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  • 2022/04/19 掲載

中央大 岡嶋裕史教授が「メタバース上の広告」に疑問を呈する“住人目線”

連載:メタバース・ビジネス・インサイト

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GAFAMを含む世界中の企業が今、メタバースというフロンティアを舞台に“覇権”を競っている。果たして彼らの思惑どおり、メタバースは次の時代の社会を支える「理想郷」となるのか。そして、その覇権争いに日本は加われるのか──。『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』を上梓した、中央大学国際情報学部教授の岡嶋裕史氏に話を聞いた。
企画:林 裕人、執筆:入江大輔、構成:松尾慎司、写真:大参久人

企画:林 裕人、執筆:入江大輔、構成:松尾慎司、写真:大参久人

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中央大学 国際情報学部 教授 岡嶋 裕史 氏
中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程終了、博士(総合政策)。1999年から富士総合研究所勤務。2002年、関東学院大学経済学部専任講師・准教授・情報科学センター所長を経て、2015年に中央大学総合政策学部准教授。2019年より現職。


存在が分からないからこそ集まる関心

 確かにメタバースの定義ははっきりしません。携わっている人にとっては、逆にフワッとさせておきたいところなのでしょう。よく分からない存在のほうがお金を集めやすいですし、分かった瞬間に熱は冷めてしまうからです(笑)。

 実際、現在のようにバズワードとして採り上げられると、誰もが「自分の商売こそがメタバースだ」と言うほどです。だからこそ、いつまでたっても定義付けが収束しないのかもしれません。

 私がメタバースを説明するとしたら、「現実とは異なる理屈で動いていて、現実よりも便利で心地よい世界」だと言います。その説明に従えば、XR(ARやVRなどの総称)などを介する必要はありません。現実とは異なる感覚・快適さ・便利さがあれば、成立します。

 メタバースに持たせる情報の深度や密度は、そこで「どれくらいの時間が使えるか」を決定します。長い時間、ユーザーに使ってもらえるのは、それだけでパワーになります。

 SNSやゲームも、なるべく快適な空間を演出することで、長く滞在させ、長く広告やアイテムに接触してもらい、それでひと儲けする。これが現在のSNSやスマホゲームのビジネスモデルです。

 ただ、彼らがユーザーからどれくらい時間を切り取れているのかというと、実はそれほど多くありません。総務省の調査によれば、SNSの滞在時間は一番接触している20代女性でも2時間弱(109.8分)。さらに、もっと彼らの時間を切り取りたいとしても、SNSはコミュニケーション、ゲームは娯楽に特化しているので、これ以上時間を奪えないのです。

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コミュニケーション系メディアの利用時間の割合。消費量の多いソーシャルメディアでさえ、多くて2時間程度にとどまる
(出典:総務省『令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』)

 人が1日で自由になる「可処分時間」を削って、多くの時間を費やしてもらうには、そこで「生活」できるサービスを提供しなければなりません。単なる遊びではなく、その空間の中で勉強や仕事ができて、対価を得られるなど、付加価値が存在しないと、2~3時間以上も仮想空間に滞在してもらえないのです。

 もっと時間を奪うためのサービスを作り込んでいく過程で、必要なインフラやプラットフォームを整えていく。それがメタバースの成否で大切なことだと思います。

 もちろん、ゲーム的な世界において、興醒めせずに没入するには、XRは大切な要素技術となっています。ただ、その空間で十分な利便性が得られるのであれば、私は必ずしもXRは必須ではないと考えています。


『フォートナイト』がメタバースな理由

 メタバースの一例として、エピックのゲーム『フォートナイト」がよくあげられます。

 フォートナイト内のもっともメジャーなゲームモードでは100人のプレイヤーがバトルロワイヤルをして、トップを目指すという目標が設定されています。しかし、その目標と違った楽しみ方ができるのが、メタバースと呼ばれるサービスには必須です。そうでなければ、目標を達成した瞬間、その世界から退出しなければならないからです。

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岡嶋氏は「終わりがないこと」がメタバースを構成するうえで必須なのだと指摘する

 実際、フォートナイトでは戦うだけでなく、ワールドを自由に作ることができるクリエイティブモードやパーティーゲームモード、有名アーティストのライブが開催されるようになりました。中でもクリエイティブモードの自由度は高く、そういった点もメタバースの代表例といわれるゆえんです。

 もっと古い例で言えば、1997年に発売されたオリジナルの『ファイナルファンタジー VII』も、舞台となる星が大変なことになっているのに、ゴールドソーサという“遊園地”でミニゲームを楽しみ続けることができました。

 20年以上も昔のゲームですが、それにはまっていたユーザーも多くいました。彼らは「攻略してゲームを終了したくない」と思っていたはず。そういった楽しみ方が、メタバースを構成するコンテンツとしては必須なのです。

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