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解散総選挙において与野党揃って「最低賃金1,500円」を掲げたことで、賃金の大幅引き上げが現実的課題となってきた。体力のない企業にとっては厳しい時代であり、中小企業を中心に、企業の再編が加速する可能性がある。
与野党の公約が一致するという驚くべき事態に
2024年10月27日に投開票が行われる解散総選挙において、驚くべき事態が発生している。これまで激しく対立するのが当たり前だった与野党の経済政策が酷似しているのである。これは石破政権の誕生によって自民党の政策がリベラルな方向にシフトする一方、最大野党の立憲民主党において野田佳彦元首相が代表に選出され穏健保守路線にシフトしたことで、与野党の公約が酷似するという珍しい現象を引き起こした。
岸田政権はこれまで、2030年代半ばまでに1,500円を目指すという方針を示していたが、期間がかなり長いため、物価上昇分を自然に賃金に反映させれば自動的に実現できる数字であり、厳密には賃上げ政策とは呼べないものであった。だが石破政権は時期を大幅に前倒しし、2020年代に最低賃金を全国平均で1,500円にする目標を掲げた。最終的に自民党の公約に数字は盛り込まれなかったが、連立を組む公明党は、公約として5年以内に全国平均1,500円を達成するとしている。
立憲民主党は時期こそ明言していないものの、企業支援を実施しながら1,500円を実現するとしているし、共産党や社民党などもやはり全国一律1,500円の最低賃金を打ち出している。他の野党も大幅な賃金引き上げを政策に掲げているという点では同じ状況と言える。
これまで最低賃金の引き上げに対しては、経営状況が良くない企業を中心に反対の声も多く、なかなか実現しないと思われていた。だが、ほとんどの政党が選挙において1,500円という数字を掲げた以上、選挙後にどの政党が主導権を握ったとしても、この流れは大きく変わらないと予想される。
では、最低賃金が1,500円に引き上げられた場合、経済界にはどのような影響が及ぶだろうか。端的に言えば最低賃金の1,500円への引き上げによって企業の再編が進み、賃金は上昇に向かっていく可能性が高い。
本来、賃金というのは企業が自発的に上げていくもの
日本企業の生産性は諸外国と比べると著しく低く、同じ仕事をしていても、日本企業で働く従業員は米国やドイツなど諸外国と比較して半分から3分の2程度の賃金しかもらえない。これは経済学的に見て異常な事態であり、これを異常と感じなくなっている現状こそが大きな問題と言える。
本来、企業というのは自ら新陳代謝を行い、先行投資を通じて将来の付加価値の源泉を作っていくのが本来の姿である。賃金についても優秀な人材を獲得するためには、率先した賃上げが必須であり、自然と賃金は上がっていくものである。
たとえばドイツでは、つい最近まで最低賃金というものが存在していなかったが、企業が自ら賃上げすることで、日本よりも圧倒的な高賃金を実現できている。残念なことに日本企業は、いわゆる企業家精神(アントレプレナーシップ)を失った状態となっており、前例踏襲に終始し、経営が硬直化した状態に陥っている。
資本主義社会において、政府は過度に企業活動に口出しすべきではないものの、ここまで企業が機能不全を起こしている以上、外部からの圧力が必要であることは明らかと言えるだろう。加えて日本の場合、アベノミクスによる低金利政策が長く続いたことから、企業は金利負担なしで資金をいくらでも借りられる状況となっていた。
つまり、日本企業の多くは慢性的な低賃金とゼロ金利という二重の下駄を履かせられて、何とか利益を維持してきただけであり、これは持続不可能な仕組みと言える。
このタイミングで最低賃金が1,500円に引き上げられれば、労働コストに加えて金利コストも加わることから、十分な付加価値を生み出せていない企業の経営は困難になる。日本ではこれまで、企業経営が悪化すると労働者にシワ寄せが行くので、企業を救済すべきという考え方が主流となっていた。だが、この価値観は資本主義の原理原則に照らした場合、むしろ逆の概念と言える。
企業は徹底的に競争させ、労働者は保護するのが本来の姿
企業というのは本来、競争環境で切磋琢磨するものであり、時代に追い付けず、十分な賃金を払えない企業は市場から退出してもらうのが筋である。一方を労働者というのは、基本的に時間で雇われる存在であり、法律において保護すべき対象と言える。
企業の自発的な新陳代謝を促すと同時に、それによって労働者に悪影響が及ばないよう、最大限、支援するのが政府本来の役割と言える。
最低賃金1,500円を実施すれば、一定割合の企業の経営が困難になると予想される。これを解決するベストな手法は複数企業の統合だろう。日本では中小企業の多くが大企業の下請け的立場に甘んじており、大企業から過度な値引き要求を受けるなど、古い商慣行がまかり通っている。
大企業による過度な買いたたきによって中小企業の賃金が上がらないという側面があり、これに対抗できる手段はやはり規模のメリットということになる。規模の小さい企業を統合すれば、労働者を解雇せずに、規模のメリットを追求できるようになり、生産性が向上して賃金上昇が期待できる。
たとえば、社員50人、役員数5人の企業Aと、社員70人、役員数6人の企業Bが統合した場合、社員120人の企業Cとなる。統合後、社員数は変わらないものの、役員数は単純に2社を足し合わせた11人とはならず、何名かの役員には降格してもらうことになる。だが、こうした統合によって企業規模が大きくなり、取引先に対する価格交渉力は格段に増す。
諸外国でも同じメカニズムが働いている。例えば米国の人口あたりの企業数は日本と比較すると少なく、体力の乏しい企業は積極的に合併を行い、価格交渉力をつけるのが当たり前となっている。
最低賃金の引き上げは、これまで放置されてきた中小企業の再編を促す結果をもたらすだろう。
政府の役割は、統合に際して一方的な首切りなどが発生しないよう、労働者を最大限、保護することである。企業の再編と労働者の保護を両立できれば、企業規模の拡大が進み、やがて全体の賃金も上がっていく。与野党すべてが同じような公約を掲げたということは、賃金の引き上げは国民的コンセンサスと言える。企業側の対応は待ったなしだ。
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