マツダ・クボタの凄すぎる「モノづくり革命」、ゲームの技術が設計品質を激変させる理由
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漠然とした焦燥感を抱えてる? 製造業のリアルな悩み
またここ数年、製造業のデータ活用においては「デジタルツイン(現実空間に実在している物体や環境に関する情報を収集し、それを基に仮想空間に再現する技術)」の重要性が各所で語られるようになり、「とにかく何かしなければならない」と焦りを感じている製造企業は多い。約25年に渡って培ってきた3Dコンピュータグラフィックス(3DCG)の技術で製造業の課題解決を支援してきたシリコンスタジオの向井亨光氏は、次のように語る。
「製造業が扱うデジタルデータは、有効活用できればモノづくりを進化させる武器になります。例えば設計CADデータにリアルな質感を設定することで、デザイン(意匠)レビューにも活用できますし、現状は実際のモックアップを作成して行うことが多い照明シミュレーションや材質確認なども、仮想空間で行うことができます。これによりモック作成の時間とコストの軽減が図れますし、実物のモックでは難しい流体解析などもデジタルデータなら実現可能です。」(向井氏)
このような高度なシミュレーションは、設計品質の向上や作業工程の効率化につながるなど、モノづくりの在り方を大きく変えてくれる可能性を秘めているが、複数のデータを組み合わせたり、映し出される映像のクオリティを調整したりする必要があるなど、ハードルも高い。しかし、ゲームの技術の基盤となる『ゲームエンジン』を活用すれば比較的容易に実現できるという。
ここからは、製造業企業のゲームエンジン活用事例を取り上げながら、「デジタルツイン×ゲームエンジン」がもたらす、絶大な効果について解説したい。
製造業を変革させるかもしれない「ゲームの技術」
「比較的デジタル化に積極的な自動車業界では、設計の品質を高めるべく、ゲームエンジンを活用する取り組みなどが進んでいます。たとえば、当社はSUBARUさま向けにゲームエンジンを活用した走行デザインレビューシステムを開発しています。これは、設計中の車両が、実際に街や荒野を走行したときにどのように見えるのか、現実空間そっくりに再現された仮想空間を走らせた時のデザインをレビューするためのシステムです。高品質な3Dグラフィックスを簡単に描画できるゲームエンジンを活用するからこそ、可能になるシステムと言えるかもしれません」(向井氏)
一方、建築業界でも活用が進み始めている。同業界での重要なトピックの1つが「BIM/CIM原則義務化」(注1)だ。これにより、建築業界でもデジタルデータ、3DCGの本格的な活用が加速すると期待されている。
「設計を3次元化してみると、2次元の図面では見つけることが難しかった問題を見つけることができます。たとえば、ビルを設計する際、ビルの周辺環境も含めて3次元化してみると、設計したビルと周囲の構造物とが重なる部分を見つけることもできます。建築現場では、作業をやり直すと1日で数百万円かかることも珍しくないそうです。3DCGを活用すればこうした作業の手戻りのムダを減らし、コスト削減、工期短縮を実現できるのです」(向井氏)
このように、あらゆる業種で3DCGの活用が進み始めている中で、その有用性・必要性に多くの企業が気付きつつあるのはたしかだろう。それでは、自社のビジネスに3DCGを落とし込むためには、どのように取り組めば良いのだろうか。
知っておくべき超重要な「3つの技術」
特に日本では、今後、少子高齢化が急速に進み、労働力人口が減る。この変化に対応して競争力を維持するには、生産効率を上げなければならない。そのためには、製造プロセスの上流工程である“設計”や“シミュレーションの力”を強化し、それ以外はロボットなどの機械に任せるのが最良のシナリオだろう。
そこで注目したいのが、「メタバース」「デジタルツイン」「ゲームエンジン」などの技術だ。まず、メタバースとデジタルツインの違いについて、向井氏は次のように説明する。
「メタバースは、利用者が自分の分身(アバター)を通して現実世界と同様の活動ができるインターネット上の3DCGによる仮想空間を意味します。これに対して、デジタルツインは現実空間に実在している物体や環境に関する情報を収集し、仮想空間に再現する技術のことを指します」(向井氏)
いずれの場合も、データを用いて3Dの空間を構築しなければならない。そこで用いられるのが「ゲームエンジン」だ。
「3次元グラフィックスの描画や物理演算など仕組みが用意された3Dアプリケーションを開発するための基盤がゲームエンジンです(注2)。たとえば、CADデータを使ったシミュレーションエンジンはグラフィックスが貧弱ですが、ゲームエンジンを使えば、太陽や日照条件、霧、雨などの気象条件などをリアルに表現し、より現実に近い空気感を出すことが可能です」(向井氏)
マツダ・クボタの「モノづくり革命」
「ゲームエンジンの導入にはさまざまな障壁があります。そもそもゲームエンジンで何ができるのかを知りたい企業から、CADデータをゲームエンジンに取り込んだのに美しく表示されないといった課題を抱える企業まで、解決に必要な支援を行います」(向井氏)
たとえば、「何ができるか知りたい」という企業に対して同社は、何がやりたいかを丁寧にヒアリングし、PoCを実施しながら何ができるかを検証する。CADデータの取り込みに苦労しているなら、取り込みを簡易化するツールを開発し、導入を支援するなど、ゲームエンジンに詳しくなくても活用できるようになるまで支援してくれる。
もう1つの事業の柱が、より高度な活用を目指す企業の支援だ。1つの例が、機械学習で使用する学習データの生成である。
「自動運転を実現するには、大量の走行画像データをAIに学習させる必要があります。しかし、現実に取得できるデータには限界があり、事故やまれな気象状況、たとえば東京に雪が降ったときの走行画像などは取得が困難です。そのような画像をゲームエンジンで生成し、AIに学習させることで、学習効率を上げることができます。一例として、マツダさまにこのような仕組みを提供させていただきました。また、クボタさまには製品検査用に不良品の学習データを生成する学習用CG画像合成ツールを提供しています」(向井氏)
高度なシミュレーションを実現するための条件
エンジニアとアーティスト、デザイナーの両方の素養を持つ「テクニカルアーティスト(TA)」と呼ばれる人材がいるのも特徴的だ。
「テクニカルアーティストは、たとえばUnreal EngineのBlueprintというツールを使ってプログラムを作成することができます。また、光の計算も熟知していますので、一定の条件下でそれぞれの場所の明るさが何ルクスになるのかを正確に計算し、それを実装することもできます」(向井氏)
向井氏は「国内でリアルタイム3DCGに強いプログラマをこれだけ抱えている企業は、ほかにはないと思います」と述べる。もともと同社は3DCGによるゲームや映像の開発を手掛け、現在は自社製品であるミドルウェアの開発・提供を継続しながら受託開発を行っている。このため、3DCGに関する多様な知見・経験を持つエンジニアが揃っているのである。
「単なる美しい絵を描ける・映像を作り込める会社はたくさんあると思います。しかし、より深いロジックを考え、実装することは簡単ではありません。たとえば、ドライビングシミュレータであれば、正しい物理計算に則った動きの再現、パフォーマンスを上げるためのロジックの導入といった対応が必要ですが、こうした細かな調整ができるのは我々だけだと自負しています」(向井氏)
製造業におけるデジタル化、CGの活用はまだ始まったばかりだ。しかし、スバルやマツダ、クボタの例を見れば、その効果は目覚ましい。活用するかどうかで、大きな差が生まれるのは間違いないだろう。
「ゲームエンジンは、おそらく皆さんが思っている以上のことができます。業種・業界によって、会社によって、できることは変わると思いますが、ぜひその可能性を検討いただければと思います。我々であれば、『何ができるか』『どんな課題解決に役立つか』を探るコンサルティングから対応できますので、ぜひお声がけください」(向井氏)