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寄贈活動で浮き彫りになった、「課題だらけ」の日本の防災
自治体では防災予算の不足や、隣接する地域との連携不足が課題として挙げられ、一方で民間企業では自治体との協力方法が分からず、単独での取り組みに終始しがちだ。
このような状況に対し、災害対策における新しい視点を提供することを目指しているのが、システム大手の大塚商会である。そもそも同社が災害対策分野に注力する契機となったのは、2021年の創立60周年を記念した寄贈活動であった。
大塚商会 トータルソリューショングループ 新規ビジネスプロモーション課の上級課長、和田力氏は、次のように振り返る。
「当社が60周年を迎えた2021年は、コロナ禍という非常事態でもあり、より具体的な社会貢献は何かを模索しました。そして、まずは災害対策設備に特化した寄贈を行うことで、日本の災害大国としての現実に向き合うことにしました」(和田氏)
寄贈活動を通じて浮き彫りになったのは、自治体が地域単位での災害対策にとどまり、隣接地域との連携が不十分という現状であった。
たとえば、高知県は東西に地理的に広がる特徴を持ち、一部地域では愛媛県との連携が必要だが、それが十分に実現していない。この問題に対処するため、大塚商会は自治体間の情報共有や災害時のスムーズな連携を促進する仕組みの必要性を痛感したという。
「私たちの寄贈活動を通じて、地域間の災害対策における連携不足が課題として浮き彫りになりました。そこで、自治体や民間企業が協力し合い、災害時に迅速かつ的確に対応できる体制を構築することが重要だと考えたのです」(和田氏)
能登地震でも活躍、確信した「連携する仕組み」の必要性
また、2024年1月に発生した能登半島地震の際には、前月に四国に寄贈していた水循環型シャワーシステムが被災地の避難所で活用され、被災者から高い評価を受けた。
「災害時、飲料水は比較的早く集まりますが、風呂や手洗いといった日常の生活用水は後回しにされがちです。このような課題に着目し、私たちは現場で役立つ設備の提供を心掛けています」と和田氏は強調する。
寄贈活動を通じて一層明確となったのが、災害対策における情報共有の重要性であった。同社はこれを受け、避難所設備の稼働状況や消耗品の在庫を一元管理し、自治体間での情報連携を可能にする仕組みの開発に乗り出した。
こうした社会貢献事業は、大塚商会にとって新しい分野に挑戦するきっかけにもなった。同社は2023年7月、和田氏が率いる新規ビジネスソリューション課を立ち上げた。
「これは当社の歴史上初めての試みであり、従来の事業の延長線上ではなく、未踏の領域への挑戦を目指しています。その第1弾が、一連の災害対策への社会貢献活動です。自治体と民間企業が連携したBCP(事業継続計画)の実現を目指し、地域社会全体で災害に立ち向かえる仕組みを整備していきたいと考え、開発したのが『みえーるプラットフォーム』です」(和田氏)
IoT技術を活用、避難所のあれこれを見える化・一元管理
その最大の特徴は、避難所の状況を地図上で視覚的に把握できる点だ。避難所ごとの満室状況や空き状況は色分けされ、アイコンをクリックすることで詳細な情報が確認できる。
たとえば、避難所のレイアウトや備蓄品の在庫状況がひと目で分かるため、迅速かつ的確な対応が可能となる。また、気象庁の災害情報と連携しており、リアルタイムで最新情報を確認できる点も大きな魅力である。
「災害時には地域ごとに分散して避難所が存在することになりますから、それぞれの状況を自治体が把握するのは困難です。それがこのプラットフォームにより各地の避難所の状況を一元的に把握できるようにすることで、自治体の災害対応能力を大幅に向上させることができます」(和田氏)
「みえーるプラットフォーム」は、IoT技術を活用することで多様な機能を提供している。その1つが、前述した避難所や備蓄品の状況を遠隔地から管理できる機能だ。備蓄品の在庫状況や消費期限を一元管理することで、適切な災害対策が可能になる。また、物理的な鍵のリモート管理も実現しており、避難所の施錠や解錠を遠隔で行えるため、運用の効率化に大きく寄与する。
さらに、ロボットやタブレットを利用した避難所受付や、顔認証技術を活用した安否確認も可能だ。避難者への情報提供にはAI機能を活用しているため、省人化にも貢献する。
このように、災害対策における現場のさまざまなニーズを組み入れた「みえーるプラットフォーム」は、すでに高知県や愛媛県など13の市町村で導入されており、1500カ所以上の避難所と連携している(2025年2月時点)。
また、「みえーるプラットフォーム」は、自治体に限らず、企業での利用においても大きな効果が期待できる。たとえば、ドラッグストアチェーンをはじめとする多店舗展開を行う企業では、複数拠点の備蓄品や設備状況を一括管理できるため、災害発生時の迅速な意思決定と対応が可能となる。
柔軟性や拡張性の高さも「みえーるプラットフォーム」の大きな特徴の1つだ。将来的には、マイナンバーと連携することで避難者情報のより精密な管理を目指しているという。また、ロボット技術との連携も進めており、避難所での受付や配膳、清掃業務を自動化することでさらなる効率化を図ることが期待できる。
「自治体では担当者が頻繁に変わるため、属人化しない仕組みを構築することが重要です。このプラットフォームは、災害対策に関する情報を自治体間、さらには地域企業とも共有することで、持続可能な防災体制を築くための基盤となると確信しています」(和田氏)
災害時だけでなく「日常的な価値」も
たとえば、災害時に使用するシャワー設備を、地域のイベント時に活用するケースが挙げられる。このような多用途利用が可能な仕組みによって、設備の有効性を高めるだけでなく、住民や関係者に日常的な価値を提供することも目指しているのである。
「平時からしっかり活用できる災害対策ソリューションを提供することで、災害時だけでなく日常的な利便性の確保にも貢献していきます」と和田氏は語る。
また、同社の活動が自治体との連携をさらに強化している点も注目に値する。現在、高知県を中心とした12の市町村の首長が災害対策に関する協定を締結しているが、大塚商会が地域連携のハブとして機能しているのである。
「ちょうど最近、高知県知事からも直接感謝の言葉をいただくとともに、今後は県からの積極的な協力も得られる見込みとなりました。これからも地域社会全体で防災力を向上させる取り組みを進めていきたいと思います」(和田氏)
「守りの地方創生」だけでなく「攻めの地方創生」を
「日本の未来のためにも地方創生は欠かせません。災害対策は、いわば“守りの地方創生”と言えます。いつ発生するか分からない災害に対する守りの施策であるため、予算確保が難しい部分があります。それを支援するのが私たちの使命だと認識しています。さらに、将来的には、“攻めの地方創生”のニーズにも応える準備を進めているところです」(和田氏)
社会との共存共栄を目指すミッションステートメントを掲げ、新たな価値創出に挑戦している大塚商会。未踏の分野で社会貢献を果たしつつ、新たな事業を創出していく姿勢は、これからの日本企業にとって欠かせないものと言えるだろう。
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