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実業家のイーロン・マスク氏が自動運転車やロケット事業の次に変革を目指しているのが、人型ロボット(ヒューマノイドロボット)の領域です。2022年にプロタイプの「Tesla Bots:テスラボット(通称、Optimus:オプティマス)」を公開し、世間を驚かせました。ただ、人型ロボットの領域では2000年のホンダ「ASIMO」を皮切りに、長年研究開発が進められており、人型ロボット自体は決して新しいものではありません。だとすると、Optimusがここまで注目された理由はどこにあるのでしょうか。本記事では、Optimusとはどのようなロボットなのか、Optimusに類似する人型ロボットにはどのような種類があるのか解説します。
Optimusとは? どんな人型ロボットを目指してる?
Optimusとは、自動運転車で知られるテスラが開発する2足歩行型の汎用人型ロボットです。一般的に「人型ロボット」という呼称が使われる場合、その意味は「2本の腕を持つロボット(指の本数は問わない)」「顔や容姿が人に似ているロボット(能力は問わない)」などの文脈で使われます。
このため、人型ロボットと呼ばれても、人間と同じことができるロボットとは限りません。しかし、Optimusは「2腕、2足、5本指、頭部を持つロボット」であり、人間と同じタスクをこなせる汎用の人型ロボットを目指しています。人型ロボットが目指す場所としてはある種の理想形で、危険な作業や退屈な単純作業など「人間がやりたがらないあらゆる作業を行うロボット」とされています。
形状の異なるブロックを手で掴んで移動させるOptimus
しかし、類似の汎用人型ロボット研究はほかにもありますし、2023年の時点ではOptimusの基本能力自体は実用レベルには達していません。成果として示されているのは「周辺環境を認識して歩行する」「自分の手足を認識して物を掴む」「片足で身体のバランスを保つ」「道具を使う」といった内容で、わずかな期間で高い水準に達していることはたしかですが、同じレベルのプロジェクトはほかにも存在しています。
それでは、なぜOptimusは注目されているのでしょうか。ほかの人型ロボットとは何が違うのでしょうか。
Optimusが注目される「5つの理由」
色々な理由が考えられますが、Optimusが注目されている理由は大きく分けて下記の5つです。
- (1)イーロン・マスク氏に、圧倒的な実績とネームバリューがあったこと
- (2)量産の時期と価格の目標を明確にし、それが従来の常識を超えていたこと
- (3)先進的な電気自動車の技術を応用したハードウェア技術を利用していること
- (4)大規模な機械学習システムを導入し、行動のほとんどを「機械学習のみ」で最適化していること
- (5)プロジェクト発足からのロボットの成長速度が早い
まず、世界でも類を見ない事業を数多く成功させているイーロン・マスク氏のネームバリューが影響していることは否定できません。その中身がどんなものであれ「あのイーロン・マスクが人型ロボットを開発する」という話題性だけで、注目を集めてしまいます。
生成AIで1分にまとめた動画
さらに、マスク氏が最初に掲げた目標値が従来の常識を大きく超えていた点も重要です。2023年11月の時点で量産化についての発表はありませんが、2021年の時点で「2023年には量産を開始したい」と語っています。価格についても目標として2万ドル(300万円)としており、これは既存の産業ロボットよりも安価です。あくまで理想的な目標とはいえ、実現すると社会が短期間で大きく変革するような数値目標と言えます。ただし、発表の翌年には軌道修正し、販売開始を2025~2027年と見積もっています。
ここまではマスク氏の発信力によるものですが、Teslaの持つ自動運転車の技術もおおいに活用されています。
たとえば、人型ロボットの手足を駆動させるアクチュエーターは、手足に組み込めるほど小さく、かつ高出力なものでなければなりません。自動運転車に使われているモーター技術などを応用し、テスラは数百キロのグランドピアノを軽々と上下させられるほどの小型アクチュエーターを開発しました。既存の人型ロボットの荷重が良くて20~30キロであること鑑みればかなりの出力です。ただし、ロボットに組み込むと指や関節の耐久性の影響を受けるため、実際に持ち運べる重さはかなり小さくなるでしょう。
小さなアクチュエーターがグランドピアノを上下させる(動画45:12)
また、ハードウェアだけではなく、ソフトウェアにも特徴があります。テスラは自動運転車培った機械学習の技術を応用し、ロボットの動作のほとんどを機械学習で最適化しています。
たとえば、人間の動作をモーションキャプチャーで学習し、同じ動きができるようにロボットを制御します。この手法は最近では珍しくありませんが、既存の人型ロボットが多かれ少なかれ従来型の制御が含まれている点を鑑みると、ほとんどの制御を機械学習だけで行っているという点は新しい試みと言えます。
さらに、テスラは「Dojo」と呼ばれる機械学習向けのスーパーコンピュターを開発し、自動運転車やロボットの機械学習に活用しています。
人間の動きをベースにロボットの動きを学習させていく(動画55:00)
結果として、Optimusは2021年に発表されて以降、過去に類を見ないスピードでロボットの能力が成長しています。
2022年のプロトタイプである「Bumble C」では、障害物を避けながら歩いたり、荷物を運ぶのが精一杯でした。しかし、2023年には高度な片足でのバランス感覚を獲得し、滑らかな動きで物をつかみ、道具を使いながら複数のロボットで連携ができるまでになっています。
複数のOptimusがOptimusを組み立てる
さらに、Optimusはソフトウェアだけではなく、ハードウェアの面でも進化を続けています。2023年12月には「Tesla Optimus Gen 2」が発表され、従来よりもスムーズな動きが可能になっただけではなく、指先の触覚センサーを含めた新しい知覚機能を搭載するようになりました。
TeslaではGen 2は実用レベルに達したと判断しており、実用化を目処に入れたテストも開始するとしています。人型ロボットのトップレベルの水準に達したとは言えないものの、2年足らずでそれに匹敵するレベルになりました。
このロボットの「成長速度」については、世界的に見てもトップレベルの水準と言っても過言ではないでしょう。
Tesla Optimus Gen 2
Optimusの類似の人型ロボット事例10選
Optimusは話題性には優れているものの、どちらかと言えば後発の人型ロボットです。また、Optimusを正しく評価するためには、ほかのロボットについても知る必要があります。
人型ロボットは2000年に登場したASIMO(本田技研工業)に始まり、この20年の間に数々の人型ロボットが登場しているので、代表的な物をいくつか紹介していきましょう。
事例(1):Atlas(Boston Dynamics)
人型ロボットとして、Optimusと並んで有名なロボットがBoston Dynamicsの「Atlas」かもしれません。
Atlasは飛び跳ねるように不安定な地形を移動し、バク宙などのパルクールを成功させる高い運動性能を誇ります。また、腕のアタッチメントを変更することで、木材や荷物を運ぶのはもちろん、投げるような受け渡しも可能です。単純な運動能力だけ見れば、Optimusとは比べるべくもありません。
そのため、一見すると人型ロボットならAtlasに任せれば何でもできそうですが、アクロバティックな動きを成功させるには1つひとつの動作をしっかり教え込む必要がありますし、5本指で繊細な作業を行う能力はまだありません。ハードウェアの面では人型ロボットの中でも最高峰の性能を誇る「Atlas」ですが、ソフトウェアの面ではまだ少し課題がありそうです。
事例(2):Digit(Agility Robotics)
Optimusよりも早く量産体制を確立させつつある人型ロボットがAgility Roboticsの「Digit」です。Digitは2足2腕の人型ロボットではあるもののトリ型の関節を採用しており、人とは異なる歩き方をしています。
そして、これには理由があります。二足歩行のエネルギー効率はトリ型骨格のほうが優れていると言われており、Agility Roboticsのトリ足型ロボットのプロトタイプ「Cassie」は、2足歩行ロボットとしては世界最速の100メートル24.73秒の記録を保持しています。
足を折りたたんで車内に収納されるDigit
すでにアマゾンの倉庫での試験運用が始まっているほか、合理的な設計で生産性も高いことから、2023年9月に世界初の量産施設を開設し、2023年中に操業を開始する予定です。
トリ型関節のDigitが物を認識して所定の場所へ運ぶ
さらに、2024年には一部の顧客向けにDigitの完成品の提供を開始し、2025年には一般向けにも販売するとしています。価格は不明ですが、価格次第では最も商用的な成功が近い人型ロボットと言えます。
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