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第37回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2019)が 2019年9月3日から7日の日程で、東京・早稲田大学にて行われた。最終日には一般公開のオープンフォーラムとして、ベンチャー企業に関するセッション「ロボティクススタートアップ会議〜ロボットベンチャーの成功を考える〜」が行われた。今回はそこでの議論を参照しながらロボット系スタートアップのあり方について考えてみよう。
ロボット事業は採算が合う領域が狭い
「ロボティクススタートアップ会議〜ロボットベンチャーの成功を考える〜」は第5回早稲田大学次世代ロボット研究機構シンポジウムとして開催された。主催は早稲田大学次世代ロボット研究機構、実体情報学リーディングのほか、早稲田大学発のベンチャーで、力制御協働ロボットアームを中心に主として研究用途のロボットビジネスを展開している東京ロボティクスの坂本義弘氏が中心となり、ライフロボティクス(ファナックが2018年2月に買収)創業者である尹祐根(ユン・ウグン)氏が司会するパネルディスカッションもあわせて行われた。
主要テーマは「ロボットベンチャーの困難をどう克服するか」と「スタートアップの魅力や立ち上げプロセスを伝えること」。オープンで誰でも参加できるセッションとはいっても、ロボット学会の中のイベントである。聴衆の多くはロボット学会の関係者だったと思われる。つまり、ロボットベンチャー立ち上げ候補者たちというわけだ。また会場には登壇企業以外のスタートアップ関係者たちの顔も多かった。
シンポジウムに先立ち、東京ロボティクス・坂本氏はロボット事業の難しさを説いた。国内外問わず、大型の資金調達に成功してもつぶれる会社も目立つ。なぜかというと「技術的にできることと」、「顧客が求めること」、「コストが見合うこと」、この3つが交差する領域が非常に小さいからだという。一言でいえば採算が合う領域が狭いということだ。しかも採算が取れそうな領域には必然的に競合他社もなだれ込む。いわゆるレッドオーシャンで、競争も激しい。余裕がないスタートアップにとって、失敗は死につながる。
パネルディスカッションには、砂漠での水を使わないソーラーパネル掃除ロボット事業を進める
未来機械 代表取締役社長 三宅徹氏が出張先のドバイから遠隔参加したほか、業務用の水中ドローンとクラウドサービスを展開する
FullDepth代表取締役 伊藤昌平氏、独自コントローラーでたこ焼きロボットなど外食産業へのロボット導入を目指す
コネクテッドロボティクス 代表取締役 沢登哲也氏、そして生体信号解析技術を活用した遠隔操作ロボットやサイボーグ技術の確立を目指す
メルティンMMI代表取締役 粕谷昌宏氏の4名がそれぞれ講演したあと、議論が行われた。
ロボットに限らず、ハードウェア関連、ディープテックと呼ばれる類の技術を基にしたスタートアップは立ち上げに時間がかかる。何かしらの課題を解決したい、自分の技術ならその解決が可能だ、と考えるところから起業は始まるわけだが、ハードウェアはまず「ちょっと試す」のにも時間がかかってしまうことがある。それだけではない。「ただの開発ではなく研究要素が入ってくると、できるかどうかもわからない。時間もかかってくる」とメルティンMMI の粕谷昌宏氏は指摘した。ソフトウェアと違って現場での実物保守そのほかの体制作りやリスクアセスメントが必須であることも、ハードウェアが難しい理由だ。
人材はピンポイントで釣りあげる
ディスカッションでは起業して良かったことは何かという質問に対して、それぞれの社長は「それまでは会えなかった人に会えること」や「情報が集まってくること」、そして「自分がやりたいこと、思ったことに自分の意思で取り組めること」を挙げた。
逆に嫌なこととしては、皆、口をそろえて「人間関係」の課題を挙げた。「製品の問題なら『みんなで乗り越えよう』と考えられるが、人間関係の問題が出てくると『悪夢』」(コネクテッドロボティクス・沢登氏)であり、トラブルを防ぐためには採用時に「スキル以前に、企業風土・カルチャーと合うかどうかをよく見ることが重要だ」(未来機械・三宅氏)という。言葉にすると当たり前のことなのだが、実際にはなかなか難しいのも、また現実だ。
技術者・研究者は「なんでも自分でやってしまいがち」(メルティン・粕谷氏)だが、それでは続かないし、スケールもしない。また、技術者が経営に向いているとは限らない。経営(CEO)や業務内容執行(COO)の役割は他人に任せたほうがいいという場合もある。しかし事業の展開のために必要な人材探索もなかなか難しく、必要なときに良い出会いがあるとは限らない。
技術系スタートアップにおいては、「できるエンジニア」は必然的に会社のキーパーソンになる。そのような人材をどうやって見つけるかも各社共通の課題だ。コネクテッドロボティクスの沢登氏は「そもそもロボティクス人材は貴重。細分化もされているのでピンポイントで見つけるしかない」と述べて「時間を割いて学会誌も見て、直接スカウトするほうが良い」と語った。
ロボットを適用すべき領域が見えてきた?
課題を挙げていけば大変なことばかりだが、それでも起業する人たちが増えているのは、既存の企業では解決できない課題を抱えた顧客の姿が(具体的ではないにしても)目に見えることが以前よりも増えているからだろう。技術向上と人手不足が進むことで、ユーザー側としてもロボットを適用すべき課題が見えてきたということもあるのかもしれない。顧客を見つけるのもハードだが、FullDepth・伊藤昌平氏は、水中ロボットは「ユーザーを見つけやすい領域」だったと語った。特定の領域・特定の用途にフォーカスすることは顧客探しにおいても重要なポイントだ。
コネクテッドロボティクス・沢登氏は事業を進めているあいだに「巨大な問題に立ち向かう仕事をしたい。自分だけではなく、関わる人みんなが喜び仕事をやりたい」という「使命感」が出てきたという。現在は自分が作ったもので他人を驚かせたり飲食店オーナーをもうけさせたり、そこで働く人を楽にし、おいしいものをレストラン利用者に届けたいという気持ちが強く、それが「ピタッとハマっている」と述べた。
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