も変わって来るのではないか」と語る。たとえば自律移動ロボットを使うことで監視カメラが不要になる場所も出てくるかもしれない。そうすればカメラのアップデートなどのコストを抑えることができる。
また既存業務を見直すことで、ロボットに向いている巡回箇所を任せるように巡回ポストを変えることで省人化も可能になるかもしれない。「我々が目指しているのは、ロボットのレベルが上がったことを前提としたトータルの施設管理の効率化です。その一端として、ロボットに得意なことをやらせようとしているわけです」。ロボット活用の余地は多くの施設にあると考えているという。
掃除ロボット導入も一気に業務用機にいったわけではない。まずは近年急激に高性能化してきた家庭用ロボット掃除を共用廊下で試してみたそうだ。その中で業務としてロボットを運用する上での課題を発見し、確認した上で、より大型のロボット掃除機導入へと進んでいった。
運搬ロボットも実際の移動性能・追従性能を、人が行き交う空間の中で実際に確認をしてから導入した。「自律移動を正確に、安く行うことが一番難しいんです。移動しなければできない業務は清掃や巡回警備、搬送だと考えています」。ロボットなら何でも検討するわけではない。
三菱地所がSEQSENSEを選んだ理由
SEQSENSEへの出資も自らのニーズに合ったロボットを提供するためだ。SEQSENSEのロボットはレーザーセンサーを使った独自の3DSLAM技術によって自己位置推定と環境地図作製を同時に行いながら自律移動できる。
そして「ロボットにとって必須の自律移動性能を持った上で、どういう機能が必要なのかを現場レベルで確認して、本当に使えるロボットを開発できる一番の相手はSEQSENSEさんだと判断した。『使えるコスト』で出せそうだというところで優位性があると思っています」(渋谷氏)。開発者たちとも日々やり取りをしており、同社のロボットは毎週進化しているそうだ。
2019年度中に大手町・丸の内・有楽町エリアで実導入し、その後徐々にビル数を増やし、ほかのアセットにも広げていく。「色々な施設で活用してみて、現場からの情報を吸い上げる。そしてロボットメーカーと一緒に、どういうところを改善すると使えるものになるのかを見極めて、ロボットメーカーにもフィードバックを返していきたい」。
将来的には警備会社大手の現場力とSEQSENSEのロボットを組み合わせて活用したり、移動技術自体はほかの用途にも使えるのではないかと考えている。
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【次ページ】ロボット活用を前提とした新たな施設管理ソリューションとは
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