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- 2013/10/30 掲載
日本が誇るフェロー・CTOに学ぶノウハウ定義書 「こだわりを持って一本筋を通す」ジヤトコ
ジヤトコ フェロー 柴山尚士氏
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技術者を束ねる思想が重要
――貴社は、世界シェアの50%を超える製品、世界初の製品を次々と開発してこられました。このような企業で技術開発をリードするために、日ごろ常に意識して実践してこられたことはあるのでしょうか。
――筋を通す、ですか。
【柴山氏】 オートマチックトランスミッションは、多様な技術の塊です。そしてそれらは、擦り合わせによって付加価値を生みます。また当社は、3つの異なるDNAを持つ企業が集まったものです。そこで、技術者の考えを揃え、力を引き出す思想、こだわりを持った筋を通すことが必要です。
――筋とは、たとえばどのようなものでしょうか。
【柴山氏】 たとえばコントロールバルブで油圧を制御する場合、油圧の与え方で、ドライバーが変速で得る感覚は、まろやかになったりシャキッとした感覚になったりします。では、今回の開発ではどの範囲をカバーするのか、どの車種まで対応するのか、だとすると、どのような特性が必要か。デバイスはどうなるか。どのように制御するか。という、一連のストーリーです。そしてこのストーリーは、重要な課題をまず設定し、これを確実に解決するものでなければなりません。
――重要な課題とは何でしょう。
【柴山氏】 それは、顧客であるカーメーカーの開発コンセプトと、現在の顧客カーメーカーの車や、競争相手の車を良く知り、不足している点を明らかにし、どの性能を良くするかを決めることです。たとえばある開発では、「1速から2速への変速を極上にする」という課題を設定しました。これは、顧客カーメーカーの開発コンセプト、顧客と競争相手の車の良い点、悪い点などを勘案し、まずユーザーがドライブの最初に体感する1速から2速への変速に焦点を当てたものです。
――なるほど、カーメーカーの求めるコンセプト実現のために、どの性能を良くするか。そのために、何を達成するか、どのように達成するかを明らかにする一連のストーリーがあれば、多様な技術、DNAを持つ技術者を、1つの方向にリードできますね。しかし、一体どうすれば、一本の筋、ストーリーを生み出せるのでしょうか。
【柴山氏】 まず、鍛練が必要です。私は若いときに、当社の開発中の製品を実際に車に載せ、テストコースで条件を変えながら試乗してテストを繰り返し、どこをどう変えると、車の性能はどうなり、ドライバーはそれをどう感じるか、4~5年経験しました。ここで得たフィーリングは、先に申し上げた重要な課題設定に欠かせません。まず、自分が評価できる、課題を言えるまで鍛練が要ります。それから、いろいろな技術領域での課題解決の経験、知識が必要です。課題が言えただけでは解決は出来ません。メンバーが出してきた解決策の妥当性を判断することもできません。振り返ると、自分は若いときから、他部門が担当する部品の課題解決に呼び出されていました。好奇心が旺盛で、いろいろなところに首を突っ込んでいたこと。頼まれれば断らなかったこと。また、頼みやすい性格だったこともあったかもしれません。もちろん勉強して、技術の幅を広げる努力をしていました。そのような経験が、いろいろな技術領域での課題解決の知識を増やせたことにつながっていると思います。
――一本筋を通すために、他に重要なことはありますか。
【柴山氏】コミュニケーションです。新しいことをするには、社内関係者を納得させなければなりません。自社だけで課題は解決できない。顧客であるカーメーカーの協力、当社に部品を納めるパートナーの協力も必要です。そこで、影響力のある人材を特定すること。そして、その人は技術をどのように見せると納得するか考えて、そのような説明をすることが重要です。最後に、自分自身が、相手の技術分野をそれなりに深く語れることが求められます。例えば新しい金属ベルトを作ってもらう交渉を海外部品メーカーとした場合、説得するのは相手企業の当該技術の責任者で、彼には、新しいベルトで、こんなに大きな価値が生み出せることを訴求しました。これに加えて、当社側でも、金属ベルトに関して、それなりの知識があることを示しました。
――幅広い技術分野で、それぞれを深く語れるようになるのは大変ですね。
【柴山氏】もちろん、勉強が必要です。そして重要なのは、社外の人脈です。いろいろな分野の一流の人と交流すれば、当然自分の知識の幅、深さは広がります。何かある場合、協力も求めやすい。そのためには、相手に自分をおもしろいと思ってもらうことが重要です。1つの方法は、カンファレンス等で勉強した最新情報を自分独自の解釈解説も加えて伝えることです。業界の最新情報や技術価値の分析は、相手にとっても貴重です。一旦自分のことをおもしろいと思ってもらえれば、いろいろな情報を向こうから語ってくれるようになります。これも考えてみれば、若いときから好奇心で、いろいろなカンファレンスに顔を出していたことがキッカケになっていると思います。
――冒頭で、世界の技術をウォッチして使うというお話がありましたが、社外人脈といっても広いですよね。どのような分野で作り上げるべきでしょうか。
【柴山氏】これまでの経験から、自社技術に関わる課題領域は分かります。たとえば制御では、油圧のスピードが求められる。ポンプには消音の課題がある。そうすると、自ずとウォッチするべき領域が見えてきます。それらの分野では、自分自身の人脈も広げますが、これはという技術は、若手を交流させ、筋がよければその先に進めるということをやっています。
――柴山さんの強い好奇心があればこそ、ですね。
【柴山氏】それは有るかもしれません。ただ、私だけではダメですので、当社の若い人には、広い分野の課題を解かせるようにしています。若いうちから、幅を広げ人脈を増やすことは重要です。
【次ページ】確信に基づいて新たな技術に挑む
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