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熱烈なファンを多く抱え、自動車業界でも孤高のポジションを築いている「SUBARU(以下、スバル)」。2017年にクルマの完成検査の不正が発覚し、そこから厳しい経営状況が続いていましたが、それでも着実に進めてきた体質改善の効果が表れ、復活の兆しが見え始めています。
そうした中、2023年の春に社長交代が発表され、新たに「強気な目標」がいくつか掲げられました。これら計画は実現可能なのでしょうか。新体制下のスバルを見ていきます。
10年で約2倍? スバル急成長の時代
直近10年のスバルの取り組みを振り返ると、良いことも悪いこともたくさんありました。まさに山あり谷あり、波乱の10年と言えるかもしれません。
良かった取り組みとしては、2011年に就任した先々代社長の吉永泰之氏の下で、スバル(当時の社名は富士重工業)は大きく業績を伸ばしました。
吉永氏の下でスバルは、中期経営計画として「Motion V」(2011年)、「際立とう2020」(2014年)を打ちたて、米国市場への注力、軽自動車のOEMへの切り替え、風力発電や特装車の事業移譲などの業務の整理を行い、販売台数を伸ばしていきます。
具体的には、2011年に約62万台だったスバルの年間生産台数を「2020年に年間120万台に伸ばす」という目標を掲げ、その結果、2016年には約105万台にまで生産台数を拡大しています。つまり、当時のスバルは10年で2倍の規模に拡大しようと考えていたわけです。そうした勢いの中で2017年には、社名を富士重工業からSUBARU(スバル)へと変更しています。
転落からの「復活劇」、着実に進めた体質改善の内容
しかし、急激な成長は、どこかに無理があったのかもしれません。2017年秋に大問題が発覚します。作り上げたクルマの完成検査で不適切行為が行われていたことが明らかになったのです。そのけじめとして、経営トップの吉永泰之氏は2018年春に辞任。海外営業を担当していた中村知美氏に後を託すことになります。
その先代社長となる中村氏は、2018年に中期経営計画「STEP」を発表します。「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUづくりの刷新」を重点課題とし、質的な成長を目指したのです。
これまでの量的な成長を目指す中で、おろそかになっていた“質”を高めようという方針に切り替えていったのです。「失った信頼を回復する」といった狙いが見て取れる計画だったと言えるでしょう。
そんなスバルにさらなる試練が襲い掛かります。コロナ禍です。2016年に105万台を超えた年間生産台数は、コロナ禍の終盤となる2021年には72万台規模にまで激減。10年前の水準にまで落ち込んでしまったのです。
しかし、コロナ禍の中でも、中期経営計画「STEP」によるスバルの体質改善は着々と進んでいました。2021年5月に発表した「STEP2.0」では、「品質改革は着実に進捗している」としつつ、主戦場となる米国において2011年から2020年にかけて9年連続での前年越えを達成していたことを発表しています。
米国市場でのシェアは2.09%から4.2%にまで上昇していたのです。そして、コロナ禍が沈静化を見せた2022年には、前年比プラス20%の年間生産台数約87万台にまで復活します。そして今年2023年度は、101万台の販売を予測しています。現状は復活の途上にあると言えます。
そんな上向きの流れの中で、2023年春に新しく就任したのが大崎篤氏です。大崎氏は車両開発担当のPGM(プロジェクトゼネラルマネージャー)を経て、直近10年ほどは品質保証を担当した人物です。同氏は、この後、スバルをさらに飛躍させることができるのでしょうか。
【次ページ】新体制の逆転戦略(1):BEVのえげつない生産計画の全貌
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