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- 2012/02/13 掲載
【花王 元CTO 村田守康氏】日本が誇るフェロー・CTOに学ぶノウハウ定義書~ 「危機感を基に自ら課題を考える」
アタック、ヘルシア緑茶、クイックルワイパーを生み出した元CTO [フェロー・CTOインタビュー 第2回]
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Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp/rd_dc.html
「R&Dダイレクトコミュニケーション推進会議」は、対面型コミュニケーション、ITを用いた遠隔地間の双方向コミュニケーションを活発化させ、研究開発部門の知的生産性を高める活動を推進しています。ダイレクトコミュニケーションは、研究所の、風土改革、オフィース改革、研究所の新設・改造を通じて達成します。
<推進会議メンバー>
株式会社コクヨ、日揮株式会社、株式会社アクト・コンサルティング
危機感が自ら課題を考える原動力となる
――花王時代には、次々と大型商品を開発されてきました。これらの業績を得るために、日ごろ常に意識して実践してこられたことはあるのでしょうか。
【村田守康氏(以下、村田氏)】 危機感が原動力になっています。たとえばアタックの場合、当時主力の衣料用洗剤のシェアは、同業他社より低く、低迷していました。研究開発として、洗剤に使われる界面活性剤の改良や様々な添加剤の工夫などいろいろな対応をしていましたが、競合他社もモノこそ違え、同様の改良をしていましたので、製品間のディファレンスはあまりありませんでした。当時は外資系競争相手も活発な活動をしていて、このままでは会社の主力製品が危ないという危機感がありました。既存の理論や概念に基づく「改良」では、この状況を脱却できないと感じていました。
――それで、どうされたのですか。
競合他社の「汚れがよく落ちる」キイファクターは、汚れの中に含まれるタンパク質を加水分解して汚れを落とすプロテアーゼ(タンパク分解酵素)でした。欧州の酵素製造会社が販売して世界中で使われていた公知の洗剤用プロテアーゼですが、競合他社はこれをいち早く洗剤に配合して、「酵素パワーの……」というコンセプトを浸透させ、ブランドを確立していました。花王がプロテアーゼの利用をひかえていたのは、欧州の工場作業員が洗剤用プロテアーゼ顆粒の微粉を吸引することでアレルギーを惹き起こしたとされたためで、酵素製造会社によって顆粒が改良された後も、そしてその酵素を競合他社が利用し始めて後も慎重に見極めていました。
いまさら、改良された顆粒酵素をキイ成分とした洗剤を売り出したとしても二番煎じのコンセプトはナンセンスですし、それによって競合状態を改善できるはずもありません。また、既存のアイデアやコンセプトでは太刀打ちできないことがわかっていました。何とかしないと我々の洗剤が危ないという危機感を抱いていました。競合の確立したブランドコンセプトをひっくり返すような、本当に洗浄力がダントツな洗剤をつくるほかないと思いました。小手先の改良技術ではなくて、既存の技術思考に依らない洗浄方法はないかと考え始めたのです。煎じ詰めた課題は、製品の命である洗浄力を、今までの方法にとらわれずに、圧倒的によくするということでした。
――つまり、従来の界面活性技術や添加剤以外のところで、洗浄力でダントツになる方 法を考えるという課題を設定されたわけですね。
【村田氏】 そうです。危機感を持ってひたすら考えれば、現状の矛盾、疑問が見えてきます。これを整理する。すると、この矛盾・疑問に応える、新しい課題を見つけることができるのです。
――課題は、どうやって解決したのですか。
【村田氏】 界面張力、汚れの親水化、汚れの加水分解などの従来の考え方ではないまったく別の汚れの落とし方はないだろうか考えるようになりました。泥ネギの泥は洗わずに、一皮剥くとピカピカのきれいな面が現れる、衣料の洗濯でも同じようなことができないだろうかということを思いつきました。実際は、繊維を一皮剥いているわけではないのですが、そのようなイメージで考えました。どんな繊維でもというわけにはいきませんが、家庭の洗濯物の約8割は木綿でしたから、セルラーゼなら家庭の洗濯物の洗浄に効くのではないかと思いつきました。
市販の中性セルラーゼを多量に配合した洗剤で洗浄実験をしましたところ、木綿に付着した汚れは、油であれ、泥であれ、そしてシミであれよく落ち、一方、ポリエステルに付着した汚れは落ちませんでした。自宅でも市販の中性セルラーゼを中性洗剤に大量に入れて、お湯で洗濯物を漬け置き洗いすると、この洗剤はいつもと違ってすごく白くなると家内が言いました。セルラーゼは木綿に付着した汚れを落とすと確信しました。もちろん商品にするためには、アルカリ性で冷水でも効果が出る必要があるわけですが、基本的に効果のあるものは、最適化すれば実用化できるはずです。実際には、低い温度でアルカリ性で働くセルラーゼを産出する微生物を探し、変異をかけて生産性を高め、使用できる性能とコストにするためには、約7~8年を要しています。勿論、このプロジェクトには、粉末洗剤の濃縮も含め、大勢の人たちが参加し、それぞれの分野でベストを尽くしてくれました。
――周りを巻き込む力も、重要ですね。
【村田氏】 そうですね。個々人との議論、それぞれの機能の担当チームとの議論、また、経営トップを入れた議論で関係者全員の合意を取り付けるなどした結果、周囲が自然にこのプロジェクトに参加することになり、大きな流れができるようになりました。巻きこんだという意識はありませんでしたが、結果的には、巻きこんだことになるのでしょうか。アタックの場合は、初期の段階から経営トップがコミットしていましたので、人が集まりやすい環境でした。
それよりも、後になって感じたことですが、大勢の人、長い開発期間、多大な開発費用をかけて失敗したらどうしようという不安をよく抱かずにやれたものだということです。今思えば怖いも知らずでしたね。それだけ無我夢中だったのかもしれません。また、不安を抱かなくて済む社風、開発環境だったのでしょう。実現するかどうかわからない開発でも、少しずつでも進展があり、何か大きくなりそうだという予感を感じれば、参加メンバーは安心して開発に専念できます。もっとも、トップがコミットしていない新しいプロジェクトの場合は、人をそれこそ巻きこんでいかないとプロジェクトに人は 集まりませんでしたが。
――危機感を持って考え、問題点を整理して、本質的課題を自ら設定するという行動は、 他の製品開発でも活用されたのでしょうか。
【村田氏】 たとえばヘルシア緑茶の場合、年齢的には、会社の将来を考えるべき年齢でしたから、何か大きな新しい事業分野を育てて会社を成長させないといけないという危機感でした。これからどうしたら会社を成長させられるか、どういう事業で成長を遂げられるのかを毎日考えていました。フロッピーディスクなどの情報分野の事業から撤退し、売上が大きく減少しましたし、社内にめぼしい成長の芽が見当たらなかったからです。
――そこでの問題点は何だったのですか。
【村田氏】 花王らしい新たな事業分野、商品群とは何だろうということです。
――そこで、整理された。
【村田氏】 はい。当時大勢の研究開発者が揃っていて、製造技術も持っていながら、エコナしかやっていない食品が、新しい事業領域として可能性がある。食品事業は、外国の同業者との比較でも当社に足りない分野である。食品事業を会社の柱の事業にするためには、単なる奇抜なアイデアのニッチではなく、本格商品にしないといけない。市場規模が大きな、常飲常食分野に出るべきだ。そして、単なる品質感で差別化するコモディテイではなく、新しいカテゴリーを創造すべきだ。コア・コンピタンスとしての生体機能研究を活かせば、健康効用を訴求できる特定保健用食品ができるはずだ。エコナで実施済みの「体脂肪を減らす」常飲・常食食品だ。「自然、健康」意識の高い常飲飲料「茶飲料」に「体脂肪」コンセプトをプラスすることだ。そう考えるに至りました。
――つまり課題は、お茶に何かを入れて体脂肪を減らす商品の開発だったわけですね。
【村田氏】 そうです。実際には、「常飲常食」や、「お茶に何かを入れて……」に行き着くまでに、3、4年かかっています。その間に、いろいろなトライアンドエラーをしました。課題が明確になった後は、当時役員でしたので、これを研究所に指示し、短期間のうちにカテキンという解決策が得られました
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