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「お役所仕事」との揶揄もある行政機関の運営だが、行政業務の効率化にはさまざまな壁があり、デジタル化には大変な困難が伴うことも事実だ。そうした中、神奈川県横須賀市では利用者視点に立ったデジタルサービスを提供する自治体を目指し、2020年から専任体制を組織して、業務プロセスの改革を進めている。横須賀市が実践しているデジタル化の取り組みの詳細を紹介する。
本記事は2020年12月15日~2021年1月15日開催「第15回 業務改革/BPMフォーラム2020~ニューノーマル時代のDX変革に対応する業務改革とは~」(主催:公益社団法人企業情報化協会(IT協会))の講演を基に再構成したものです。
20年前に電子決裁整備、横須賀市のデジタル化の変遷
神奈川県の南側、三浦半島に位置する人口39万人の中核市である横須賀市。同市の津久井浜海岸はウィンドサーフィンのゲレンデとして人気の高いエリアだ。近年では、全日空をメインスポンサーとして、ウィンドサーフィンの世界最高峰の大会であるワールドカップを24年ぶりに国内開催したことでも知られている。
横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 室長の寒川 孝之氏は「意外に思われるかもしれませんが、横須賀市は電子決裁環境を20年前に整備するなどデジタル化に積極的に取り組んできました」と語る。
同市は1997年に庁内行政情報基盤LANの整備、電子メール・掲示板などのグループウェアを採用。1998年には財務会計システムを、翌1999年には公文書データベースシステムを稼働させている。近年では「働き方改革」の流れを受けて、テレワーク端末を10台導入して在宅勤務の試行運用を進めてきた。
40年後、職員の人数は半分に……デジタル化は「もはや必須」
寒川氏は、同市がデジタル・ガバメントを推進する主な背景として「人口減少」「働き手のニーズの多様化」「総務省が『自治体戦略2040構想研究会 第二次報告』で示した『スマート自治体への転換』」「デジタル手続き法の施行」の4点を挙げる。
横須賀市では、人口減少・少子高齢化に伴い、20年後の職員数は現在の4分の3に、40年後には現在の半数の職員で行政を運営しなければならないと試算している。限られた人員で行政を運営するには、効率的に業務をこなし、育児や介護などとの両立ができる環境が不可欠だ。
さらに、総務省が主導するスマート自治体への転換構想や、行政サービスの100%デジタル化を目指した「デジタル手続法」への対応なども求められていると寒川氏は説明する。こうした背景から、横須賀市では2019年12月10日にトッパン・フォームズとデジタル・ガバメント推進に関する包括連携協定を締結した。
そして同市は、2020年4月、DXを加速的に進める部署として「デジタル・ガバメント推進室」を設置し、デジタル化事業を進めている。寒川氏は「世の中の流れから、効率的な都市運営はもはや必須です」と現状を捉える。
DX推進における「行政機関ならでは」の課題
行政機関がデジタル・ガバメントを推進する上での課題として、寒川氏はまず「市役所の手続きは基本的に来庁(対面)、紙が前提の申請届け出の仕組みを取っていること」を挙げる。法整備が十分ではないため、直ちにオンライン申請ができるわけではないという。
また、現場職員は日常業務に忙殺されているのが実情だ。業務改善の検討自体が新たな負担となってしまい、いつまでも取り組まれずに負の連鎖を生んでいると指摘する。その反面、「今のままでもいい」「別に困っていない」という“公務員文化の壁”が存在するという。さらに情報システムが整備されているにも関わらず、有効活用できていない点も挙げる。
「電子決裁が可能であるのに、いまだに決裁欄の枠を形取ったゴム印(ゲタ版)が横行しています。ペーパーレス化に逆行する、メールや添付ファイルを『何でもプリントアウトする』行為も散見されます」(寒川氏)
多くの自治体が悩んでいる外部的な要因としては、昨今の財政状況からシステム導入などの新規予算獲得が非常に厳しく、解決が難しいとの見解を示す。
【次ページ】横須賀市が推進する「9つのデジタル化施策」
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