- 会員限定
- 2021/12/21 掲載
「こんなの使えない」と文句を言った医師がファンに ボーンサプレッション開発秘話
連載:イノベーションの「リアル」
-
|タグをもっとみる
デジタル画像処理で付加価値を加えて市場へ投入
(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──米山さんとボーンサプレッションの関りから教えてください。米山 努氏(以下、米山氏):私は、分野横断的に新しい開発・企画をミッションとする部署で、新しいモダリティ(医療機器の分類や様式)やAI領域を担当しています。私が画像処理部隊を担当したのは2015年からで、今回の胸部骨減弱処理技術「ボーンサプレッション」を、ちょうど発売するタイミングでした。
米山氏:ボーンサプレッションは、胸部X線画像から骨を消す技術です。ヘルスケア分野のX線市場に位置します画像処理技術であるボーンサプレッションはソフトウェアですが、弊社ではハードウェアを販売しています。「X線撮影システム」や「フラットパネル・ディテクター」という、X線受像器などのハードウェア製品の提供もメイン事業となっています。
X線撮影の主流がフィルムだった時代から画質向上が重要なテーマで、我々はそのコア技術を持っていました。従来までモダリティ製品の画質向上に焦点を当てていましたが、X線撮影がデジタル化したことにより、いろいろと応用ができるようになってきました。単なる撮影だけでなく、ソフトウェアによる画像処理で付加価値を加えたビジネスに注力しているのが、現在の状況です。
──ボーンサプレッションのビジネスへの貢献はいかがでしょう?
米山氏:ボーンサプレッションは、弊社で販売しているX線フラットパネルディテクターの撮影コンソールや、PACSに搭載され、ひとつの機能として販売されます。これにより、フラットパネルディテクタや、PACSの販売を促進する効果があります。これだけですと、自社の製品での撮影系のみになりますが、他社撮影システムで撮影された画像を入力として、ボーンサプレッション処理を加え、処理済み画像を出力するゲートウェイマシンとしても提供しております。この製品形態ですと付加価値ソフトウェアとしてビジネスをすることが可能となります。現在、この形態での製品として海外への展開も広がっており、今後は、診断支援ソフトウエアとして、グッと伸びてくるものと考えています。
高度なアルゴリズムで肋骨や鎖骨の画像を消す
──著名な呼吸器科の医師が「ボーンサプレッションによって20年来の夢が叶いました」と話していましたが、そもそもボーンサプレッションとは、どんなソフトウェアですか?米山氏:ボーンサプレッションは、独自の胸部X線画像データベースをもとに、高度なアルゴリズムで胸部画像の前方と後方の肋骨、鎖骨などの画像信号を減弱する画像処理技術です。これにより肋骨が重なって見えづらかった肺野内の病変が見やすくなり、読影時の見落としを減らせるのです。それまでは、医師が自分の頭の中で鎖骨や肋骨の減弱像をイメージしていました。
──ボーンサプレッションの開発経緯について教えてください。
米山氏:実はボーンサプレッションそのものを開発販売することが当初の目的ではありませんでした。2008年頃から、いまでいうがん検出の診断支援ソリューション「CAD」(Computer Aided Detection)の開発が始まり、前処理として骨を消そうということになったのです。
そもそも肺の画像は骨が75%も占めており、肺自体が見えにくいのです。がんなどの病巣をCADでピンポイントに教示できるように研究を進めていたのですが、それが難しかったので、手始めに骨を消そうということになり、実際にやってみたら非常にキレイに消えてくれたのです。
競合他社の多くは、エネルギーの異なるX線を2回照射し、軟部と骨のエネルギー吸収の違いから骨を消す「デュアルエネルギーサブトラクション」(DES:Dual Energy Subtraction)という技術を詰めていました。ただ、そちらはX線の被ばく量も多くなりますし、装置を変える必要がありコストがかかります。最終的な狙いは同じでも、クリニックのような規模で、簡易システムとして導入するには、我々のボーンサプレッション処理に価値があると判断しました。
AI診断支援ソリューションの陰でボーンサプレッションを開発した日々
米山氏:そうです。ただ最初は社内では「DESという先行技術があるのに、それと戦うのはどうなの?」という反対意見も根強かったですね。しかし、ボーンサプレッションを推進したほうが良いという確信がありました。というのもX線装置の買い替えは不要ですし、読影の見落とし防止にも大きな意味があり、市場で喜ばれると思ったのです。当時はまだ骨が中途半端に消える状況で、技術的に解決すべき点はありましたが、それを解決していく方針になりました。
──DESと比べて、精度を超えられる見通しがあったのですか?
米山氏:当初は少し難しかったのですが、アルゴリズムによって、コントラストや鮮鋭性などを失わずに処理すれば、同等以上のものができると予想していました。とはいえ、まだ精度が出ない段階で、CADも一緒に開発が進む中では、どちらかというと、ボーンサプレッションは隠れて開発していたという感じでしたね(笑)。
──隠れてまでやる原動力は何だったのですか?
米山氏:開発の中で、病院の先生から「見落としてはならない」という強い声を聴いていました。これが、何としても開発するという原動力になりました。
当時開発していたCADは、読影の見落とし防止がニーズだったので、ピンポイントで腫瘍などを示してやれば、本来なら骨が消えなくても良かったのですが、CADもAIの世界と同様にブラックボックスなので、「ここが腫瘍」という判断の根拠がよく分からないため、医師も疑心暗鬼の評価になっていました。
そういう意味では、ボーンサプレッションは骨を消す、見えにくいものを可視化するという発想なので、病院の先生にとっては割としっくりくる進化ですし、自分の目で判断するので疑いようもありません。だからCADで究極まで攻めるより、ボーンサプレッションのようなものを提供するほうが納得してもらえると考え、現在はボーンサプレッション単独でサブスクリプション形式で提供するビジネスも展開しています。
【次ページ】最初は「邪道だ」と読影の専門医に怒られた
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR
今すぐビジネス+IT会員にご登録ください。
すべて無料!今日から使える、仕事に役立つ情報満載!
-
ここでしか見られない
2万本超のオリジナル記事・動画・資料が見放題!
-
完全無料
登録料・月額料なし、完全無料で使い放題!
-
トレンドを聞いて学ぶ
年間1000本超の厳選セミナーに参加し放題!
-
興味関心のみ厳選
トピック(タグ)をフォローして自動収集!
投稿したコメントを
削除しますか?
あなたの投稿コメント編集
通報
報告が完了しました
必要な会員情報が不足しています。
必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。
-
記事閲覧数の制限なし
-
[お気に入り]ボタンでの記事取り置き
-
タグフォロー
-
おすすめコンテンツの表示
詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!
「」さんのブロックを解除しますか?
ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。
ブロック
さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。
さんをブロックしますか?
ブロック
ブロックが完了しました
ブロック解除
ブロック解除が完了しました