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EV(電気自動車)大手の米テスラが厳しい状況に置かれている。最新モデルの量産に手間取ったところに、リコール問題が発生。株価が一時、急落するという騒ぎがあった。その後、株価は持ち直したが、一部の機関投資家からは今後の経営について不安視する声も上がっている。テスラの現状について探った。
マスク氏は強気の姿勢を崩していないが…
テスラのCEO(最高経営責任者)を務めるイーロン・マスク氏は4月1日、ツイッターで突然、「テスラは破綻した」とつぶやいた。もちろん、これはエープリルフールなのだが、常に強気の姿勢を崩さないマスク氏ならではの発言といってよいだろう。なぜなら破綻は冗談にしても、テスラは今、かなり厳しい状況に置かれており、市場から厳しい視線が注がれているからだ。
最新の「モデル3」は当初、2017年7月に量産を開始する予定だったが、何度も延期を繰り返し、ようやく6月末に出荷できる見通しが立った。量産開始が遅れている最大の理由は、組み立て工程の不具合である。マスク氏は、今回のモデル3から、ロボットをフル活用した量産体制の構築をもくろんでいたが、ラインの立ち上げが思うように進まなかった。
こうしたところに今度はリコール問題が発生。主力車種である「モデルS」のボルトに腐食が発生する恐れがあり、2016年4月以前に製造した12万3000台についてリコール(回収・無償修理)を実施することになった。
不具合そのものはボルトに関する軽微なものであり、経営に深刻な影響を与えるほどのものではない。だが、量産化が遅れ、投資家のいら立ちが高まっていたところに、リコール騒ぎになったのはタイミングが悪かった。エープリルフールのツイッターでは、破綻と書かれた段ボールをまとい、モデル3に横たわる自身の写真を掲載している。これは逆風に負けないという、マスク氏の意思表明と考えてよいだろう。
しかしながら、同社がこれまでになく厳しい状況に置かれているのは事実であり、一部の機関投資家は経営の継続性について疑問視する声を上げている。実際のところ同社の経営はどうなっているのだろうか。
巨額のキャッシュが流出している
2017年12月期における同社の売上高は117億5800万ドル(約1兆2500億円)と前年比で68%も増えており、売上高は急拡大が続いている。だが、売上高に比例するように赤字も拡大している。営業損失は前期比で約2.5倍の16億3000万ドル、純損失は19億6000万ドルに達した。
テスラの原価率(全部門)はもともと高いが、前期と比較すると77%から81%に上昇しており、さらに儲かりにくい体質となった。加えて、開発費や販売費が急増しており、これが赤字を増やす原因となっている(
図1)。
同社の負担はそれだけではない。最新設備を備えた工場への設備投資負担がかなり重くなっているのだ。
2016年12月期における同社の設備投資額は12億8000万ドルだったが、昨年は一気に増えて34億ドルを超えた。一部の市場関係者は、マスク氏が理想を追い求め、あまりにも高度な自動生産ラインを開発していることが、問題を大きくしていると指摘している。
営業上の赤字に加え、高額な設備投資資金を捻出する必要があり、同社は財務的にかなり苦しくなっている。設備投資で失われたキャッシュとほぼ同じ金額分だけ、同社の長期債務は増加している。つまり多大なキャッシュアウトのほとんどは借金でまかなっていることになる。
本年度も前期と同額の設備投資が計画されており、このままでは同社の資金が枯渇してしまう。苦肉の策でひねり出したのが、同社が保有する車両リース債権の証券化である。
テスラの車両は価格が高いので、リースになるケースも多い。テスラを購入する層はそれなりの所得があり、テスラのリース債権は投資家にとっては魅力的な存在といえる。これを証券化すればテスラにキャッシュが入り、リース料は投資家が受け取るスキームが成立する。
【次ページ】EVが当たり前になると逆にテスラは不利になる
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