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- 2018/03/19 掲載
「ライフシフト」の本質とは何か、日本人のための「人生100年時代」戦略論
なぜライフシフトが今必要か(1)「内向き」な日本人
第四次産業革命が叫ばれる中、今、世界は2つの大きな流れに直面している。1つは第四次産業革命の中核である「デジタルトランスフォーメーション」だ。AIとビッグデータ、IoT、シェアリングエコノミーなどの台頭で、ますます多くの職業が変革を余儀なくされ、会計士業界のように危急存亡の危機に直面する仕事も出てくると予想されている。
もう1つの大波が、人類始まって以来といわれる「真の共存・共栄価値観の広がり」だ。これは、40億人に上る貧困層への支援や73億人の全人類のための地球環境問題対応など、持続可能な地球作りへとつながるイノベーションへと人類の英知を結集しよう、というSDGsに代表される波動だ。
世界はこの2つの大波をつうじて、国を超えた知が交差しあう多くの可能性を秘めたつながる場になりつつある。
ところが、日本では1980年代から叫ばれてきたグローバル化も一向に進まず、第二の鎖国状態がいまだに続き、世界の大きな波に呼応して自らを変革できないでいる。働き方も生き方も、鎖国状態だ。
長時間労働で社内に縛られて、退社後は疲れた体を休めるか、飲みに行くか、ばかり。低生産性で時間貧乏の社員は、イノベーションにも世界にも目を向ける時間がない。また、社内に閉じこもるということは、成長のゴールを内向きにしてしまい、社内昇進、すなわち「キャリアアップ」至上主義になる。それでは、タイタニックよろしく自社の衰退に身を委ねざるをえなくなる。
外に目を向けた「キャリアチェンジ」へのチャンスを逃してしまうのだ。
なぜライフシフトが今必要か(2)「労働人生60年」時代の到来
そのような「自社しがみつき型」の働き方から変革ができない一方で、確実に忍び寄ってきたのが、寿命の長期化、100年人生だ。今60歳の人は50%の確率で90歳まで生きられるという。いま40代の人はもっと長生きできてしまう。このことを単純に図式化すると、これまでは、寿命が80歳で60歳定年。20年は老後を楽しむ、という80/60の関係だった。しかし、これからは100歳の寿命で80歳まで働き、残り20年が老後になる100/80の関係になるということだ。
すなわち、働く期間が学校卒業後60年あまりになる。グローバル競争の激化から企業の寿命が23年といわれる中、人生で3回の転職は覚悟しておく必要があるということだ。これまでの日本のように、一社では安泰できないリスクが高い。今後、何の分野やスキルで食べていくのか、自分の武器をきちんと用意しておく必要があるというわけだ。
それゆえ、ライフシフトは50代の定年間際の社員だけの問題ではなく、むしろ30代という「これから」の世代の社員にも大きく関係するテーマなのだ。
こうしてみると、どの年代にとっても、一本道の人生しか想定していない人には脅威である。が、一方でどの年代にとっても、一本道ではない生き方を志向すれば、人生をずっと豊かにするチャンスでもあるのだ。
それを、リンダ・グラットンは著書の「ライフシフト」で、「3ステージの人生」から「マルチステージの人生」へと表現している。
教育→仕事→引退という誰もが同じような時間軸で過ごす3ステージの人生ではない。長寿化する長い時間軸では、エイジフリーの人生が可能になる。何度も学び直し、職業も変え、子育てに専念したり、さまざまな経験をしたりと、充電をたっぷりしながら、会社を超えた社会との関係を保ちながら生きていく。そんな多様な人生のエンジョイが可能になるわけだ。
また、シンギュラリティーが間近に迫る現代では、技術進歩に応じた学び直しは不可欠であり、充電と放電を繰り返す「知の連続再武装」を楽しめる学び直し能力こそがライフシフト時代には重要な条件になってくる。
今までの働き方のように、若く元気あふれるときに会社に縛られる「長時間労働」(太く短く)から、いろいろな愉しみ方、成長の仕方を織り交ぜた「長期間労働」(細く長く)。それこそが生き抜く知恵として必要になる時代なのだ。
3ステージからマルチステージへのシフトとは、別の言い方をすれば、「会社中心の人生」から「自分中心の人生」へのライフシフトということではないだろうか。
あなたが賞味期限切れの「年だけ重ね社員」になる前に
リスクの一つは、賞味期限切れの「年だけ重ね社員」化してしまうリスクだ。日本では、嫌々ながら社内に残っている消極的終身雇用社員が44%もいるという調査がある。また日本の社会人のMBA進学率は欧米の10%台に対して1%というOECDの調査もある。
さらには内向き型日本企業ではKKD(経験・勘・度胸)が重視され、DDK(データ、デジタル、ナレッジ)が軽視されている。このような特性を持った日本の内向き型社員は、「賞味期限切れ社員」予備軍だ。社外へ出ることはもちろん、社内でも中途採用者に駆逐されてしまい生き残れないだろう。
60歳まで生き残ったとしても、とうに賞味期限は切れており、定年後に働くところは見つからない。定年後は余暇を存分に楽しみたいと思っていても、すでに長寿化は進行しており、毎日ゴルフで40年も過ごすわけには行かないし、多くの経験者が語るように、遊びだけの生活では1年も持たない。何も見つからなければ、そのまま次第に社会から孤立し、認知症へと至る可能性が高い。
100年人生は、「可能性」「選択肢」「リカバリー」の時代である。しかし、逆に社内に引きこもって何も準備をしないと長く暗い人生に転換してしまうのだ。社会的コスト増加の元凶になり、若い世代の負債になり日本を破滅に導いていく可能性すら高い。高齢化先進国である日本はそんな瀬戸際に立たされているのである。
「働き方改革」など、人事改革に潜む3つの罠
これに輪をかけているのが昨今の人事改革であることも触れておきたい。人事改革には、3つの罠が仕掛けられている。1つは働き方改革。働き方改革が当面は残業削減であることは致し方ない面もあるが、その目的がライフシフトに即した形で人生の再投資に向かわないと、単なる余暇時間の増加に終わり、企業も社員もイノベーションの芽を摘んでしまう。
2つ目が成果主義。多くの企業にとって成果とは短期の数値業績に偏重している。真のイノベーションに向けた経営方針や人事制度を持たない組織が多いと、より価値のある仕事を求めてライフシフトしても、転職先などでも同じことになってしまう可能性が高い。
3つ目が定年延長だ。これは単にライフシフトのきっかけを先送りさせるだけで、社員を一時的に油断させ、最終的にはもっと難しい年齢でライフシフトを迫る可能性が高い。このような社会的なワナがしかけられている。社員はしっかり早めに自分の対策を考えていくことが重要だ。
また、このことは、ジェロントロジー(高齢者社会工学)の視点が重要であることを示唆する。企業や政府の短期的な利益のために、制度や政策をいじるのではない。高齢化社会への変質という長期的に進行する不可逆な真実から目をそらさずに、正面から人と社会の関わり方を見つめ直す必要がある。そのようなジェロントロジーを深掘りするなかで、人事や働き方を考えないといけないのではないだろうか。
「人生100年時代」の3つの生き方
では、100年ライフ社会へわれわれはどう対応すべきなのだろうか。リンダ・グラットンは「ライフシフト」のなかで3つの生き方のパターンを示唆している。Explorer
世界に目を向け、さまざまな機会を活用し、自分の人生を開拓し、エンジョイしていく生き方。日本でいえば、転職やビジネススクールでの勉強、NPO/NGでのボランティア、海外勤務や海外留学などさまざまな経験をして、自らの志を見いだし、起業していくようなタイプだと考えられる。
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