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- 2022/02/15 掲載
なぜダイキン工業は世界トップシェアになれたのか? インバータエアコン開発の裏側
連載:イノベーションの「リアル」
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モータ技術グループリーダー 主席技師
山際 昭雄氏
何も知らなったからこそ、何にでも挑戦できた
(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──まずはインバータエアコンの開発経緯から教えてください。山際 昭雄氏(以下、山際氏):最初の家庭用インバータエアコンは1980年に他社から発売され、ダイキンも1984年に1号機を発売しました。当時各社は、インバータの温度制御で快適性を追求していましたが、ダイキンは、それに加えて、もっと省エネを目指す必要があると考えていました。
当時のエアコンは、圧縮機を動かすモータが消費電力の9割を占めていました。昔のエアコンは、交流の周波数に同期してモータが回転し、設定温度まで全出力でモータを高速回転させ、設定温度に達したらモータをOFF、温度が下がるとモータをONにする単純な繰り返しで室内温度を一定に保っていたため、エネルギーロスも大きかったのです。そこで交流をいったん直流に変換後、PWM制御(注1)で電圧と周波数を変え、再び交流に戻して、モータの電圧と回転数を細かく調整しながら設定温度を保つインバータが開発されました。
しかし我々は、「超省エネ」となる本物の技術を指向しており、もっとエネルギー効率の良いエアコンを作りたかったのです。そのためにはインバータだけでなく、モータ自体も改良する必要がありました。
インバータエアコンのモータは当時、中低速回転域の効率が不十分だったので、新モータを開発することになりました。ただ弊社は機械メーカーなので、電気関係には強くありません。そこで大阪府立大学と共同研究を始めたのです。その後、上司となる故・大山和伸から、90年入社組の新人だった私が担当として選ばれました。自分は電気工学出身でしたが、ソフトウェアが専門で、ハードウェアの知識はありませんでした。しかし、いまから考えると、逆に知識がなかったからこそ、色々なことにチャンレンジできたのだと思っています。
新しいモータの試作品を依頼するも「そんなものはできません」と断られる
──研究された新しいモータはどのようなものだったのですか?山際氏:初期のインバータ用モータには誘導モータ(IM)や表面磁石型同期モータ(SPMSM:Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)が使われていました。SPMSMは回転部(ロータ)の表面磁石と、外側の固定子(電磁石)が引き合う力(磁石トルク)でモータを回していました。大山は、新しいモータを求めて日本の有力な大学教授等を回り、「リアクタンスDCモータ」(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)の開発を決めました。IPMSMはロータ内部に磁石を埋め込むことで、磁石トルクと固定子の電磁石がロータ鉄心部を引き寄せるリアクタンストルクが加わり、速度が上がり、消費電力も大幅に削減が見込めました。
しかし、まだ作り方も何も分からない手探り状態。色々なメーカーに試作機をお願いしたのですが「そんなものは作れません」と断られてしました。競争相手は、難しさが分かっていて手を出していなかったんだと思います。
やっと、ある企業が引き受けてくれたのですが、我々が想定していたものと少し違っていました。回転体のロータは磁石と一体化しないと途中でバラバラになるリスクがあります。しかし、やはり作れなかったようで、若い技術者が困り果てて頼みに来たのを見かねてか、バラバラのパーツを組み合わせて無理やり構成して作り上げてくれていたのでした。ただ我々は外から見ていたので、中身の構造までは、その段階では分からなかったのです。
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取締役 経営コンサルタント
野間 彰氏
とはいえ、実際に試験してみたところ、理論通りの性能が出ました。「これならいける!」ということで、本格的に研究テーマにして、商品化へと突き進んだのです。ただ中身が一体化されていなかったので、どうやって作るのか、あとから大慌てでした(笑)。弊社の生産技術などがアイデアを出してくれて、なんとか1996年に無事に商品化できました。磁石トルクとリラクタンストルクという2つの力を利用したハイブリッド型同期モータを世界で初めて量産化したのです。
【次ページ】特許成立も、他分野への影響が大きすぎて異例の「無効化」
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