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- 2021/02/04 掲載
三菱商事らが仕掛ける「貿易DX」、1,320億円削減するプラットフォームの詳細
貿易実務のDXに乗り出した三菱商事
総合商社の三菱商事は、これまで産業界におけるサプライチェーンをエンド・ツー・エンドでカバーすることで事業拡大を続けてきた。食品業界を例にとれば、出発は貿易と卸であった。その後、川上である食品製造業に進出、小売りではコンビニエンスストアのローソンや食品スーパーとの関係を強化してきた。
一方、金属資源という観点では、こちらも当初は貿易から参入。日本における資源確保の重要性を認識し、オートラリアや南米などで投資を開始した。また、製鉄会社に原材料を供給するのみならず、そこで生産された鉄鋼製品をメーカーへ遅滞なく届けるために流通網の最適化にも乗り出した。
こうした同社の軌跡は、同社におけるDXの考え方にも通じるところがある。三菱商事 デジタル戦略部長 平栗 拓也氏は次のように語る。
食品流通では商品が生産から消費者に届くまで、間接費用が日本全体で4兆円かかっている。三菱商事では、これをDXで削減し、消費者やメーカー、卸に還元することで、流通業、製造業全体の生産性向上を目指しているという。
「中でも貿易は私たちの祖業で、コストプールを削減していくとしたら、その一丁目一番地は貿易実務です。まずはこの分野で三菱商事が実験台となって良い仕組みを立ち上げ、日本の産業界に幅広く使っていただきたい──そういう思いで『TradeWaltz(トレードワルツ)』という事業を進めています」(平栗氏)
輸出入1回にEUは2時間、日本は72時間
それでは、貿易実務にはどのような課題があるのか。貿易市場そのものは、いまだ成長軌道にある。財務省の統計資料によると、輸出・輸入を合わせた対日貿易総額はCAGR(年平均成長率)5%で成長しており、海上貨物の貿易取引件数を見ても、CAGR1.8%で着実に増加している。しかし、貿易実務に携わる人口は減少の一途をたどっている。それを定量的に示しているのが貿易実務検定受験者数の推移だ。すべての級において減少傾向にある。三菱商事も、この分野の人材不足を痛感しているという。
つまり、需要は伸びているのにそれに携わる人材が足りない。このままいけば必要な貿易を履行できなくなる恐れもあり、業務の生産性を向上する以外に解決策はないのだ。世界に目を向けると、EUはすでにこれを実現している。三菱商事から出向し、トレードワルツ社で取締役 CEO室長を務める染谷 悟氏は次のように語る。
この差はどこから来るのか。その原因の1つとして、日本ではある1つの契約情報を扱うにしても、荷主が、港、通関事業者、決済事業者、物流事業者といった相手先とそれぞれ個別の紙文書やPDFを受け渡していることが挙げられるという。
「一方、EUは制度を簡素化し、通貨やシステムをそろえるといった取り組みを行ってきました。私たち貿易実務者はこうした課題を討議によってつきとめ、デジタル技術で改善していけないかと考えました。そして、2017年8月、通関システムの開発・運用を行っているNTTデータが中心となり、3メガバンク、3メガ損保、8総合商社、船会社・物流会社などとともに貿易コンソーシアムを発足しました」(染谷氏)
【次ページ】貿易プラットフォーム構築で「44%の業務効率化」「1,320億円削減」
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