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- 2020/04/28 掲載
トヨタとアップルから学ぶ、アフターコロナの「サプライチェーン新常識」とは
なぜ、サプライチェーンを見直す必要があるのか
これまでグローバルにビジネスを展開する企業は、低コストで効率良く製品を調達できるよう、全世界に広範囲なサプライチェーンを構築してきた。たとえば、自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)は、自動車の生産に必要な10万点の部品を全世界の5500カ所から調達しているという。
ドイツ企業からはシートやクラッチ、窓ガラス、照明などを、スウェーデン企業からは過給器など、ベルギー企業からはタイヤのホイールなどを調達している。また、中国やメキシコから届く部品も多く、電子モジュール、バッテリー、スイッチ類、ホーン、ケーブルなどは中国企業、シートベルト、オーディオ、アンテナなどはメキシコ企業から調達している。このほかスペイン、ブラジル、韓国、インド、カナダなど、自動車生産におけるサプライチェーンは多岐にわたる。
メーカー本体に直接製品を納入する、いわゆる一次サプライヤーがどのような場所に生産拠点を構え、物流網がどうなっているのか把握するのは容易だが、一次サプライヤーに部品などを提供する二次サプライヤー以下になると、最終製品を製造するメーカーもすべての状況を把握するのは困難といわれる。
全世界で新型コロナウイルスの感染が拡大した場合、各地で物流の混乱や工場の操業停止といった事態が発生するが、サプライチェーンを100%把握できなければ、具体的にどのサプライヤーが影響を受けるのか事前に予測するのは難しくなる。
こうした事態を回避するためには、可能な限り製造拠点を近隣に集約するという方法がある。
トヨタ自動車は、日本の自動車メーカーの中でも国内生産比率が高い部類に入るが、本体やサプライヤーの工場は中京地域に集約化されている。最近でこそ、東北や九州にも製造拠点を構えたが、基本戦略は地域集約と考えて良いだろう。トヨタは良い意味でも悪い意味でもグループ各社の結びつきが強いので、かなり広範囲にサプライヤーの調達状況や物流について把握しているはずだ。
一方で、拠点集約をやり過ぎると、今度は当該地域の経済がマヒした際の影響が大きくなるという欠点があり、一概に地域集約すれば良いというわけにはいかない。
だが、今回の新型コロナの感染拡大が、各社のサプライチェーンに大打撃を与えたのは事実であり、複雑になりすぎたサプライチェーンの見直しが進められる可能性は高いだろう。
生産拠点は分散すべきか、集中化すべきか? 最適解とは
グローバルなサプライチェーンの見直しは当然、電機業界にも及ぶことになる。とりわけ全世界から部品を調達し、かつ全世界に製品を出荷しているアップルのような企業への影響は大きい。アップルの主力商品であるiPhoneの大半は、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が製造を請け負っている(工場の多くは中国本土)。だが、鴻海は最終製品の組み立てを行っているだけで、製品を構成する部品はさまざまな国・地域から調達している。特に多いのが台湾、日本、米国、そして中国である。小規模なところも含めると、iPhoneの製造には40以上の国が関与しているともいわれる。
製品の中核となる半導体については米国製が多いが、開発に携わるエンジニアが米国にいるとは限らず、イスラエルなど各地に散らばっている。また、製品の製造は台湾メーカーが請け負っているケースが多いので、米国メーカーの製品だからといって、米国を中心にモノが動いているとは限らない。
アップルはサプライチェーンのリスクについて強く認識しており、調達網の多様化を検討してきた。実際、一部製品の生産をベトナムやインドなどに移管する試みも行っているが、現状を大きく変えるのは難しいとされる。
世界でもっとも多くのスマートフォンを生産する韓国のサムスン電子も、生産拠点の中国依存を見直すため、ここ数年ベトナムやインドなどへの拠点分散を進めてきた。当初、ウイルスの感染は中国に限定されるとの見方が強く、サムスンへの影響は軽微と思われたが、感染が全世界的に拡大したことから、結局はサムスンもサプライチェーンの寸断が懸念される事態となっている。
拠点を集約化すれば、一極集中のリスクが高まり、拠点を分散すると、今度はサプライチェーン全体のリスクが高まってくるので、最適解を見つけるのは極めて難しい。
【次ページ】アフターコロナの世界で起きる、サプライチェーン変革とは
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