いすゞ自動車に抜かれた？「日産」の時価総額

　2024年10月上旬、「日産自動車の時価総額が日系メーカーで6位に転落」というニュースが話題となりました（1位からトヨタ自動車、本田技研工業、スズキ、SUBARU、いすゞ自動車、日産自動車）。

　時価総額でいすゞ自動車に抜かれてしまうのは1980年以降で初めてと言います。ちなみに、1980年当時のいすゞは、現在のように商用車中心といったラインナップではなく、「ジェミニ」などのヒット車を筆頭に、一般向けに数多くの乗用車も販売していました。

　その後、株価は盛り返し、日産は時価総額で5位に上昇していますが、かつて時価総額で見れば上位を維持していた日産は、なぜ低迷しているのでしょうか。

大手自動車メーカーの時価総額（10月22日時点）
順位	社名	時価総額（億円）
1	トヨタ自動車	40兆1,429
2	本田技研工業	8兆5,464
3	スズキ	2兆9,576
4	SUBARU	1兆9,688
6	日産自動車	1兆5,602
5	いすゞ自動車	1兆4,758
7	マツダ	6,662
8	三菱自動車	6,019
9	日野自動車	2,640

株価低迷の理由は？ ある対処策が招いた「利益圧迫」

　その最大の理由とされているのが、米国市場での採算の悪化です。具体的に、日産の米国市場の成績は、どの程度のものであったのでしょうか。

　日産が2024年7月に発表した、「2024年度第1四半期決算」の数字を見ると、2024年4～6月の北米における小売販売台数は、32万3000台で、前年比マイナス1.7％の微減でした。ちなみに、グローバルでの販売台数はマイナス0.2％です。

　また直近、10月2日に米国で発表された業績を見ると、2024年7～9月の販売台数は前年比マイナス2.2％でした。


　これら販売台数だけを見ると、“微減”が目立ち、大きく悪化しているようには見えません。それでは、何が問題になっているのかと言うと、米国内のディーラーに対して支払う「販売奨励金（インセンティブ）」が上昇したことで、営業利益が大幅に減少している状況があるのです。実際に、2024年7月の決算でも日産は、「在庫が予想以上に増え、下期に向けた在庫レベルの正常化のため販売奨励金を増やしている」と説明しています。

　この販売奨励金とは、自動車メーカーが、クルマの販売会社に対して、1台販売するたびに支払う奨励金です。一部、報道によると業界平均は1台あたり3,100ドル強もあると言います。仮に1ドル150円で換算すれば、1台あたり46万5,000円も販売会社に支払っていることになります。

　なお、この奨励金が、販売会社の実質的な値引きの原資となります。販売奨励金が多くなれば、ディーラーなどの販売会社はクルマを値引き販売しやすくなり、消費者はクルマを購入しやすくなります。これが販売台数を伸ばすための特効薬となっているのが現状です。

　販売台数を伸ばす効果もある販売奨励金ですが、今回のようにその金額が大きくなりすぎると、利益の圧迫を招くことになります。同社の株を購入する投資家にとっては見逃せない問題になるわけです。さらに、中長期的な視点で見ると、販売奨励金を増やし、安売りを増やすと、より大きな問題を抱えることになるリスクがあるのです。 【次ページ】「負の連鎖」抜け出せる？ ある対処策が招くヤバすぎる副作用