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2024年2月16日、岸田首相が「2024年度、トラックドライバーに対する10%前後の賃上げが期待できる」と発言した。岸田内閣が推し進める「物流革新」政策に対する自信の表れともとれる発言である。だが、2018年から2022年の4年間における、トラックドライバーの賃上げ率は、大型ドライバーで4%、中小型ドライバーで5%に過ぎない。「2024年度中にドライバーの賃上げ10%」が単なる人気取りのハッタリ発言なのか、それとも実現可能なのか。
岸田内閣はドライバーの賃上げに超・意欲的
「日本の賃金を上げる」、これは政府が掲げる大方針であることは、皆さまご承知のとおりである。2023年夏、政府はこれから10年強で、最低賃金を今の水準の1.5倍にするという目標を示した。仮に2035年度に達成したとすれば、賃金の伸び率は毎年3.4%程度となる(本稿での賃金は特に記載のない場合、名目賃金を指す)。
一方、国内最大の労働組合である中央組織、連合(日本労働組合総連合会)が2023年12月に掲げた2024年春闘における統一要求の賃上げ目標は「5%以上」である。
こういった国内における賃金上昇の機運を鑑みても、トラックドライバーの賃金を2024年度中に10%アップするというのは、実に意欲的な数字である。
岸田内閣は、どのようにしてドライバーの賃上げ10%を実現しようというのか?
賃上げ10%の根拠とは
主軸となるのは、2023年12月に公表された「標準的な運賃」の改定と、今までドライバーが無償で実施することの多かった荷役等の付帯作業料の適正収受である。
「標準的な運賃」は、トラック輸送における運賃において、政府が示す業界の目安となる運賃表である。最新版は2023年12月に
公表されており、政府は2023年度中の改正を目指す。距離や重量、あるいはトラックの種別ごとに設定された運賃単価は、これまでの「標準的な運賃」と比べて、約8%高く設定されている。
加えて、速達割増し、積込料・取扱料、利用運送手数料の設定について、具体的な金額を示したのは評価に値する(これまでは、たとえば積込料・取扱料については、「積込み、取卸しその他附帯業務を行った場合には、運賃とは別に料金として収受」と記載しているだけであった)。
政府の目論見としては、「標準的な運賃」の約8%、加えて荷役作業等の付帯作業料を適正収受することによるプラスオンによって、運送会社の売上・利益アップにつながり、結果、ドライバーに対する10%の賃上げが実現する、という皮算用なのだろう。
「第4回
我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」(2024年2月16日開催)において発表された、その他の運送会社の売上向上に貢献するであろう要因について列記する。
- 荷待ち・荷役の時間が合計2時間を超えた場合は、待機時間料金や荷役料金等に対し、割増率5割を加算する。
- 運送契約書において、「有料道路利用料」を個別に明記する。また、有料道路を利用させない場合には、ドライバーの運転の長時間化を考慮した割増しを設定する。
- リードタイムの短い運送では「速達割増し」を設定。逆にリードタイムを長く設定した場合の割引も行う。
- 多重下請構造是正の一環として、親請事業者の手数料を10%として「標準的な運賃」内に明記する。
- 公共工事設計労務単価(公共発注者の積算用単価、2024年3月から適用)において、工事に必要な資材運搬を行う一般運転手の単価を7.2%引き上げる。
こういった施策を実現するための予算として、2024年度一般会計予算で28億円の予算を検討している。
では、これらの施策によって、本当に2024年度内にドライバーの賃上げ10%は実現するだろうか? 筆者は3つの懸念を感じている。
【次ページ】賃上げ10%の実現へ感じる「3つの懸念」
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