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ヤマト運輸が法人顧客に対して一斉値上げを行った「ヤマトショック」(2017年3月)からもうすぐ2年になる。その後、佐川急便や日本郵便も追随し運賃は上昇を続けるが、この背景には何があるのか。将来、どうなっていくのか。元トラックドライバーでもある筆者が説明する。
値上げに悲鳴が上がる現場
「商品を製造しても、運送会社が運んでくれない」
「このままでは、会社の存亡に関わる!」
運送会社から運賃値上げの要請を受けた、あるメーカーの物流担当者の悲鳴である。
「『運賃を値上げしてくれ』って言われて、見たら今までの1.5倍とか2倍近い価格でしょ? それはこっちだって無理ですよ! でも、無理だと言うと『ではもう運びません』って開き直られてしまうし……」
2014年3月12日付の日経新聞朝刊一面で、ヤマト運輸が法人顧客に対して一斉値上げを行うことが報じられた。これが、いわゆる『ヤマトショック』の始まりである。
同社は、繁忙期における宅配の荷物受付量を制限する総量規制を2017年に発表し、ヤマトショックはさらに拡大した。物流業界の雄、ヤマト運輸の値上げに、他運送会社も追随した。「値上げに応じてくれないのであれば、仕事を断ることも辞さない」、強気の姿勢で顧客との値上げ交渉に臨む運送会社も少なくない。
ヤマトショック以来、トラック配送の運賃が上昇を続けている。なぜ、運送会社は値上げをするのか?その背景を考えてみよう。
20年以上前の基準をもとにした運賃で今日まで運行
「運賃タリフ」をご存じだろうか?
運賃タリフとは、かつて国土交通省が発表していたトラック配送料金の標準料金表に当たるものである。実はこの運賃タリフ、1999年(平成11年)を最後に作られていない。
だが、多くの運送会社における配送運賃は、この運賃タリフを元に作成されてきた。さらに、国土交通省と全日本トラック協会が2017年に行った調査によれば、運賃タリフを元に運賃を決定している運送会社の約6割が、1990年(平成2年)以前の運賃タリフをベースにしていると答えている。
つまり、ヤマトショック以前の運送業界は、20年~30年も昔の運賃で荷物を運ぶことが常態化していたのである。
この30年の間、物価も上昇している。たとえば、トラックを走らせるために必要な軽油。その原材料である原油は、1990年には24.49ドル/バレルだったのが、2014年には94.16ドル/バレルまで高騰した。現在は50ドル/バレル前後の水準で推移しているが、それにしても30年間で2倍に高騰しているのだ。
燃料費を始め、物価も高騰していく中、なぜ運送会社は20年以上も前の運賃で荷物を運ぶことができたのか?乱暴な言い方になるが、運送会社は身内であるトラックドライバーを食いものにして低運賃を維持してきたのだ。
しわ寄せはすべてトラックドライバーに
意外に思われるかもしれないが、かつてトラックドライバーは「稼げる仕事」だった。
たとえば1980年代、ワタミグループ創業者である渡邉美樹氏は、佐川急便で働き、創業資金を1年で稼いだという。佐川急便ほどではないにしろ、昼夜を問わず働けばそれなりの収入が得られることは、職業としてのトラックドライバーにおける大きな魅力であった。
ところが、バブル崩壊以降、運賃は上がらない。
困った運送会社が荷主に値上げ交渉をしても、「他にも運送会社はあるぞ!?」と冷たく返されるのがオチだった。
しわ寄せは、トラックドライバーが受けた。給料は下がり、しかし長時間労働という悪習慣だけが残った。
やがて、トラックドライバーは、3K、つまり「きつい・汚い・危険」な職業のひとつとして認識されていく。中には4Kと称して、「稼げない」を追加し、自身をやゆする運送会社の社員もいた。「運送業界はブラックである」、そんな評判が広まり、運送業界全体がイメージダウンした。
これではトラックドライバーへの成り手が増えるわけもない。
こうして現在に至る、トラックドライバー不足への負のスパイラルが形成されたのだ。
【次ページ】改善策が裏目に……「帰り荷」の問題点とは
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