0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
フェロー、最高技術責任者(CTO)の高い業績の背景には、独自の考え方や思考・行動の原則がある。そして、これらのノウハウには、企業の創造力やイノベーション力を高めるパワーや日本を元気にするヒントがある──。フェロー、CTOに自らのノウハウを語っていただく本連載。今回は、三菱電機の技術者のトップに立つ藤田 正弘氏に、メーカーの研究者が持つべき視野の広さや、異分野とのコミュニケーションなど、自社のビジネスに貢献する研究者のあり方などを聞いてみた。
国内外での勤務経験を通じて「ものづくり」の厳しさを学ぶ
(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──まず藤田さんご自身の経歴と、印象に残るエピソードなどをお聞かせください。
藤田 正弘氏(以下、藤田氏):1983年に入社して、尼崎の研究所に配属になりました。学生時代からロボット研究を手がけてきて、会社に入っても同じ研究を続けたいと思ったのが入社のきっかけです。
16年間ロボットの研究開発に取り組み、その次は名古屋のFA(ファクトリーオートメーション)の製作所に、製品開発も経験したいと考えて移りました。ここで高品質の製品を安いコストで作り、なおかつ決められた期日に間に合わせて出す厳しさを学んだ経験は、その後の私の大きな糧になっています。2002年からはまた研究所に移り、マネージャとしてメカトロ関連の幅広い分野を経験しました。
──その後、2008年にはアメリカの研究所に赴任されていますね。
藤田氏:当時その研究所は、まだそんなに成果が挙がっていなかったので、テコ入れの役目を仰せつかったのです。しかし、現地に行ってスタッフとじっくり話していると、決して能力が低いわけではなく、当社の事業方針とのベクトルがきちんと合っていないのが原因だとわかりました。
むしろメンバーは極めて優秀で、中には全米で100人の研究者の1人に選ばれた人もいるほどの顔ぶれでした。しかし、自分たちが面白いと感じて研究した成果を日本に持ってきても、事業方針と合っていないので全然当たらない。そこで、もっと会社の製品開発というのを意識した方がいいと提案してじっくり話し合い、日本の研究所や製作所に連れて行って議論するうちに、彼らも理解してくれて、4年後には一定の成果が認められて帰国しました。
──さらにその後は、人材開発センターに移られて、まったく畑違いの人材育成にも携わっておられます。
藤田氏:これは良い経験になりました。この時さまざまな製作所の人と会ったのですが、彼らから「開発本部は現在の事業にはいろいろと貢献してくれているが、将来がどうなるかちょっと心配だ」という声をあちこちで聞きました。その後、先端技術総合研究所の所長に就任した時に、実際に調べてみたところ、「中期・長期の展望」が不十分だとわかりました。そこで、「長期」テーマを増やすと共に、「基盤技術」の部分も押さえながら、各領域のバランスに常に気をつけるように、研究者たちにメッセージを発信するようにしました。
社内のコミュニケーションを軸にして研究テーマを決めていく
──三菱電機の技術部門のトップとして、これだけは大切にしているという心がけや取り組みがあれば教えていただけますか。
藤田氏:そんなに大層なものはないんですが、研究所長になってからは「あとから来る者のために」というある詩人の詩を研修などで紹介しています。自分がそのポジションにいる間だけ、何とかなったらいいのではなく、課題を1つでも解決する、次の種を植えるなど少しでもいい形にして次の人に渡すということ。
また、別の意味として、自分の子供や孫の世代が安心して快適に暮らせるように社会課題を解決するような技術・事業を産み出す研究開発をしようという意味で、この詩を紹介しています。そういうことをずっと社内で言っているので、きっとみんな聞き飽きていると思いますが(笑)。
──そうやって社員にご自分の考えを伝え、良い方向に進んでいってもらうために、どんなことを意識されていますか。
藤田氏:とにかくコミュニケーションが大事だと思っています。たとえば先ほどお話した長期テーマの充実の場合、過去の長期テーマを見ると、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体の事業化には20年かかった。未来のために、今、長期テーマの充実が必要でした。そこで短期、中期と共に長期テーマの比率を定め、長期テーマ充実の必要性を事あるごとに言い続けました。
当社には、研究者1人ひとりが自律的にテーマを考え提案する風土があります。そこで、コミュニケーションによって長期テーマ充実の方向性を現場に浸透させれば、現場の力を長期テーマへ(しかるべき比率で)引き出すことができます。
また上司や部下、同僚、さらに開発本部と事業本部間、はたまた異分野の研究者や生産技術の人たちなど、さまざまな人とのコミュニケーションをしっかり取るのが大事だと思っていますし、私自身そういうコミュニケーションが取りやすい雰囲気を保つように心がけています。
というのも、研究開発本部の研究テーマというのは、基本的に提案として上がってくるボトムアップ型だからです。それも国内外の研究所の研究者だけではなく、いろいろな事業本部の人も含めて議論しながら次のテーマを考えていきます。当社には16のビジネスエリアがありますが、各エリアについてすべての研究所が集まり議論をし、短期・中期・長期のバランスを考慮しながら来年度のテーマを決めてゆく。そのためには何よりもコミュニケーションがお互いに取れないとできないので、そこを意識的に言っています。
──コミュニケーションを活性化させるために、何か良い事例があればお聞かせください。
藤田氏:研究者が自分の狭い枠にとどまらず、異分野の人と大いに議論してほしいと考えて、先端技術総合研究所長の時に「基礎基盤フォーラム」というのを年1回開催しました。各人が自分の現在の研究テーマや関心を持っている課題を発表する催しで、丸1日かけて発表してみんなで議論をしていきます。これは現在もずっと続いていて、他の研究所からも参加者があります。
【次ページ】研究者が幅広い視野を持つと「発想力」が広がっていく
関連タグ