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カシオ計算機は、2019年に公表した中期経営計画で4つの成長戦略を掲げた。同社はそれら成長戦略を支えるための改革を進めている。その内容は、2000年以降のERP導入当時から追い求めながら実現できなかったサプライチェーン改革やエンジニアリングチェーン改革を、DX推進として実現しようというものだった。ERP導入とDXとの決定的な違いとは何か。同社の担当者が、取り組みとともにその詳細を明かした。
本記事は2020年12月15日~2021年1月15日開催「第15回 業務改革/BPMフォーラム2020~ニューノーマル時代のDX変革に対応する業務改革とは~」(主催:公益社団法人企業情報化協会(IT協会))の講演を基に再構成したものです。
成長拡大に向け、不可欠だったDX推進
カシオ計算機の業績は、2015年度の売り上げが3,523億円であったのに対し、2019年度は2,808億円に減少した。これは主にカメラ市場の縮小に伴うコンシューマ向けデジタルカメラ事業の終息によるところが大きいという。
ただ、同社は2000年以降、ERPの導入を機に事業の選択と集中や経営マネジメントの強化を進めてきた。そのため利益率は、2015年度で12%、2019年度で10%と、一定の水準を維持し続けている。
また、早くから海外進出を果たし、現在の売上比率は日本が約3割で、海外が約7割、生産比率も日本が約2割、海外が約8割という状況にある。
こうした中、同社は2019年に中期経営計画を公表した。そこで掲げたのが主力のG-SHOCKを軸とした「時計事業の拡大」、海外の教育市場で需要の高い関数電卓をメインとした「教育関数事業の成長拡大」、同社の強みを活用して新しい市場を創造する「新規事業の創出」、収益改善事業を再成長事業へ変革させる「成長戦略を支える構造改革」という4つの成長戦略だ。
これらの成長戦略を支えるために、生産本部、開発本部、営業本部、本社スタッフといった機能軸で各事業を横断する組織が重点テーマとして取り組むのが構造改革だ。
こうした取り組みの最中、昨年来のコロナ禍で市場環境、消費者のライフスタイル、同社の業務環境が大きく変わった。その変化に対応するためにも、高い競争力を得るためのDX推進が不可欠と判断された。
ERP導入で「できたこと」「できなかったこと」
同社はこれまでも、恒常的に業務改革を推進してきた。前述したERP導入がその好例だ。グローバルでビッグバン的に全業務に適用、不足していた機能は他のパッケージや自社開発で補いながら標準システムを展開した。
これにより、プロセス標準化やコード統一化、グローバルデータの日次集約などが実現。事業計画、連結損益、各社損益、原価管理などが見える化され、PDCAがタイムリーに回るようになった。結果的に、経営や事業の意思決定が格段に速くなったという。
しかし、ERP導入だけでは実現できなかったこともあった。
カシオ計算機 生産本部 シニアオフィサー 生産・サプライチェーン改革担当 矢澤 篤志氏は、次のように語る。
「ERP導入当時から、生産から販売までを通したサプライチェーン改革は実行したい項目にありました。また、当社のサプライヤーからお客さまを含めた企業間連携も求めていましたが、ERPパッケージの限界や、当時のデータ処理やコンピューター自体の能力の限界もあって、組織を横断したプロセス開発までは実現に至れませんでした」(矢澤氏)
現在は、IT技術が20年の時を経て大きく進化し、オンプレミスからクラウドへ、また、CPU、メモリ、ネットワークを含めてコンピューターパフォーマンスが圧倒的に高くなった。
それだけでなく、人工知能(AI)による機械学習が登場。事業や拠点ごとのさまざまな要因を学習させることで、精度の高いシミュレーションが手軽に使えるようになった。矢澤氏は、「20年前からすると夢のような世界です」と表現する。
「当時はERPのアドオンも含めてシステムは『作る』もので、非常に時間を要していました。それが今はさまざまなクラウドサービスを組み合わせることで、我々のビジョンを実現することが可能です。構築までの時間を大きく短縮できることは、経営・事業にとって大きなメリットです」(矢澤氏)
つまり、ここに来て同社の長らく求めていたサプライチェーン改革やエンジニアリングチェーン改革(以下、PLM改革)がようやく実現できる時代が来たということだ。しかし、実際にこれをDXとして推進しようとすると、それはそれで課題があった。
【次ページ】DXは従来の業務改革とどこが違うのか
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