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トヨタ自動車が米国の配車サービス大手リフトの自動運転部門を買収する。日本勢は自動運転の分野で出遅れており、中国ではすでに完全自動運転タクシーの商用サービスが始まっている。トヨタはこれまで自前開発を続けてきたが、自動運転システムを海外勢に握られる影響が大きいことを考えると、使えるモノは何でも活用すべきだろう。一方、国内の自動運転ベンチャーであるティアフォーは鴻海精密工業が提唱するEV(電気自動車)プラットフォーム「MIH」に自動運転技術を提供することになった。日本でもようやく自動運転が本格的に立ち上がろうとしている。
中国ではすでに完全自動運転タクシーがスタート
トヨタは2021年4月26日、子会社を通じて米リフトの自動運転部門を5億5000万ドル(約600億円)で買収すると発表した。自動運転部門を丸ごと買収するので、研究者やエンジニアなど人材はもちろんのこと、自動運転システムの開発に何より重要な車両データを獲得できる。今回の買収によってトヨタの自動運転部門の体制は1200名となり、開発のスピードアップが期待される。
自動車産業はEV(電気自動車)化に加えて自動運転システムの導入という、従来では考えられなかったイノベーションに直面しており、100年に1度の変革期を迎えていると言われる。
自動運転が導入された場合、運転中の時間が解放されるため、そこには無数のビジネスチャンスが生まれる。目的地に駐車場がなくても移動が可能となるので、クルマの運用スタイルも大きく変わるだろう。利用に時間差があれば、複数の利用者が1台のクルマをシェアをすることも可能となるため、クルマを所有する人が大幅に減ることも予想される。運送事業者は自動運転の導入によって、ビジネス環境が激変する可能性が高い。
自動運転サービスはまさに宝の山であることから、当該分野にはさまざまな企業が参入を試みている。完成車を製造する自動車メーカーはもちろんのこと、今回、トヨタが部門買収したリフトのような配車サービス企業も開発を行っているし、鴻海精密工業のような製造請負のメーカーや、部品メーカーなども開発を進めている状況だ。
ただ残念なことに日本勢は自動運転の分野では完全に出遅れている。中国ではすでにアリババ系企業が、完全自動運転タクシーの商用サービスをスタートさせているし、同じく中国のライドシェア大手、滴滴出行(ディディ)も、やはり完全自動運転サービスの試験運用を始めている(ディディの場合、安全確保のため人が乗務している)。
米国も商用サービスこそ始まっていないものの、すでに多くの自動運転車が公道を走っており、EV大手のテスラは、ロサンゼルスからシリコンバレー(サンフランシスコ郊外)までの約580kmをほぼドライバーの介入なしで走る動画を公開した。
自動運転の開発は場数が重要
まったく人の手を介さずにすべての運転操作を実施することの難易度は高いので、当然のことながら、実際に公道を走るケースが増えるほど、トラブルの回数も増加してくる。実際、テスラは、自動運転システムが原因なのか今のところ不明だが、自動運転車が木に衝突する事故を起こしている。
しかしながら、自動運転システムが限りなく実用段階に入っているのは間違いなく、その点からすると公道でのテストをほとんど行っていない日本の出遅れが顕著であることは間違いない。
自動運転に限らず、ソフトウェアで制御されるシステムの多くは、技術そのものに加えて経験値がモノを言う世界である。自動運転に関する優秀なソフトウェアを開発することが出来たとしても、実際に道路を走らせて無数の経験を積み、そこで発生した事象をソフトに反映させていくという気の遠くなるような作業を繰り返さなければ、使いモノになるシステムは作れない。
日本では規制の問題から公道テストが難しく、世論も基本的に自動運転に否定的だった。公道テストをたくさん実施できる米国や中国と比較するとその差は日を追うごとに拡大するのは当然の結果である。
【次ページ】トヨタの「リフト買収」という選択は正しかったか?
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