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「テスラが直面する課題は生産地獄から物流地獄に移った」。米電気自動車大手テスラの「お騒がせ」最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は9月16日、同社の生産の問題が解消されたとの認識をツイートした。だが、その根拠は示されず、一部投資家やアナリストはマスクCEOの主張に疑いをいだく。そこで出番となるのが、テスラ出荷場の衛星写真のデータ解析だ。この分野で急成長する米国シカゴのRSMetrics社のトップにインタビューし、データ解析の驚くべき進歩とイノベーションに迫る。
「衛星写真」で経営を見通す、画期的なビジネスモデル
テスラのマスクCEOは、経営に関する発言が二転三転するため、信用を失っている面がある。
2018年4~6月期の3カ月間に、お手軽価格の電気自動車(EV)「モデル3」を約20,000台製造する目標を立てたが、生産が大幅に遅れて達成が危ぶまれていた。マスクCEOは、そのうち5,000台を6月最後のたった1週間で生産しなければ、公約違反になる窮地に立たされた。
株式が公開されているテスラの株主やライバル企業、さらには投資アナリストやメディアまでもが、マスクCEOの言葉だけではなく、事実をリアルタイムで確認する必要に迫られていた。後の決算発表で「実は、達成できていなかった」というサプライズで慌てたり、損失を被りたくないからだ。
そこで投資家の依頼を受けたのが、RSMetrics(RSメトリックス)だ。決算発表の前に業績が知りたい投資家や、ライバル企業の生産や集客状況を知りたい経営陣などに衛星写真の分析データを提供するという、大変面白いビジネスモデルを持つ会社だ。
米ヘッジファンド大手や米金融大手に対してコンサルティングを行っていたトム・ダイアモンド最高経営責任者(CEO)が2009年に創業したテクノロジー企業だ。ダイアモンド氏に話を聞いた。
“空”から判明した、テスラの生産体制
──テスラは実際に目標を達成したのか。
ダイアモンド氏:『モデル3』を4~6月期に重点的に見てきたが、ほとんどの期間にわたってほぼ生産できておらず、「目標達成は難しい」と見ていた。だが、6月最後の2週間で急激に生産がアップして、目標としていた台数をギリギリのところで達成できたのが、写真の解析で観察できた。達成はできたのだが、テスラにとっては大変困難であっただろう。
──どのような方法で生産台数を確認するのか。
ダイアモンド氏:人工衛星を活用したリモートセンシングを行う米
デジタルグローブ(DigitalGlobe)が撮影して販売する画像を使っている。高解像度で地上の35センチメートルの物体が確認できる。
特にテスラに関しては投資家の関心も高いので、衛星写真に加えて飛行機から撮影した航空写真も使用している。
カリフォルニア州フリーモントにあるテスラの工場の場合は、航空写真のほうが安くつく。航空機なら日中夜間いつでも極めて解像度の高い撮影ができるので、週3回から5回、上空を飛んで写真を撮影する。これらを総合的に分析して、生産台数を正確に割り出せるのだ。
──具体的な分析の方法は。
ダイアモンド氏:データ解析は、全世界に配置されたデータアナリストと人工知能(AI)で行う。上空からの写真を精査し、「ドアハンドルがどこについているか」「車長はどれくらいか」など車両のデータと突き合わせ、テスラが製造する別々の車種である「モデルX」「モデルS」「モデル3」が、AIでも正確に識別できる。
出荷場に停車している車両が数日間そこに置かれたままの同じものか、あるいは入れ替わった新しい車両なのかもわかる。弊社は出荷のペースまで把握できるのだ。
──モデル3の4~6月期以降の生産台数は安定しているか。
ダイアモンド氏:今四半期(7~9月期)は、正確な生産台数を見るだけではなく、「突然、生産台数が20%も増えた」「今週は30%も下がった」など、生産状況の推移に注目している。
──(副社長のアレックス・ダイアモンド氏が9月6日に米Foxビジネスニュースに語ったところによると)
フリーモント工場の南出荷場では8月2日に屋外で約600台のモデル3が確認され、屋内にさらに推定600台の合計1200台があった。ところが、8月23日には屋外のモデル3の数が減り、8月30日には屋外の台数が約300台と再び増加している。
これは、テスラの生産が安定していないことを示唆している。7~9月期に合計50,000台から55,000台のモデル3を生産するという目標は達成するだろうが、スムーズにはいかないと見ている。
また、テスラは週5000台の生産目標を持続的に達成できていない。こうした突発的な生産低下は、生産されるクルマの品質の低下につながるだろう。
ウォルマートやマクドナルドの来客傾向も分析
──業績予測は、どのように導き出すのか。
ダイアモンド氏:重要なのは、我々は衛星写真を売っているのではなく、分析結果とビジネス予測を販売しているということだ。
この事業を始めたきっかけは、ある金融企業からの依頼だ。「買収先となる企業のマレーシア工場が、実際には稼働していない『詐欺案件』かもしれない。調べてくれないか」と。これがきっかけとなり、デジタルグローブの画像アーカイブを利用できる契約を結んだ。
手始めに小売分野でスーパー大手のウォルマート、ホームセンター大手のロウズとホームデポ、ファストフード大手のマクドナルドの駐車場に止まっているクルマの数を分析し、その来客傾向を分析するようになった。
──それで何が判明したのか。
ダイアモンド氏:各地の店舗の来客数推移を分析すれば、それぞれの企業の売上や株価の3カ月先、6カ月先の動きがかなり正確に予想できることがわかった。こうした分析が評判を呼び、投資大手のパイパージャフリーや大手ヘッジファンドが客につくようになった。
最近の成功例を挙げると、スポーツ用品小売大手のディックス・スポーティング・グッズでの5~7月期の駐車場来客が今年に入ってから前年比4%~7%落ち込んでいたことが、弊社の分析で明らかになっていた。8月28日に発表された売上がアナリスト予想を下回ったことが報じられると、株価は9%も下落した。だが、弊社は事前にこうした株価の動きを予想していたのだ。
また、「ウォルマートの駐車場の写真を解析して、ウォルマートに怒られないか」とよく聞かれるのだが、まったくそのようなことはなく、逆に自社の業績が分析・予想できるので、喜ばれている。
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