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宅配をはじめとしたBtoC物流に世間の注目が続く中、2024年5月15日、物流関連2法(物流総合効率化法・貨物自動車運送事業法)の改正法が公布された。岸田内閣が推し進める物流革新政策の全体像がいよいよあらわになってきたのだ。これにより、
物流の2024年問題に対応するとともに、物流の構造的問題にメスを入れる。本稿では、改正された物流関連2法のポイントを紹介するとともに、「
物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年6月2日発表)、「
物流革新緊急パッケージ」(2023年10月6日発表)などと照合し、物流革新政策の進ちょくを検証する。記事途中には、物流関連2法の改正ポイントなどをまとめたExcelデータも用意しているので、ぜひご活用いただきたい。
物流関連2法とは何か
2024年4月26日、参議院本会議で、物流関連2法の改正案が可決、成立し、5月15日に公布された。物流関連2法とは、「物流総合効率化法」「貨物自動車運送事業法」の2つの法律を指す。具体的には以下の通りだ。
- 物流総合効率化法(物効法):「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から、「物資の流通の効率化に関する法律」に改称。荷主および物流事業者に対し、物流効率化に対する取り組みを定めた内容が盛り込まれている。
- 貨物自動車運送事業法(貨物事業法):トラック事業者の事業遂行における取り組みを定めた内容となっている。
6月1日に『独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が行う流通業務総合効率化事務に係る「出資」の業務追加』が施行されたのを皮切りに、2026年春までに順次施行されていくが、その時期については「物流関連2法の改正ポイントなどをまとめたExcelデータ」で詳細を確認してほしい。
なお物流関連2法と似た用語として、貨物輸送における規制緩和の一環で制定された「貨物自動車運送事業法」「貨物運送取扱事業法」を指す物流2法(1990年12月施行)があるため留意したい。
ここから具体的な改正ポイントをピックアップしよう。
改正ポイント1:物流効率化の取り組み
今回の改正では、物流に関わる事業者を以下の4つに分類し、それぞれが取り組むべき効率化を挙げている。
- 貨物自動車運送事業者等:運送事業者を指す。
- 貨物自動車関連事業者:倉庫業者、港湾運送事業者、航空輸送事業者、鉄道輸送事業者を指す。
- 荷主:保管や運送といった物流業務を上記2種の事業者に委託する事業者を指す。
- 連鎖化事業者:フランチャイズチェーン本部を指す。
荷主が取り組むべき内容については、たとえば「貨物の受渡しを行う日及び時刻又は時間帯を決定するに当たっては、停留場所の数その他の条件により定まる荷役をすることができる車両台数を上回り一時に多数の貨物自動車が集貨又は配達を行うべき場所に到着しないようにすること」(つまりは「物流センターが混雑しないように配慮しなさい」ということ)のように、具体的かつ踏み込んだところまで言及していることは評価したい。
ほかにも、パレット等の輸送用機材の利用促進を推奨したり、逆にパレットを使わない(=手積み、バラ積み)ことによる積載効率の向上
(注)を禁じた点も注目に値する。
注) |
パレットを使うためには、まず貨物をパレットに積み付けることが必要となる。貨物によっては、パレットに積むと、荷姿の特性上、かえって積載効率が下がったり、あるいは荷姿そのものを変更する必要があるため、これまで手積み・バラ積みが行われてきた。 |
一方で、これらがあくまで、後述の特定事業者を除いた「荷主の努力義務」であることは少々残念ではある。
改正ポイント2:運送契約書面化の義務化
運賃はもちろんだが、燃料サーチャージや、運送以外の役務についても書面化することが義務付けられた。
物流2法の改正に先駆けて、2024年3月22日に告示された「
標準的な運賃」では、待機時間料金、自主荷役(手積み手下ろしを含む)を行った場合の積み込み料金・取り卸し料金、あるいは荷主の都合で有料道路を利用させない場合の割増料金についても言及されている。
運送契約書面化の義務化が、これまで運送事業者が泣き寝入りしていた、これら付帯料金の適性収受につながることを期待したい。
改正ポイント3:特定事業者(中長期計画の策定と物流統括管理者の専任)
先に挙げた運送事業者、倉庫業者、港湾運送事業者、航空輸送事業者、鉄道輸送事業者、荷主、フランチャイズチェーン本部(連鎖化事業者)のうち、一定規模を超える貨物輸送を行っている事業者は、特定事業者に指定される。
なお特定事業者の基準については、たとえば運送事業者の場合は「輸送能力が政令で定める輸送能力以上であるもの」、荷主の場合は「貨物の合計の重量が政令で定める重量以上であるもの」などとされているが、その基準となる数値については、今後政令などで指定されるものと考えられる。
特定事業者は、物流効率化に向けた中長期的な計画の策定と、その実施状況を毎年報告することが義務付けられる。
さらに、荷主およびフランチャイズチェーン本部の特定事業者(それぞれ、特定荷主と特定連鎖化事業者)には、物流統括管理者の専任が義務付けられる。物流統括管理者は、中長期計画の作成と、物流効率化への取り組みを行う。
実は、2023年6月、「物流革新に向けた政策パッケージ」と同日に発表された「
物流の適正化・生産性向上に向けたガイドライン」では、「物流管理統括者」というまぎらわしいキーワードが登場する。
物流管理統括者の役割は、「物流の適正化・生産性向上に向けた取組を事業者内において総合的に実施するため、物流業務の実務を統括管理する者(役員等)」であり、その職務内容は「物流の適正化・生産性向上に向けた取組の責任者として、販売部門、調達部門等の他部門との交渉・調整を行う」と説明されていた。
これが混同され、CLO(Chief Logistics Officer)を、今回の改正に登場する「物流統括管理者」と訳し、混同しているケースが頻発しているが、これは別物だろう。
CLOは「物流管理統括者」であって、「物流統括管理者」ではない。「CLO=(改正物流2法で登場する)物流管理統括者」と勘違いし、CLOの役割を矮小(わいしょう)化するミスリードを起こさないよう、政府は紛らわしい名称の使い方は避けるべきであった。
改正ポイント4:多重下請け構造の是正
ポイントは3点である。
- 実運送体制管理簿を作成すること
- コスト割れを招く下請け運賃の禁止
- 再委託の範囲(2次下請けまで)
実運送体制管理簿には、下請け事業者の名称、貨物の内容と輸送区間、それぞれの下請け事業者の請負階層(「何次下請けなのか?」)を記載する必要がある。また元請け事業者は、下請け事業者に対し荷主の名称を明らかにした上で、下請け事業者は2次下請けに留め、それ以上の多重下請けは避けるようにしなければならない。
また、元請け事業者が得る利用運送手数料は「運賃の10%」と「標準的な運賃」で明記した上で、運送コストを把握し、原価割れを起こしかねない運賃については、元請け事業者が荷主と運賃交渉しなければならない。
こういった改正内容は、これまでの商慣習とは異なる点も多い。利用運送事業者(いわゆる水屋を含む)からは強い反発の声も聞こえてくるが、運送ビジネス健全化のためには必要な措置だろう。
一方、貨物事業法では、これらに違反した場合の罰則規定はない。トラックGメンや公正取引委員会(下請法による優越的地位の濫用の禁止)によって側面支援を行い、業界の健全化を進めるつもりなのだろうが、物足りない印象は拭えない。
【次ページ】罰則などどうなる? 改正ポイント5・6を解説
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