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  • 2023/11/30 掲載

「デジタル化だけ」は超危険、地方自治体のDXで「アナログ併用」が必須の深刻根因

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地方自治体のDXが大きな前進に向けて動き出した。窓口手続きのデジタル化やデータドリブンな行政経営、生成AIの活用などを実現する事例もすでに現れ始めている。一方で、さまざまな課題に直面する自治体も多い。今後の自治体DXはどう発展していくのか。地方自治体DXの旗振り役を務める総務省の君塚明宏氏とNTTデータ経営研究所の大野博堂氏に話を聞いた。
構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、髙橋 諒、執筆:井上猛雄、撮影:大参久人

構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、髙橋 諒、執筆:井上猛雄、撮影:大参久人

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NTTデータ経営研究所の大野氏(左)と総務省の君塚氏(右)が対談した

自治体ごとに「温度差」がある

──自治体DXと言うと、自治体が外部提供するサービス、あるいは自治体内部の業務DXがあると思います。後者の業務DXの取り組みや成果について教えてください。

君塚明宏氏(以下、君塚氏):私自身は総務省の自治行政局で行政経営支援室に所属しており、実際に自治体における窓口業務のDXに力を入れています。

 今、地方自治体は人口減少で、職員の確保も難しくなっています。少子高齢化が進む一方で、福祉施設の拡充や災害の多発などで業務が増えており、職員の仕事のうち半分が入力・確認業務で、住民への相談やサービスの立案などは2割ほどにとどまるという調査結果もあります。

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総務省 自治行政局
行政経営支援室長 兼 地域DX推進室長
君塚明宏氏

 そこで入力・確認など単純業務を機械に任せるために、バックヤード系のシステムをデジタル化するようになりました。そして最近は、住民窓口となるフロント業務も変革しようという動きが出ています。

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自治体バックヤード改革が目指す方向性
(総務省提供)

 具体的には、紙に記入しないオンライン申請をメインに据えるといった動きで、これは単なるデジタル化から仕事そのものも見直す「トランスフォーメーション」をも含むDXに取り組みが変化している流れだと言えるでしょう。

 また、これまでバックヤード系のデジタル移行は国の手順書に従って各自治体が標準化を推進してきましたが、フロントヤード系においては自治体によって差があるほか、部分最適化の取り組みになっているというのが私の見立てです。

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地方自治体の窓口改革の取り組み状況
(総務省提供)

 たとえば、政令市の半分以上は、ウェブ上での事前入力などで窓口記入が不要の「書かない窓口」を実施していますが、一般市町村ではそうした取り組みは2割ほどしか進んでおらず、かなり温度差があります。

 また、住民接点でリモート相談ができたり、セルフ端末で手続きを完了したりと、トータルで進めている市町村はまだ少数派です。窓口の事務作業も変えていけるようになれば、入力作業も減り、サポート業務に人材を割けるようになります。このトランスフォーメーションを全自治体に広げていく必要があります。

マイナンバーカード普及率「日本一」都城市のスゴさ

──DXに着手している地方自治体で先進的な取り組みがあれば教えてください。

大野博堂氏(以下、大野氏):たとえば、我々が10年間お手伝いをした先進事例として、宮崎県の都城市が挙げられます。合併市町村のため市域が広域にわたり、既存の庁舎の活用だけでは住民対応が十分ではないといった問題意識があり、池田市長のトップダウンで多くの変革を進めてきました。わざわざ庁舎に出向かずとも、コンビニで住民票の交付をできるようにしたり、住民の属性などに応じて複数のSNSを使い分けて有意情報を発信したりといった活動の実績があります。

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NTTデータ経営研究所
パートナー・金融政策コンサルティングユニット長
大野博堂氏

生成AIで1分にまとめた動画
 また、高齢者が免許返納に応じてくれないという各自治体共通の課題に対しても、同市は工夫を凝らしています。同市では単に「返納してください」とお願いするのではなく、移動販売車やバス運行ルートの見直しなど足回りの改善や、マイナンバーカードが運転免許証に代わる新たな身分証明書になることを住民説明などで浸透させることで免許返納が進み、早期にマイナンバーカード普及率が日本一になりました。

 この成果は、デジタル化が1か0ではないという、「包摂」の世界観を住民にご理解いただく努力が功を奏したものだと考えています。

君塚氏:先進事例としては、たとえば北海道北見市が挙げられます。同市は総務省のBPR(Business Process Reengineering)モデル自治体に手を挙げて、住民目線で窓口業務を見直しています。

 北見市では、新規職員に住民役を担ってもらい、違和感のある窓口対応の改革を実施し、「書かないワンストップ窓口」を実現しました。ほかにもリモート窓口を導入している茨城県結城市、データドリブンな行政経営を行っている神奈川県川崎市なども先進的な事例と言えます。

大野氏:データドリブンな行政経営の例で言うと、ふるさと納税におけるビッグデータ解析例があります。たとえば、とある九州の自治体に集まった寄付者の属性や返礼品を分析すると、関東では豚肉、関西では牛肉の人気があることがわかりました。

 そこで寄付者のペルソナを設定し、東京のペルソナに対し、どんなチャネルで、どこに情報を発信するか要件を定義し、PR内容も見直しました。今後はアンテナショップなどリアル店舗にも生かせるかもしれません。

 今、各自治体はふるさと納税の返礼品などについて、十分な分析をせずに感覚的に行っている部分もあるかと思います。それらでデータを活用する意義が出てきた例だと思います。

──そうした先進事例の横展開に関して総務省ではどんな構想を描いていますか。

君塚氏:横展開に関して今考えているのは、人口規模別に自治体を見ていき、たとえばフロントヤード(窓口)改革をする際に先進事例を参考にしながら、成功した方法に近しいのか、少しアレンジしたほうが良いのかなどを考えた改革手法を提案していただき、それを実際にモデル事業として進めていただく、という取り組みです。

 また、その際の手順書についても、DXの「取り組みマニュアル」のような形で作成し、自治体に参照していただこうと考えています。

 加えて、自治体における取り組みの事例集を作成して展開してきたほか、デジタル人材の確保・育成の推進にも力を入れており、各自治体の課題に見合ったDXが推進されるよう取り組んでいます。

 なお、「デジタル田園都市国家構想交付金」という内閣官房・内閣府の交付金制度の中では、優良事例の横展開を図る取り組みを対象にしたメニューがあります。 【次ページ】DX人材を「シェア」する新しい取り組みとは
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