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- 2020/03/04 掲載
【新型コロナ】世界を襲う“共倒れ”の脅威、サプライチェーンの歯車が狂ったら…?
世界の産業は米国と中国が回してきた
2020年1月の段階では、大規模な感染は中国国内に限定されると考えられていた。中国では工場の操業停止や物流網の寸断といった事態が発生していたが、中国国内での感染が収束すれば、元に戻るという楽観的な見方も多かった。だが隣国の日本や韓国で事実上、封じ込めに失敗したことから、全世界的に感染が拡大するリスクが懸念され始めている。経済のグローバル化によって、1つの製品が最終出荷されるまで、多くの国を経由することが当たり前の時代となった。全世界的に感染が拡大した場合、同時多発的に工場の操業停止や物流の混乱が発生するとともに、人の移動そのものが減ってしまうため、グローバルなサプライチェーンが機能不全を起こす可能性が出てくる。業種にもよるが、こうした非常事態に備え、ある程度の在庫は確保しているはずだが、感染が長期化するとその効果もなくなってしまう。
基本的に世界の産業は、米国と中国を中心に回っていると考えて良い。米国の2019年における国内総生産(GDP)は約21.3兆ドルもあり、米国の旺盛な消費が世界の需要をリードしてきた。
この莫大(ばくだい)な需要に対して、大量のモノを提供してきたのが中国である。中国のGDPは14.2兆ドルまで拡大しており、米国に次ぐ規模になっている。一方、欧州も全体では中国を超える規模(18.7兆ドル)があり、消費国として各国から製品を受け入れる一方、ドイツのように高付加価値製品を米国などに輸出する工業国という側面も持つ。
かつては日本が今の中国の役割を果たしていたが、相対的な地位低下によって、日本は中国とドイツを補完する位置付けになりつつある。加えて東南アジア各国が急成長してきたことから、中国経済との連携性が高まっている状況だ。東南アジア5カ国(インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム)を合算したGDPは2.6兆ドルで、日本の半分の水準に達している。
中国が世界のハブになっているという現実
では、これらの地域間におけるモノの流れはどうなっているだろうか。世界最大の消費国である米国は、中国から年間5,400億ドルの製品を輸入している。欧州からは4,890億ドル、日本からは1,440億ドルを輸入している。一方、米国は中国に対して1,200億ドルを輸出しており、欧州には3,200億ドル、日本には760億ドルを輸出している。記事冒頭の図は、世界全体の貿易を模式的に示したものだが、巨大な消費市場である米国とそれに準じる欧州市場に対して中国が大量の製品を供給する図式になっている。日本から中国に輸出された部品類についても、中国の工場で製品として組み立てられ、最終的には米国や欧州に輸出されるケースが多い。日本は米国との貿易額よりも中国との貿易額の方が大きくなっており、俯瞰(ふかん)的に見た場合、日本は東南アジア各国と同様、すでに中国経済の影響下に入っている。
整理すると、高度なデバイスなどを製造する日本、アセンブリを行う中国、低付加価値の部材を供給する東南アジアという3つの経済圏が連携し、米国や欧州に大量の製品を出荷している。米国と欧州の間にも大規模な輸出入があるが、航空機、自動車、ブランド品、食材などが中心であり、アジア圏のサプライチェーンとは質的に異なる。
汎用(はんよう)的な工業製品に絞った場合、中国は製造拠点という意味でも、貿易の中継地点という意味でも世界経済の中心といって良いだろう。
ここで新型コロナウイルスの感染が拡大した場合、各地で工場の操業停止や人の移動の抑制、物流の停滞などが発生する。
個別の業界ごとに動きはさまざまだろうが、もともと中国で感染が拡大したことや、日本や韓国、タイなどアジア地域で感染が拡大しているという現実を考えると、中国を起点にしたサプライチェーンへの影響が大きいと考えるのが自然だ(図の赤い枠)。さらにこの範囲に含まれる貿易の中で金額の大きいところが要注意ポイントということになる。
対象範囲の中で輸出入の金額が大きいのは、中国から米国への輸出(5,400億ドル)、中国から欧州への輸出(4,280億ドル)、中国から東南アジアへの輸出(3,590億ドル)ということになる。
米国や欧州は中国から安価な製品を大量に輸入しているので、もし中国での生産や物流が停滞した場合、自国産あるいは中南米などからの輸入に切り替えることになる。自国産しか選択肢がない場合には、物価の上昇が進む可能性があるが、低付加価値な工業製品の場合、消費者の生活における緊急性は低いので、多少の時間的猶予があるだろう。
【次ページ】日本への影響は?
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