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  • 2025/04/09 掲載

検証:テクノロジーが架ける2027年への橋──新時代のシステムはAI×ハイブリッドクラウドが鍵

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「2025年の崖」──かつて経済産業省が「DXレポート」で警鐘を鳴らしたデジタル変革の分岐点となる年が、ついに訪れた。実際に企業のDXはどの程度進み、ITシステムはどのように変貌を遂げたのだろうか。また、ChatGPTに代表される生成AIのビジネス活用は、企業をどのように変えたのか。「2025年の崖」の現在地と、崖を越えた先にある未来像について、日本アイ・ビー・エム(IBM)の技術リーダー3名に話を聞いた。
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「2025年の崖」の現在地と、AIとハイブリッドクラウドによる「2027年への架け橋」

クラウドとメインフレームによるハイブリッドクラウドが大多数

 2018年経産省の「DXレポート」で指摘された「2025年の崖」では、以下の2つの課題が示されている。1つは「既存システムがブラックボックス化しデータが活用できないため、DXが進まない」点であり、2つ目は「2025年でIT人材不足が17万人から43万人に増える。古いプログラム言語人材の供給が困難になる」点だ。

 こうした課題の現状、つまり“崖の現在地”について、日本アイ・ビー・エム コンサルティング事業本部 CTO 執行役員 IBM フェロー 二上 哲也氏は「企業のDXは、当時想定されていた以上に進捗していると思います。企業のITインフラは、いまやクラウドとメインフレームなど既存基幹システムの共存であるハイブリッドクラウドが大多数を占めています」と話した。

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日本アイ・ビー・エム
コンサルティング事業本部 CTO 執行役員 IBM フェロー
二上 哲也氏

 変更頻度や柔軟性を重視するシステムはクラウド移行が大きく進んだ。一方で、メインフレームのデータ活用についても課題と指摘されていたが、二上氏はこの点について「安定性やバッチ性能を重視する基幹システムはメインフレームに残し、変更頻度の高いシステムはJavaやPythonで再構築し、クラウドとデータ連携する手法が一般化してきています」と述べる。実際にIBMでは、既存システムのデータをクラウドで活用するソリューションが整備され、大手金融機関や製造業での採用が進んでいるという。

 たとえば、金融機関向けには「金融次世代勘定系ソリューション戦略とロードマップ」として体系化。メインフレームを活用しつつ、マルチプラットフォームに対応し、ハイブリッドな基幹系システムを目指している。システムを全面刷新・移行するリビルドやリホストと比べ、低コストで低リスクかつ早期にDX戦略を実現するもので、実際に同ソリューション戦略とロードマップに基づき、日本IBMは、三菱UFJ銀行のアーキテクチャー戦略の実現を支援している。

 また、三菱UFJ銀行、およびインターネットイニシアティブ(IIJ)との協業のもと、「既存の共同化の枠組みを超え、地域金融機関向けに新たに『金融ハイブリッドクラウド・プラットフォーム』の提供を開始」している。

人材不足解消に「IT変革のためのAIソリューション」を整備

 また2022年11月にOpen AIが発表した「ChatGPT」以降、企業では生成AIのビジネス活用が進んでいる。そこで、AI活用を踏まえた先進ITのアーキテクチャーを、IBMは「AI時代のアーキテクチャー」として整備、発表した。(詳細は後述。)

 たとえば、生成AIの活用で重要性が高まる「基幹システムに蓄積されたデータの活用」については、「デジタル統合ハブ(DIH)」による基幹データのシステム連携が挙げられる。DIHは、基幹系システムとクラウド上のデジタルシステムをつなぐデータ連携基盤だ。

 具体的にDIHはオープンソースのKafkaを活用し、DB2やIMSなどの基幹データをリアルタイムに蓄積・キャッシングし、クラウドへ供給する仕組みを提供する。二上氏は「オンプレミスやクラウドの双方に対応し、メインフレームのデータをフロント側へ容易に供給できます。さらに、RDBや階層化DBのデータもクラウドへ移行できる特徴があり、基幹データのデジタル活用を促進します」と説明した。

 また、二上氏は、COBOLなど既存システムを担う人材不足の問題についても、AIなどのテクノロジーで解消の方向にあるとする。みずほ情報総研による「IT人材需給に関する調査」によると、従来型のIT人材不足は2026年ごろにはほぼ解消される見通しだ。

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COBOLなどの人材不足も解消の方向に
(出典:「IT人材需給に関する調査」(経済産業省、みずほ情報総研)https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

「以前は、企業のCOBOL言語ができる人材が定年退職を迎えて減少していく懸念がありましたが、定年延長などの施策や、COBOL人材の育成についても、金融や製造業などで進んできていることも背景にあります」(二上氏)

 しかし、先進IT人材不足の課題は依然として残っている。そこでIBMでは、「IT変革のためのAIソリューション」を整備し、基幹システム含め、AIなど先進技術を活用しITのスピードや品質の向上を実現するソリューションの提供を開始した。

 たとえば、「コード生成のためのAI」では、生成AIとさまざまなテクノロジーを融合・最適化し、基幹システムを含むシステム構築効率化を実現する。二上氏は、「生成AIとローコード開発等のテクノロジーを最適融合し、開発ライフサイクル全体を効率化することや、COBOL言語やPL/I言語で開発された既存システムの分析や、基盤コード生成などにも対応します」と話した。

「1年前くらいには、COBOLやPL/Iといった基幹系のコード生成率はよくて4割くらいの精度であったが、今はかなり改善され、9割以上の精度でコードを生成できるようになりました。AIがプログラミングをしてくれる点で、人材不足の課題解決に貢献すると思います」(二上氏)

 例えば、トヨタシステムズでは、アプリケーション開発、運用、モダナイゼーションに生成AIを活用してコードや仕様書生成の実証実験を行い、業務適用を開始している

生成AIの活用は次なる段階へ

 多くの企業で生成AIの活用が進んでいる。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX動向2024」によれば、2023年度(令和3年度)において生成AIの導入は19.2%まで進み、利用検討まで含めると6割近くに達していることがわかった。

 日本アイ・ビー・エム コンサルティング事業本部 ハイブリッドクラウド・サービス担当CTO 技術理事 久波 健二氏は、「IBMが国内のトップ企業を対象に行った生成AI活用状況の調査では、AIガバナンスやデータ・マネジメント、アプリケーション開発、インフラ・プラットフォーム、AIモデル利用・管理の5つの全てのドメインにおいて、2024年は概念実証(PoC)の実施から本番適用に向けた横展開の段階に移行しつつある状況です」と話した。

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日本アイ・ビー・エム
コンサルティング事業本部 技術理事
久波 健二氏

 生成AI活用の成熟度として「生成AIの本番導入を開始している段階で、3年後をメドに全社標準化に向けて取り組みを進める段階にある」ということだ。生成AIをビジネスとして全社展開する「次の段階」に進めていくためには、「生成AIの特性へのさらなる理解」と「AIガバナンスの確立」が重要なポイントとなる。

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生成AIの活用は次なる段階へ

 「生成AIの特性へのさらなる理解」について、久波氏は、「生成AIを本番活用するには、日々進化するモデルの品質維持が重要です」とする。生成AIは技術革新により日々の機能拡張(例えば生成AIの基盤モデルのバージョンアップ)や参照するデータの増加や変更により結果が変わるため、安定した品質確保の方法が求められる。

 また、既存の基幹システムとAIの連携も課題であり、データの受け渡しやフィードバックの仕組みが必要となる。さらに、システム開発においても従来のヒト駆動開発(人手による作業を単にAIへ置き換えること)だけでなく、今後はAIならではの特性を活かして自律的にAIが判断し開発を行う「AI駆動開発」への移行が重要になってくる。

 久波氏は「現時点ではシステム開発では要件定義をもとに生成AIがコードを生成し、従来の設計・開発プロセスを効率化する形が主流ではあるが、今後はAIの自律かつ高速な処理特性を活かし、作業ごとに細かい成果のチェックを簡素化し、最終的な実施結果を見ながら、必要に応じて要件を補正し繰り返し洗練する手法が普及していくでしょう」と説明した。

 一方、「AIガバナンスの確立」については、「共通インフラの整備とガバナンスの確立が、AIの適切な活用には不可欠です」と久波氏は話す。今では誰でも容易にAIを使用することができるため、「企業内でどこまで共通化・標準化し、どこから個々のプロジェクトの業務チームに裁量を持たせるかが課題となる」ということだ。

 また、社外向けサービスでは品質管理が厳格に求められるため、AIが誤作動を起こさないための「AIガードレール」の確立が求められている。さらに、倫理や品質基準の策定も重要であるため、「外部のガイドラインを参考に、企業内でAI活用ガイドラインの整備し、本番運用を行う企業も出てきつつある」と久波氏は話した。

 また、生成AIの活用が進み、ヒトとAIの関係も変わっていく。これまでのように、ヒトが作成したプロンプトの要求に応じて単一のタスクを実行し、ヒトの作業を支援する「AIアシスタント」から、ヒトに代わり複雑な作業を自律的に考え行動する「AIエージェント」へのシフトだ。

 久波氏は、「自然言語による指示のもと、これまでの自動化の範囲を超えて複雑なタスクが実現できます」と話し、さらにその先には、複数のAIエージェント(マルチエージェント)を使い分けるAIオーケストレーター機能を配置し、より複雑なタスクを実現する研究が進んでいるとした。久波氏は「将来的には、AIエージェントとヒトの双方のタスクを対象として実行計画を策定し、作業管理を実施するような世界も考えられます」と話した。

 IBMでは「AIによる作業支援から、ヒトとAIの共創」を提唱しており、「これからのAIは、ヒトの指示に従い、ヒトの作業を支援(アシスト)するAI機能から、ヒトに代わり複雑な作業を自律的に考え行動し、さらにヒトと共創(コワーク)するAI機能に発展すると考えている」ということだ。久波氏は、「AIがヒトと分担して一緒に作業し、ヒトができない作業をAIが従事するだけでなく、タスク・マネジメントもAIが担当することで、ヒトはこれまで成し得なかった目的を達成することができるようになるでしょう」と話した。

全社最適にデザインされた「ハイブリッド・バイ・デザイン」に移行

 AI時代の企業ITインフラのアーキテクチャーは、メインフレームをはじめとしたオンプレミス環境とクラウドが共存しつつ「個別最適化されたハイブリッドな環境(ハイブリッド・バイ・デフォルト)ではなく、全社最適にデザインされたハイブリッド環境(ハイブリッド・バイ・デザイン)に移行していくでしょう」と久波氏は話した。

 これは、ビジネス上の優先事項を達成するために、企業の製品やサービス自体を中心に考え、その強化およびビジネス拡大に向けて、意図的にアーキテクチャーを構築する考え方だ。

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ハイブリッド・バイ・デザインの必要性

 これを実現するのが「あらゆる場所にAI」があることを前提に、ヒトとAIが融合する時代に対応するアーキテクチャーであり、2027年に向けて描いた上述の「AI時代のアーキテクチャー」の姿だ。

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次世代アーキテクチャーの推移

 このアーキテクチャーにより、フロントサービス、デジタルサービス、ビジネスサービス、共創/外部連携のあらゆる領域(場所)にAIが組み込まれ、従来の枠を超えた共創や、新たな体験の実現を加速していくことが可能だ。

 久波氏は「例えばUXデザインと開発チームが一体となって連携し継続的な改善サイクルを実現することや、社内外のアプリケーション連携の全社横断プラットフォーム、データとAIの活用を促進する全社データ基盤とガバナンスなど、さまざまな能力がハイブリッド・バイ・デザインの適用により実現されます」と説明した。

 さらに、このAI時代のアーキテクチャーは各業界で利用が可能だ。共通編に加えて金融や保険、自動車、エレクトロニクス、素材など、主要11業界向けにラインナップされているため、「それぞれの業界独自の動向や商慣習などの仕組みを踏まえた上で、お客様がハイブリッド・バイ・デザインに取り組めるようになっている点が大きな特徴です」と久波氏は話した。

「AIによるシステムのブラックボックス化解消」でメインフレーム共存も加速

 今後は、基幹システムとクラウドなどの新しいシステムが共存するハイブリッドクラウドの世界が加速していく。日本アイ・ビー・エム テクノロジー事業本部 テクニカル・リーダーシップ事業統括 執行役員 大久保 そのみ氏は、「システムのブラックボックス化も、AIなどで解消の方向にあります」と説明した。

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日本アイ・ビー・エム
テクノロジー事業本部 テクニカル・リーダーシップ事業統括 執行役員
大久保 そのみ氏

 IBM Zは、「大量処理の同時実行」と「安定性」が求められる企業の基幹業務を担うメインフレームとして、約60年にわたり、止められないシステムに採用されてきた。大久保氏は、2024年に IBM Telum IIプロセッサーとIBM Spyreアクセラレーターが発表された点を挙げ、「システム全体での処理能力を大幅に拡大するように設計され、新しいAIのアンサンブル・メソッドにより、従来のAIモデルと大規模言語AIモデルの併用を加速していくことが可能です」と話した。

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IBM Zはハードウェアとしても進化を続けており、ロードマップも3世代先まで公開されている

 こうしたハードウェアとしてのIBM Zの進化に加え、「AIによるシステムのブラックボックス化解消」のポイントがある。基幹システムは、長期間使うためロジックが複雑になりブラックボックス化 (中身が把握できない状態) することもある。また、さまざまな要件をシステム化していく中でいわゆるスパゲッティーコード (処理の構造が把握しにくい状態) になって複雑化しているものもあり、「基幹業務は企業のビジネスの源泉そのものなので、丁寧に可視化して、進化させていく必要がある」と大久保氏は指摘した。

 「IBM watsonx Code Assistant for Z」は、IBM Zのコード分析が可能な機能だ。AIによりサブルーチンのコールグラフが可視化され、既存のシステムを理解する仕組みが提供される。大久保氏は「こうしたAIの力を借りることで、現行システムを理解しつつ、複雑化、ブラックボックス化したコードをリファクタリングする支援も可能だ」とし、AIの力を借りながら「メインフレームとクラウドの両方を使うハイブリッドクラウドは、今後も増えていくでしょう」と話した。

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「IBM watsonx Code Assistant for Z」はメインフレームCOBOLアプリケーションのモダナイゼーションを支援する

 その上で、IT変革のためのAIが当たり前の時代に、企業に向けたメッセージとして、大久保氏は「ゼロからすべてを作る必要はなく、すでにあるテクノロジーや経験知、ソリューションを有効活用してほしい」と呼びかけた。

「知見がまったくなかった数年前と比べ、さまざまな領域、ユースケースに対応可能な知見やテクノロジー、ソリューションが提供されつつある今、企業は自社のビジネス課題や強みを理解し、すでにある経験知やソリューションをうまく活用しながら、AI活用による価値創出を進めていってほしいです」(大久保氏)
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