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  • 2021/11/25 掲載

なぜコニカミノルタの「IQ-501」は大ヒットした? 顧客がこぞって“宣伝”した理由

連載:イノベーションの「リアル」

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デジタルメディアの台頭により、斜陽産業のイメージがある印刷産業。しかしグローバルでは、パッケージだけで約50兆円、商業印刷でも30兆円超の巨大市場だ。ただし複雑な生産工程、少数生産やデリバリー時のコスト高など、過去の生産方式による制約条件が残る状況が足かせになっているのも事実だ。生産工程を合理化し、デジタル印刷の価値を最大化するにはどうしたらよいのだろうか? 印刷工程における前準備の各種調整と後工程の検査をスキルレスで効率化した、目からウロコの画像最適化装置(インテリジェントクオリティオプティマイザー)「IQ-501」にスポットを当て、その企画・開発を担当したコニカミノルタの関係者3名に話を伺った。
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コニカミノルタの開発者たちに聞く「IQ-501」が熱狂的に支持された理由

印刷工程以外の調整と検査を自動化し、作業時間を1/4に

(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──コミカミノルタがデジタル印刷市場に参入したのはいつ頃でしょうか?

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コニカミノルタ
プロフェッショナルプリント事業本部
植村 利隆氏
植村 利隆氏(以下、植村氏):弊社が商業印刷向けデジタル印刷機を市場投入したのは2000年代はじめです。普及価格帯で発売し、生産性とコストで高い競争力を実現してデジタル印刷市場を牽引しました。そのためしばらくは、生産性とコスト競争力の2つのKPIを向上させるマインドセットで事業を推進してきました。

──IQ-501は、どのような製品なのですか?

植村氏:IQ-501は、お客さま(印刷会社)の生産工程ではなく前後工程が効率化されることで「お客さまが儲かること」が軸になっています。

 デジタル印刷市場は巨大で成長していますが、スマホ等のデジタルメディアとの競争は激しくなります。そこで、できるだけ無駄な作業を止め、付加価値を高めることがお客さまにとって重要になるのです。これは弊社にとっても、マインドセットやKPIを根本から変える製品でした。

──それは大きなパラダイムシフトですね。

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コニカミノルタ
プロフェッショナルプリント事業本部
プロダクションプリント事業部
マーケティング部
田畑 浩明氏
田畑 浩明氏(以下、田畑氏):弊社は、営業だけでなく、企画、開発も顧客を訪問し、課題(困り事)掘り起こしを進めています。その中で、印刷以外の作業削減テーマを把握しました。印刷工程を見回すと、オペレーターが前準備で行う調整作業に時間がかかっていました。その時点では、この問題に対してお客さまから何の問題指摘も出ていませんでしたが、「お客さまの本当の困りごとは?」という根本的な発想を始めたのです。

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画像最適化装置(インテリジェントクオリティオプティマイザー)「IQ-501」。印刷前の色・表裏の位置合わせの自動化、印刷中のリアルタイム色・表裏の位置補正、画像汚れ自動検品機能を備え、印刷準備と確認検査の時間や労力を大幅に削減

 顧客視点で言うと、従来の入稿から仕上げまでのワークフローにおいて、色調整や表裏見当(多色印刷で色版の重ね合わせ時の位置精度)の前準備において位置ズレが起きると品質面でNGになってしまいます。その前準備ができて、ようやく実際の印刷工程に入り、刷り上がったものを確認し、期待どおりの品質になっているのかを検査します。

 我々が注目したのは主に準備工程でした。これらは当時多くがマニュアル作業に頼っていました。色調整では調整後に印刷し、色味を測って、また調整……という作業を何度も繰り返していたのです。表裏の位置調整も表裏のトンボ合わせのために、光に透かして位置を確認しながら、何回も手で調整します。スキルの高いオペレーターなら、高品質を維持できるのですが、それでも作業に時間がかかっていました。

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(1)従来システムと(2)IQ-501システムの比較。色調整と裏表見当の工程を大幅に効率化。さらに(3)の自動検品システムにより、最終的に従来よりも全体の工程(印刷以外)が4分の1程度になった

 我々は、従来まで当然と思われていた準備工程こそ「お客さまの困りごとではないのか?」と考え、ここを自動化すれば、ハイスキルのオペレーターでなくても、デジタル印刷部門で運用でき、作業効率も高まり、画質も良い安定した出力を実現できると考えたわけです。

当然は当然じゃない? 顧客も気づかぬ困りごとに気づいたワケ

──なぜ従来は当然と思われていた工程を「困りごと」だと気づいたのですか?

植村氏:大前提として、我々は商業印刷向けデジタル印刷機でNo1のシェアを持っており、ワールドワイドで多くの販社と顧客接点がありました。そのため、お客さまの困りごとを吸収する機会が多かったのです。またビジネスプランニングの担当者が開発者と現場に行くことも多く、お客さまが気づかない困りごとを技術視点で発掘できた点もあります。我々が探るのは顧客ニーズでなく、「顧客インサイト」でした。

田畑氏:顧客に入り込み、内情を調べていたのが我々の特徴です。弊社は割と許容度が高い文化があり、開発も含めて7~8人で市場調査に何回も出掛けていました。自分も欧米駐在中に、エネルギッシュな開発者の方々を何回もアテンドしました。いまでこそ競合も普通に調査をされていますが、PP市場立ち上げ当時積極的だったのは我々だけだったと記憶しています。

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アクト・コンサルティング
野間 彰氏
──お客さまの懐に入り込んでいたからこそなのですね。「IQ-501」開発では、お客さまである印刷会社が協力してくれたのでしょうか?

田畑氏:早期の段階ではありませんでした。ただ私の担当顧客を回わっているときに「色の問題で非常に困っている」という声を聞いたり、面倒な調整の話もいただいていました。だから自分たちの開発が正しいという手ごたえを感じていました。

植村氏:当然のことですが、印刷会社のユーザーから見た印刷の付加価値は、印刷工程のみ。ユーザーはここにお金を払っており、前後の調整はお金を払うべき対象ではない訳です。そのため、印刷以外の工程が効率化されないと、印刷会社は儲からないのです。

 そこで、いかに印刷していない時間を減らし、付加価値である印刷工程の比率を増やすか──それがデジタル印刷で大きなポイントになりました。アナログ印刷は部数が多く、1ロットあたり5000から数万部なので、印刷工程以外が非効率でもフリンジ部として局小化されます。しかしデジタル印刷は多品種小部数が多く、平均2000~3000のボリュームの仕事。1000部以下も多く前後の調整に手間がかかるとまるで儲からないのです。


IQ-501にほれ込んだお客さまが率先して営業顔負けのセールスを展開

──IQ-501に携わって、「よし、やった」「感動した」という瞬間はありましたか?

田畑氏:商品企画の業務に長く携わってきましたが、IQ-501をリリースしたあと、しばらくしてのワールドワイドでの評判と反応は、これまでにまったくなかったもので、我々も非常に驚きました。

 従来まで販社は、日本の情報をもとにカタログを作って、商品の1つとして拡販していました。ただ、このIQ-501では、利用されたお客さまがご自身の声で「どうだ! これ本当にすごいだろ!」と笑顔で効果を語り始めたのです。展示会でセールス担当顔負けの熱意で他のお客さまに説明してくれる。そんなことが普通に起きました。

 弊社が提供した価値が、セールス・サービスの末端まで、同じ理解度で浸透したことは、おそらく、これまでなかったと感じています。我々はデジタル印刷機の小さな組織ですが、世界の販社が同じベクトルになった瞬間でした。

──ちょっと涙が出そうな話ですね。「IQ-501は本当に良い」とお客さまが感動し、伝道してくれたのですね。

【次ページ】「お客さまを知るからこそ持てる自信」を持って「世界で最初に失敗」する
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