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「芸術の秋」到来。各地のミュージアム(美術館、博物館)は好企画で入場者を集めているが、そこは教育機関でもあり、先生に引率されて未来を担う子どもたちもやってくる。世界の著名なミュージアムは遠くて来館できないがITを活用して美術品や展示物の「AR(拡張現実)/VR(仮想現実)化」を積極的に進めている。AR/VRというとゲームが先行しがちだが、AR/VR開発関係者がその次に注力しているのが「研修・教育」分野だ。
AR/VRは年平均7割超の成長市場
AR(Augmented Reality)は日本語では「拡張現実」と訳され、外の景色のような実在する映像に人工的な映像を重ねて表示する。スマホのカメラで景色を映すとポケモンが現れる「Pokémon GO」は、まさにARの一種だ。
VR(Virtual Reality)は日本語では「仮想現実」と訳され、ヘッドマウントディスプレーのようなVR機器を使うと目の前に人工的な画像が映るが、まるで現実の映像のようなリアリティーがある。月面でも恐竜時代でも、時空を超えて体験できる。ARもVRも幅広く含む「MR(Mixed Reality)」という概念もある。
ARとVRをひとまとめにした「AR/VR」は、まぎれもない成長市場。IDCジャパンが2018年6月19日に発表したレポート「2022年までの世界AR/VR市場予測」では、2017年は140億米ドル(1兆5400億円)だった世界のAR/VR関連市場支出が、2018年には約1.9倍の270億米ドル(2兆9700億円)に、2022年には約15倍の2087億米ドル(22兆9870億円)になると予測される(以下、1米ドル=110円で計算)。
世界全体の2017~2022年の年間平均成長率は71.6%というハイペース。中でもアメリカは98.3%と、ほぼ倍増の勢いである。日本は17.9%と見劣りするが、国内ではどんな分野が伸びるのだろうか?
IDCジャパンでは2022年時点の日本のAR/VR各分野別の推定支出額を算出している。それによるとトップは58.6億ドル(6446億円)の「消費者向け」分野で、国内市場全体の88.0億米ドル(9680億円)の66.6%と、ちょうど3分の2を占める。それに次ぐのが「運輸」分野の12.6億ドル(1386億円)で14.3%。3位の「組立製造」分野以下のシェアは4%にも届かない。
トップの「消費者向け」分野で、シェアが最大で成長率も最大なのがAR/VRゲームで、日本でも「eスポーツ」の人気が盛り上がれば、普及に拍車がかかりそうだ。
子どもたちが教育でAR/VRを体験する意味
IDCジャパンの将来予測では、「消費者向け」以外に「プロセス製造」「組立製造」など産業向け分野でも成長を見込む。一方で「教育」の分野は2022年になっても市場規模が0.15億米ドル(16.5億円)で、シェアは0.17%にすぎない。だからと言って「日本では教育用途のAR/VRは成長しない」と断言するのは早計だろう。
IDCジャパンのPC、携帯端末&クライアントソリューション・シニアマーケットアナリストの菅原啓氏はAR/VRの国内市場の2017年の現状について、「いくつかの産業分野でVRを中心に積極的な利用が進み、ようやく今後の成長に向けて基礎となるエコシステムが形成されつつある」とする。
しかし「AR/VR自体の体験利用に対する消極的な意識がさらなる導入拡大の阻害要因となっている」と、利用者の意識にボトルネックが存在することを認める。
そしてこの障壁の突破口を開くのは「教育」だと菅原氏は提言し「業界全体が、このテクノロジーの経験者のさらなる拡大を、あらゆる側面で推進していく必要がある。そのための一つの鍵は、これらのテクノロジーの受容性が高い若年層向け、すなわち教育分野である」としている。
「教育」分野が持つ重要性については開発者たちも認識している。
開発者会議の「XRDC」が世界の650人の開発関係者にアンケート調査し「AR/VRイノベーションレポート2018」に掲載した集計結果によると、「注力しているコンテンツの種類」として36.81%が「研修・教育」を挙げた。これは「ゲーム・エンタメ」の70.09%に次ぐ第2位(複数回答)。しかも2017年調査の約27%から約10ポイントも増えていた。
英国の調査会社Technaviの予測によると、全世界の「VR教育」の市場規模は2016年の1.87億米ドル(205.7億円)から、2021年には9倍以上の約17億米ドル(1870億円)に拡大するという。そのうち約10億米ドル(1100億円)はヘッドマウントディスプレーのようなVR教材アクセサリーの売上で占められる。VR教材は北米市場を中心に、高等教育の分野だけで年間平均51.71%もの成長が見込めるという。
「教育分野でのAR/VRの利用」は日本では遅れ気味だが、ワールドワイドに、ロングスパンで眺めれば成長が十分期待できる分野だと言える。ゲームやエンタメに偏ることなく、若い世代にAR/VRの良さを体験させ未来への布石とするという意味でも、重要性を帯びている。
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