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  • 2018/12/18 掲載

日本生命のRPA活用術、AIやBPMNでどう効果を最大化させようとしたのか

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日本生命は今、「デジタルプロセスビジョン」の実現に向けて注力している。情報をデジタル化し、処理を自動化し、事務プロセスはシステムで制御して“人の処理を極小化する”ことを目指すものだ。しかしその背後には、大きな4つの構造課題があった。そこで同社の企業保険部門ではこれらの課題を打破する事務システムに6つの要件を求め、取り組みをスタートさせている。
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日本生命保険相互会社
企業保険契約部 企保事務システム構造改革推進担当部長
宮本 豊司 氏

デジタル改革を阻む4つの構造課題

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 デジタルプロセスビジョンの実現に向けて数々の実証実験を行い、既にRPA(Robotic Process Automation)やBPMN(Business Process Model Notation:ビジネスプロセスモデリング表記法)の導入も進めている日本生命だが、実際の取り組みにおいては、目指す改革を阻む4つの構造課題があったという。

 「第13回 BPMフォーラム 2018」で登壇した日本生命保険相互会社 企業保険契約部 企保事務システム構造改革推進担当部長の宮本豊司氏は「事務の面で3つ、システムの面で1つの構造的な課題が存在していた」と説明する。

 まず事務課題の1つ目に挙げられるのが、ローカライズの問題だ。

「同じ事務を複数の組織でやっているケースは多々あると思うが、たとえばある組織に新しいマネジャーが来て、この不備点検の基準ではダメだということで変わっていったり、あるいは大きなトラブルが起こって再確認の人員をもう1人増やすといったりしたことで、事務がローカルの組織で独自にルール化されていく。さらに各々が自分たちのルールが一番だと思っているので標準化することも難しい。まずこうしたハードルがあった」

 2つ目の課題が、事務の属人化だ。

「属人化は人を組織に固定し、担当者の休職・退職によりその業務が回らなくなるという状況を生む。判断処理が必要で、しかも少量多品種で年に何回かしか起こらないような業務は特に属人化しやすい。これも大きな問題だった」

 そして3つ目が、外部委託事務のブラックボックス化だ。

「当初は委託元と委託先が仲良く詳細の確認を日々行っているが、安定稼働してくるとトラブル発生時ぐらいにしか話さなくなり、やがて元々の事務をやっていた委託元の担当者が転勤などでいなくなると、業務の内容そのものが見えなくなっていく。こうした状況も起こりがちだった」

 一方システム面の構造課題として挙げられるのが、少量業務ではシステム投資の費用対効果が見込めないことだ。

「大量の事務量がある現場には、大規模な投資をして事務レスを推進することで大きな効果を望むことができる。事務量が中・小規模の現場でも低コスト化、工程圧縮などの効率化は当然求められており、RPAの登場で、こうした領域の効率化も進むという期待があったが、まだ部分的な効率化に留まっている。AI-OCRやAIも少量業務では費用対効果が見込めない。結果、人主体でコントロールする事務プロセスと紙事務主体のハンド処理が残り続け、システムは最後にデータを登録する入れ物でしかない。これが現実だった」

事務課題を打破する事務システム:6つの要件

 そこで日本生命では、まず事務課題を打破するための事務システムに求める要件を定義した。

「必要な事務システムの方向性として大きく6つを考えた。順番に既存ルール・慣習からの脱却、可視化、標準化、現場化、BPMS×RPA×AI、データマネジメントだ。いったんこうした仮説を立てて取り組んでいる」

 まず既存ルール・慣習からの脱却については、従来業務における数々の習慣、たとえば印鑑やID/パスワード、現物主義、承認フローといった習慣を廃止する、あるいは新しい技術で置き換えていくことを考えた。

「次に可視化は非常に重要で、課題を打破して効率化を実現するためには、やはりプロジェクト関係者が業務内容を誤解なく共有化できる必要がある。そこで我々は業務プロセスをフローチャートで描くことができる国際標準のビジネスプロセス表記法であるBPMNを導入している。美しく業務フローを描くことができれば、それをそのままシステム化することができる」

 そしてBPMNでデザインした業務フローをBPMS(Business Process Management System)に適用し、システムでコントロールする。

「そこでコントロールされる1つ1つの工程は、RPAやルールエンジンなどの新しい技術で自動化していく。これにより事務全体のシステム化が実現され、結果として標準化を目指すことが可能となる」

 また現場化も、非常に重要なポイントだ。

「ロボットの登場は、実は非常に大きな改革を現場にもたらしていると実感している。それは“自分たちでシステムが作れる”ということだ。今後はワークフローなども自分たちで作ることが可能になるのではないか。だからこそ現場でシステムを開発していく体制を構築することが重要で、それが効率化にもつながるし、現場の活性化にもつながる」

 しかし大幅な効率化はRPAだけでは難しい。

 「そこでRPAとAI、あるいはRPAとBPMNを組み合わせることで、RPAの活躍できるフィールドはさらに広がっていく。RPA単体ではなく、他の新しい技術と組み合わせて活用することで、より大きな成果を期待することができると考えている」

 そしてデータマネジメントを実現することで、各事務業務の生産性や1件当たりの処理コストなどをデータで把握することが可能となり、結果、改善活動の生産性向上が期待できるようになる。

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構造課題を打破する事務システムの在り方

誰が見ても理解できる業務フローを描けるBPMN

 そして宮本氏は「改革を阻む課題を解決するための第一歩は、適切な可視化だ」と強調する。

「先にも述べたように、プロジェクトの関係者で業務内容を誤解なく共有化できる可視化の仕組みが必要だ。そこでまず全体業務量の60~70%に相当する基本事務を可視化する。例外事務は後回しでいい」

 目的は仕事の流れを見える形にして、関係者の間で認知・共有すること、その際に必要となる条件は、5W1Hを明確にすることだ。

 「ただ独自で事務フローを作ろうとしても、そもそも階層分けの明確な基準がない、業務の粒度の統一がされていない、表記ルールが不明確などの理由でかなり難しい。結局使われない業務フローを一所懸命作っているという現場の徒労感が数多くあった」

 その際に非常に有用だったのがBPMNだ。

「BPMNでは、全体業務フロー、詳細業務フロー、詳細業務手順という階層で、可視化の目的に応じた分類がされている。またBPMNを採用することで業務の粒度も揃ってくるし、書き方のルールも“文法化”されているので、誰が見てもひと目で理解できる業務フローを描くことができる。使う人員に繰り返し教育をしていかなければならないという実態はあるが、BPMNは現実レベルで非常に有用な手法だと我々は評価している」

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業務フローの要件を備えたBPMN
【次ページ】AIやBPMNとの連携でRPA活躍の幅は広がる
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