「負の連鎖」抜け出せる？ ある対処策が招くヤバすぎる副作用

　そして、もう少し引いて見ると、さらに大きな問題が存在します。それがブランドイメージの悪化です。

　販売奨励金を使った拡販というのは、言ってみればバーゲンセール。これが続けば、そのブランドは当然、“安売りするブランド”として認識されることになります。そして、そのイメージが定着してしまえば、「次に買うときも安売りするはず」「定価で買うと損をしたような気分になる」といった認識を消費者は持つようになるわけです。

　また、安く買ったクルマは、当然、下取りに出すときも安くなります。そうなれば、再販売される中古車も安い値段となります。最初に販売奨励金を使って値引きしたことで、下取りも安くなり、中古車も安くなり、ブランドイメージも安くなるという、負の連鎖に陥ってしまうのです。

　そのため販売奨励金は少ないにこしたことはありません。こうした負の連鎖を招く可能性があるならば、「販売奨励金は増やさなければ良い」と思うかもしれませんが、販売奨励金なしでは売れないという現実もあるのです。

　つまり、販売奨励金（＝値引き）を増やしているにも関わらず、直近の日産の北米市場の販売台数が増えるどころか“微減”になっているのは、「値引きナシでは“微減”どころではない」という現実を示唆しているのです。こうした厳しい状況の中、販売奨励金を増やしている、というのが、今の日産の苦しい現状と言えるでしょう。

　では、この先の日産は、まったくもって先がないかと言えば、そうでもありません。

見限るのは早すぎ？ 日産逆転は全然あり得る理由

　2024年3月に日産が発表した中期経営計画「The Arc」では、2026年度までに北米に7車種の新車を投入すると言います。単純計算で、1年に2台を超えるペースです。また、米国の乗用車モデルラインナップの78％を刷新するとも言っています。まさに新車攻勢を行うと予告しているのです。そうした先に、営業利益6％を目指すとしています。

　日産の経営陣も、当然、販売奨励金が多いとダメなことは理解しています。そして、それを覆すのは、値引きなしでも売れる魅力的なクルマであると考えているのです。そのため、今年7月の決算発表でも「モデル攻勢によって、下期に販売の質を改善する」と説明していました。

　苦しい状況ではあるけれど、それを打破するための新型車を着々と用意しているというのが今の日産です。今の苦境で日産を見限るのは、時期尚早。2026年までの新車ラッシュの結果を待って、それから判断すべきでしょう。

（参考文献一覧）

• 日産グループ、2024年第3四半期の米国販売を発表.NISSAN MOTOR CORPORATION USA NEWSROOM.2024年10月1日.
  https://usa.nissannews.com/en-US/releases/nissan-group-reports-2024-third-quarter-us-sales
• 日産自動車、価値・競争力・収益性を向上させる経営計画「The Arc」を発表.NISSAN MOTOR CORPORATION USA NEWSROOM.2024年3月25日.
  https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/240325-02-j