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多くの企業が自動運転に投資している。自動運転および運転支援システムは、技術が向上すれば、交通事故を減らし、運輸事業者の費用負担を軽減すると見られている。米国のベンチャー企業ナウトは、通信機能を備えたカメラを自動車に設置し、各種の走行データを収集している。このデータは自動運転をつかさどる人工知能の訓練データとして活用できるため、ナウトには自動運転の研究開発を進める大手からの提携話が舞い込んでいる。同社を巻き込んだ走行データの獲得をめぐるトヨタ、BMW、GM、ソフトバンクグループの戦略を見てみよう。
トヨタやテスラが自動運転車に投資する理由
自動車が市民の足になって久しいが、その利用状況は決して理想的とはいえない。WHO(世界保健機関)の調べでは、全世界で毎年130万人が死亡事故にあい、2000~5000万人がケガを負っている。交通事故はどの世代でも主要な死亡原因の1つだ。
その一方、自動車は待機している時間が長いため、経済的な無駄が多い。自動車の利用率は2.5%、さらに、道路の使用率は0.5%に留まるとされる。 交通手段を求めている人が、適切なタイミングで自動車を利用できるようになれば、自動車と道路の利用率が向上し、資源が最適化できる。
交通事故には人災の側面がある。交通事故のうち4分の1は運転手が携帯電話を使用している際の不注意で起きている。よそ見・わき見を含めた不注意運転による交通事故は、衝突事故の68%に達するのだ。
自動運転は、上記のような問題を抱える交通環境を大きく改善する可能性があるため、多くの企業が研究開発を進めている。トヨタを始めとする大手自動車メーカーはもちろん、テスラのような新興企業も多くの資金を投じ、人工知能やセンサー技術などの開発競争を繰り広げてきた。
自動運転の開発にはデータが必要になる。実際の道路で起こるさまざまなケースをカメラで撮影し、その映像を人工知能に読み込ませ、どのような状況でどういう判断を下すべきかを学習させる必要があるからだ。
人工知能が下す判断に99.99%の信頼性を確保するには、1000億マイル(約1600億キロ)の走行データが必要との予測がある。 自動車周囲の映像を連続的に撮影する走行データは、毎秒1ギガバイトに達するため、膨大なデータを収集・蓄積・解析するソリューションが必要とされている。
ナウトは自動運転の安全性を左右する「走行データ」で勝負
こうした走行データの分野で注目されている企業がナウトだ。小さな車載カメラを自動車に搭載し、社内外の様子を撮影して、走行データを収集する。GPSで車両の位置を追跡したり、無線通信で収集したデータをクラウド上に送信したりする高機能なカメラだ。
ナウトが現在サービスを提供する顧客は、配送トラックやタクシーを扱う運輸事業者だ。スマートフォンを使うなどの危険な動作をする運転手に警告したり、対向車・歩行者との衝突リスクを運転手に通知したりといった機能により、事故を未然に防ぐ。
顔認識技術があるため、タイムカードを押さなくても、誰がどのくらい走ったかが分かるというメリットもある。走行データを駆使して、トラックやタクシーの運転手が事故を起こすリスクを判定することもできる。ナウトは運転精度の向上により、交通事故を6割削減すると見込んでいる。
あまり知られていないかもしれないが、実際に起きた事故のうち3/4は警察などに報告されず、当事者間がプライベートに話をつける。さらに、運転手の2/3はニアミスに気づかない。ナウトのサービスは、こうした現状を変える可能性がある。
事故につながるような本当に危険な状況というものは1億マイル(約160億キロ)に一度程度の割合で起きる。 これを変えることで、市民や運転手の安全を守り、運輸事業者の事故による費用負担を低減できる。
【次ページ】トヨタ、BMW、GM、ソフトバンクがナウトに出資する真意
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