新連載:中国への架け橋 from BillionBeats
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フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)のセルジオ・マルキオーネ最高経営責任者は2018年3月、中国の新エネルギー車市場を過小評価していたことについて反省の弁を述べた。FCAにかぎらず、世界の自動車メーカーは2018年4月現在、新エネ車市場参入を急いでいる。中国で新エネ車市場が盛り上がった3年前ではなく、なぜ「今」なのか。そのカラクリを探る。
「新エネルギー車市場参入の遅れ」という、大きな過ち
「我々は中国で数多くの過ちを犯したが、そのひとつが新エネルギー車市場を過小評価していたことだ」
フィアット・クライスラー・オートモービルズのセルジオ・マルキオーネ最高経営責任者が、3月に開催されたジュネーブ国際自動車ショーで反省の弁を述べた。
外資系自動車メーカー各社が今、中国国内における新エネルギー車(新エネ車)の生産・販売に向け急速にかじを切っている。グループ全体の売上高の約4割を中国で稼いでいる独フォルクスワーゲンは、2025年に中国で150万台の電気自動車(EV)を販売する目標を掲げる。また米ゼネラル・モーターズは2020年までに新エネ車を10車種、投入予定。2025年までに年間販売数50万台を目標に掲げている。
新エネルギー車(NEV)とは
新エネルギー車(NEV:New Energy Vehicle)とは、中国における、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の総称。低公害車、ハイブリッド車は「省エネ車」として区別される。
日系三大メーカーでは、トヨタ自動車は2018年にPHVを、2020年にEVを中国市場に投入する予定である。ホンダは2018年に中国専用のEVを、仏ルノー・日産自動車連合も2019年に小型EVの中国市場での販売を計画している。
なぜ世界の自動車メーカーが中国国内での新エネ車の生産・販売を急ぐのか。
表面的には、拡大する中国省エネ車の市場獲得を狙った積極的な投資のように思われる。しかし、それは主要因ではない。背景にあるのが「中国政府による規制強化」だ。
2017年10月28日、「乗用車企業の平均燃費および新エネ車クレジット並行管理実施弁法」、通称「NEV(新エネルギー車)規制」が公表された。これにより、中国で年3万台以上の乗用車を製造、輸入販売するメーカーは、すべての生産・輸入販売台数の内、EV、PHV、燃料電池車(FCV)の一定比率の製造・輸入が義務付けられる。
中国市場は2009年に米国を抜き世界最大規模となっただけに、メーカー各社とも対応せざるを得ない。
政府の後押しを受けて「爆発」した2015年
現在、中国の新エネ車市場は世界一だ。国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、中国のEVとPHVの累計販売台数は、2016年に65万台に達し、世界シェア32%となり、米国を超え世界一に躍進した。さらに中国自動車工業協会によると、2017年の新エネ車販売台数は前年比53.3%増の77.7万台に達している。
この新エネ車市場の高まりにより、自動車の急増による大気汚染の深刻化や石油の海外依存度の高まりといった問題の緩和が期待される。また、既存の乗用車市場における国内メーカーのブランド力は外資系メーカーに大きく劣るが、技術構造が大きく異なる新エネ車市場を新たに発展させることで、自国メーカーの台頭を期待する面もある。
「新エネ車急成長」の背景にあるのは、生産・販売促進を目的とした政府による支援政策である。中央と地方の両政府から出た巨額の補助金が、新エネ車の普及を力強く後押しした。
事実、マーケットが急拡大し始めたのは、地方政府が補助金強化をおこなった2014年である。「2014年には合計21の省や都市で、購入補助金政策が少なくとも70件打ち出された(2015年9月8日付 日経産業新聞)」。これを機に中国国内における新エネ車の生産・販売が急増した。
また、北京や上海などの大都市では、渋滞や環境対策を目的にナンバープレート発給に数量規制が設けられているが、新エネ車には特別枠が設定されたこともマーケットの拡大に一役買った。
これにより2014年から2年連続で、EVとPHVを合わせた年間生産・販売台数は共に前年比3倍を超える急成長を遂げている。また、生産と販売はほぼ同水準で推移しており、中国国内における新エネ車販売のほとんどが国内生産で供給された。
このように、中国の新エネ車市場は2014年、15年で爆発的に拡大した。それにも関わらず、外資系メーカーはなぜこの時期に積極的に新エネ車シフトを進めなかったのであろうか。
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