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物流の2024年問題を筆頭とする物流クライシスは、「トラックドライバーの収入が上がれば解消する」といった単純なものではない。長く日本の物流ビジネスは、買いたたきを物流改善と称する荷主企業の怠慢、あるいは過剰要求を人海戦術によってなんとか補ってきた。だが、就労可能人口が減少していく日本において、人海戦術は早晩限界を迎えることは火を見るよりも明らかだ。求められるのは、人海戦術を脱し、生産性を飛躍的に向上させる変革であり、その切り札として期待されているのが物流DXである。
物流DXとは何か?
物流DXとは、ITやAI、IoTといったデジタル技術を使って物流業務、あるいはビジネス自体を変革すること。人手不足が顕著な物流業界において、物流DXの推進は状況打破の切り札であり、その取り組みも大手を中心に中小企業にも広がりを見せている。
DXというキーワード自体は、もはやビジネスパーソンの一般常識として、広く世間に定着している。だが一方で、その定義は依然としてあいまいなままだ。
DXに対する、世間一般でのおおよその共通定義は、「デジタルのチカラを活用して、旧来の業務やビジネスの抜本的な改善を図り、あるいは新たなビジネスを創出すること」といったところだろう。
物流DXでは、AIやビッグデータ、IoTなどのデジタル技術に加え、物流ロボットや自動運転・無人運転トラックなどを備えた最新テクノロジーも含めて議論されている。
物流業界の課題
「物流は産業の血液」と呼ばれる。だが、その血液たる物流は、その本来の役目を今後も果たし続けられるかどうか、疑問視される存在になった。
少子高齢化による人口減少、これに伴う就労可能人口の減少が続く日本社会において、物流業界はいまだ人海戦術による非効率な業務遂行を強いられている。
それでなくともトラックドライバー不足が叫ばれる今だ。リクルートワークス研究所の
試算によると、「ドライバー不足をこのまま放置すると、『荷物が届くかどうか』が、人が住める地域を決めるようになり、日本の1/4の地域は事実上居住不可能になる」という。
今、物流ビジネスにはびこるムリやムダを、早急に駆逐することが求められているのだ。現状のムリ・ムダは、たとえば以下のような数字で示される。
- 積載効率約38%。
積載効率とは、トラックの最大積載量に対し、実際に輸送した貨物の重量の割合。計算上では、巷を走るトラックの3台に2台は空荷で走っていることになる。
- 1回の運行における平均荷役時間、500キロメートル超の長距離輸送で2時間26分。500キロ以下の短・中距離で2時間53分。46%の運行で発生している荷待ち時間、平均2時間44分(図1)。
荷役時間はゼロにはできないものの、2時間半~3時間近くもの荷役時間が発生するのは、手作業による貨物の積み卸し(手荷役)があるから。
また荷待ち時間(待機時間)については、「物流の2024年問題」による残業規制もあり、限りなくゼロに近づけることが求められている。
こういった物流のムリ・ムダをなくすためには、古いしがらみや非効率的・非生産的な商慣習を見直し、あるいは撤廃して、場合によっては、業務プロセスを抜本的に変革しなければならない。
その手段の1つとして、期待されているのが物流DXである。
最強の物流DX=フィジカルインターネット
冒頭に述べたとおり、物流は今、その役目を今後も果たし続けられるかどうか、疑問視される存在になった。その憂いを拭い去る、最強の物流DXが、
フィジカルインターネットである(図2)。(フィジカルインターネットの詳細については、
本連載でも解説しているので参考にしてほしい)
フィジカルインターネットとは、究極の中継輸送・共同輸送である。ポイントは以下の2点だ。
- ドライバーはもちろん、トラック、倉庫などの物流リソースと、貨物の情報をリアルタイムにプラットフォーム上で共有する。
- 貨物は、発地から着地までの最適な輸送経路を算出し、必要に応じて複数回の積み替えを行いながら輸送する。
フィジカルインターネットではこんな
実証実験もある。ケベック(カナダ)からカリフォルニア(米国)までの約5000キロメートルをトラック輸送で試験した、というものだ。概要と結果は以下のとおりだ。
- 17人のドライバー(トラック)で中継輸送を実施。
- 走行時間は48時間から51時間に増加。走行距離も増加。
- 貨物輸送の所要時間が120時間から60時間へと半減。
走行時間・走行距離が増加したのは、貨物リレーのため、高速道路から一般道上にある中継積み替え地点へのアプローチが発生するためである。
当たり前だが、人は寝る必要があるし、ドライバーが取るべき休憩時間・休息期間は、法律できちんと定められている。積み替えの手間を考えても、1人のドライバーが長距離輸送を行うよりも、中継輸送を行ったほうが輸送時間を短縮できるのは道理だ。
フィジカルインターネットの実現について、経済産業省の絵図では2040年をゴールと設定しており、現在は業界ごとに適切なフィジカルインターネットの形を研究したり、あるいは標準規格を策定する準備期間としている。
2040年がゴールと言うとはるか先の話に思えるかもしれないが、伊藤忠商事、KDDI、豊田自動織機、三井不動産、三菱地所の5社が、2024年度中にフィジカルインターネットを事業化すべく、新会社の設立を
発表するなど、フィジカルインターネット実現に向けて、業界は徐々に動き始めている。
中長距離輸送DXで注目の「自動物流道路」とは
フィジカルインターネット実現と同時に、ドライバーの負担が大きい中長距離輸送に貢献する物流DXとして、トラックの自動運転・無人運転や自動物流道路もある。
自動物流道路については、「
物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年6月2日、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」発表)においても言及され、また「
第1回 自動物流道路に関する検討会」(2024年2月21日、国土交通省)では、「道路空間を活用した人手によらない新たな物流システムとして、自動物流道路(Autoflow Road、オートフロー・ロード)の実現を目指す」と発表された(図3)。
ポイントは以下のとおりだ。
- 高速道路の路肩や地下に設置する。
- 無人カートで貨物輸送を行う。
- 2024年夏ごろまでに、中間とりまとめとして、自動物流道路のルート選定を含めた基本計画を策定する。
計画で先行する英国MAGWAY社がロンドン市内の店舗等へのラストワンマイル配送を担い、スイスCST社は地下トンネルで主要各都市を結ぶ自動カート運行を想定している。日本の自動物流道路構想は、CST社同様、中長距離の幹線輸送をターゲットにしているようだ。
これまで説明したフィジカルインターネットや自動物流道路は、国を挙げた取り組みとして実現にはもう少し時間を要する。では現時点で、物流企業らはどのような取り組みをしているのか、本稿では大和物流に焦点を当てて紹介する。
【次ページ】大和物流の物流DX事例
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