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公開以来リーピーターも続出するほどの人気の「シン・ゴジラ」ですが、公開2週目で累計動員数145万人、累計興行収入21億円を突破し、全国映画動員ランキングでも2週連続でトップとなりました。公開前の評判は決して芳しいものではなかったものの、公開後の感想が評判を呼び、劇場ではパンフレットが売り切れになっているそうです。さまざまな切り口で語ることができる点が魅力の「シン・ゴジラ」ですが、ここではゴジラに象徴される「危機」に対して、組織はどう対応するべきかという「危機管理」の面から論じてみたいと思います。
※この記事を読んだあとでも十分に楽しめると思いますが、一部ネタバレを含んでいますのでご注意ください。
シン・ゴジラがヒットする理由は、恋愛要素やタイアップ曲の採用、人気アイドルが主役を演じるなどの「邦画のセオリー」を排した作りだったり、庵野秀明総監督が影響を受けたさまざまな作品からのオマージュが盛り込まれているなど、ゴジラファンにとどまらずに特撮ファン、映画ファン、アニメファンが満足するような内容だったことがあげられます。
また、政府の対応や自衛隊の装備、作戦進行などが極めてリアルで、公務員などの行政関係者やミリタリーファン、そして鉄道ファンなど細部までチェックしたい人々も唸らせるほどのリアリティを追求した内容だったということも一因でしょう。「無人在来線爆弾」などは、命名センス含めて鉄道ファンならずとも痛快なシーンでした。
非常にリアリティあふれるシン・ゴジラからは学ぶべきことは多いですが、今回はゴジラに象徴される「危機」に対して、組織としてどう対応するべきかという「危機管理」の面からの学びを考えてみたいと思います。
備えていないことには対応できない
(映画ではなく)現実の世界で、国土交通省 東北地方整備局が発行した「東日本大震災の実体験に基づく 災害初動期指揮心得」の冒頭には、「備えていたことしか、役には立たなかった。備えていただけでは、十分ではなかった。」とあり、危機管理においては対策すべき危機の事前予測と、準備、対応シナリオの設定および訓練が重要とされています。
シン・ゴジラの劇中での官邸の閣議では、金井内閣府特命担当大臣(防災担当)が、巨大不明生物の出現を「想定外の事態だ!」とうろたえ、その後も「想定外だ」と繰り返します。実際これはやむを得ないことで、そこには圧倒的なリアリティが存在しています。
一方で、郡山内閣危機管理監は、すぐさま「駆除」か「捕獲」か「湾外に追い出す」かなど基本方針を提示して対応すべきと進言します。さまざまな意見が出ますが、やがて被害が広がり、駆除すべきという方針に固まっていきます。郡山は、その後も避難計画の立案を実行を指示したり、官邸からの総理の避難を進言するなど危機管理面でとるべき選択肢を首相に提示します。
大企業や政府組織など大きな組織では、担当者の独断で決められることは少ないですし、問題が大きくなるほど上位の判断、決済が必要となります。そして、時として不都合な事実から目を逸らしてしまいがちになってしまうのです。
ゴジラが東京湾に現れるというのは、通常では予期し得ない災害で備えるのは困難ですが、その場合でもすぐに大枠の基本方針を提示して行動に移るのは大事なことでしょう。
危機管理においては、「最悪に備えよ」とか、「絶望的に準備して、楽観的に対処せよ」という格言がある通り、現況下で考えられる最悪の事態を想定して、その準備をすることが望まれます。その点においてはシン・ゴジラに登場する内閣では、各省庁の利害や責任の所在を曖昧にしたいなどの思惑などにより、初動においては最悪の事態を避けてしまい、対応が後手後手に回ってしまった印象を与えています。
初動において組織立った対応ができたのは、自衛隊でした。防衛出動が決定した直後から、陸海空3自衛隊の統合運用を前提とした駆除作戦を立案。即応可能な対戦車ヘリで対応にあたります。ヘリの出動に際して志願者を募るかという指揮官に対して「ローテ(ローテーション:当番)で行きます」と答えるヘリ部隊の隊長の言葉からも常に備えてきているという自信と覚悟が伺えます。
統合運用というのは、陸海空の3自衛隊が有事に際しては連携して防衛するという考えで、実際に自衛隊では統合運用を前提にした訓練なども行っています。実際に8月末に行われる陸上自衛隊の「富士総合火力演習」においても、陸海空の統合運用に基づくシナリオで演習が展開される予定です。
また、最終決戦に際しては、国連軍による核攻撃と、「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」による凍結作戦の2パターンが用意されました。凍結作戦(矢口プラン)の効果が不確実な状況では、核攻撃もやむなしという雰囲気に傾きつつありましたが、効果が見込まれることが確認できると一転して核攻撃の中止を各国に求めてゆきます。
タフな相手とどうつきあってゆくか
シン・ゴジラでアメリカは同盟国でありながらも、無理難題を押し付けてくる面倒な相手として描かれます。大統領は姿を見せず、電話で要求を伝えるだけで、大統領特使として石原さとみ演じるカヨコ・アン・パタースンが派遣されてきます。
対応を押し付けられたのは主人公である矢口内閣官房副長官(政務担当)ですが、一方的に要求を押し付けてくるカヨコに対して見返りは何か?と尋ねます。その後も機密文書なのでコピーはできないということに対して、写真は撮れるので対策チームで共有しますと返すなど、できない約束はしない誠実さと、自分たちが危機に立ち向かっているのだという状況を理解させます。
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