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「AR/VR/MR(以下、総称して「xR」)」の分野はここ1年で大きな変化を見せている。IT「ビッグ5」のアップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトがxRのプラットフォームを一挙に広めはじめたからだ。各社は今、これまで投資・開発してきたソフトウェア基盤を足掛かりに、将来のディベロッパーとのエコシステムづくりに躍起だ。ここでは、本分野の現状と今後の展望について、2018年1月8日~11日に行われたCES 2018などから読み解いてみたい。
xR(AR/VR/MR)とは何か。その違い
xRとはコンピュータやヘッドセットなどを介して、現実と仮想現実(ゲーム空間、CG映像等)を織り交ぜて可視化するITテクノロジーのことである。どの程度可視化するかによって、以下のようにAR/VR/MRと分けて呼ばれている。
・AR
ARは「Augumented Reality」の略語で「拡張現実」とも訳されている。現実空間にバーチャルなオブジェクトを重ねて表示する技術の総称のことで、付加する情報が最も少ない。有名な例として『Pokémon GO』がある。スマホのカメラ越しの現実空間に、動くポケモンのデジタル画面を重ねて表示。あたかも現実とゲーム空間が折り重なったようにしたこのゲームは、多くのファンを魅了した。
・VR
VRは「Virtual Reality」の略語で、コンピュータ上に人工的な環境を作り出し、あたかも自分がその空間にいるかの様な感覚を体験できる技術で「人工現実感」あるいは「仮想現実」と呼ばれている。こちらは仮想世界への没入感が売り。Oculus RiftやHTC Vive, PlayStation VR(以下、「PSVR」)などハイエンドVR機器が主な製品。
・MR
MRは、最も新しく生まれた言葉である。「Mixed Reality」の略語で、「複合現実」と呼ばれる。CGなどで作られた人工的な仮想世界に現実世界の情報を取り込み、「現実世界と仮想世界を融合させた世界」をつくる技術をいう。MRの特徴として、その世界の中では、仮想世界の事象と現実世界の事象が相互に影響する。米スタートアップのMagic leap社が開発し、デモ映像が話題になった。
xRの可能性を早く察知していたのはグーグルとフェイスブック
「xR」のコンセプト自体は古くからあった。しかしテクノロジー基盤でそれを実現することが難しかった。この分野が再び一般に注目されるようになったのは、2013年の、グーグルのウェアラブルデバイス「Google glass」発表からだ。「Google glass」はARデバイスにカテゴライズできるもので、当時のグーグルはこれを“スマホの次のプラットフォーム”として据えていた。
そして続く2014年、Facebookが、VRヘッドアップディスプレイを開発するオキュラス社を20億ドルで買収したことで、今後はVRの実現と一般普及への期待が高まった。
しかし、これらの取り組みはどちらもすぐにはうまくいかなかった。Google glassはプライバシー上の懸念が叫ばれ、さらに技術的な点でも、バッテリー問題や操作性の悪さなども解決できなかったのだ。グーグルは試行の末、これを一般製品として出す前にプロジェクトを終了させた。
フェイスブックのOculusについても、スピード感において買収当初の期待を上回ることはできなかった。製品の出荷は遅れ、装置は巨大で価格も高い。購入ユーザー数は伸び悩み、独自のハイエンドなVR専用ゲームの道を進み、Facebook自体のサービスとは袂(たもと)を分かつプロダクトになってしまった。オキュラスの創業者Palmer Luckey氏も買収から3年経った2017年にフェイスブックを去ってしまった。
このように、xRテクノロジーの可能性、実現性をいち早く見出しはじめたのは、グーグルとフェイスブックであったが、それでもまだコンセプトを実現し、商業的にブレイクスルーを起こすには「早すぎた」ことが露呈したのであった。
2017年はソニーがPSVRを発売。ゲーム機のPS4を基盤として、ゲーム業界からのVR普及拡大に大きく貢献した。ただし2017年時点ではPS4の出荷台数の世界累計7000万台に比べると、PSVRは200万台の出荷数(日本国内で20万台)と発表されており、「VR元年」が叫ばれながらも、まだVRの一般普及へのハードルの高さを残した。 ここからは、世界最大の家電見本市、「CES2018」のAR/VRスペースで起きていた、「3つの大きな変化」を述べる。
CES2018で起きていた、大きな変化
アメリカのラスベガスで2018年1月8日から4日間にかけて行われていた世界最大の家電見本市「CES2018」では、今年もAR/VRの専用ゾーンが設けられた。そこでは多くのヘッドアップディスプレイが展示されていたが、去年までになかった「3つの大きな変化」が起きていた。
1つは、「スマホAR」の普及である。従来、xRデバイスは、ARでもVRでも、頭や顔に装着するヘッドアップディスプレイやスマートグラスのようなハードウェアが主であった。しかしAppleの「iPhone X」やGoogleの「Pixel」「Tango対応スマホ」などをフラッグシップとし、現在は多くのARアプリケーションが既存のスマホで実行できるようになっている。まだゲームや、美容、ソーシャルなどのコンシューマー向けが多いが、今後はエンタープライズ用途も出てくると期待される。
そして2つ目は、「自動車AR」である。ドライブのナビゲーションや近くのレストランへのレコメンド、自動車の速さ、車間距離などを測定して知らせるインターフェースとしてフロントガラスに表示させるもので、ヘッドアップディスプレイを装着して運転することを想定したものなどが展示されていた。アメリカではスマホをアクセサリーなどで設置してナビゲーションとして使うことがほとんどだが、これがARを使った新たなインターフェースに代わる可能性はある。
最後に、「スタンドアロン型のVR」である。VRエントリー普及の最大のハードルになっていたのは「ハイスペック」と「価格」、「セットアップの煩雑さ」である。(その後ろに体験性の向上のハードルが待っているが)まずはエントリーしてもらわないことには話にならない。
その点、今回用意されていたスタンドアロン型は単体ですぐにセットアップでき、ほかの機器を必要としないものだ。クオリティを落としてしまうものの、これまでリーチできなかった層への新たなアプローチとして、199ドルなど、従来の半額に近い価格での販売が見込まれている。製品はHTC, Oculus, Lenovo(グーグルと共同開発)などから今年出荷される予定だ。
AR/VRともに、当初目指していたハイスペックなコンセプトから目線を下げて、一般のユーザーが誰でも始めやすく、または既存のデバイスですぐに体験できるものを提供して、ユーザーの裾野を広げようとする動きが出始めている。
【次ページ】xRの時代は来るのか、我々はどう備えるべきか
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