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2017年11月30日

元東京海上 横塚裕志氏が語る、第4次産業革命を生き抜く4つのアプローチと3つの視点

「今、第4次産業革命が起こっている。従来のやり方や考え方のままでは破壊されてしまうだけだ。企業が生き残っていくためには、顧客の課題をデザインする必要がある」。そう指摘するのが、東京海上日動システムズ株式会社 顧問で、一般社団法人情報サービス産業協会 会長、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の代表をつとめる横塚裕志氏だ。単に“売上対前年比10%”アップといった目標を掲げる企業では、第4次産業革命に立ち向かっていくことはできない。企業には今、顧客の課題を設定し、それを解決するためにどんな企業行動を起こしていくかを真剣に考えることが求められている。

執筆:西山 毅

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一般社団法人 情報サービス産業協会 会長 横塚 裕志


“本業が破壊されてしまう”第4次産業革命の脅威

 「第12回 BPMフォーラム 2017」で登壇した横塚氏は、はじめに第4次産業革命の特徴として、大きく4つの変化を提示した。

 1つ目がコンピュータや通信技術が驚異的に進化していること、2つ目がソフトウェアによって異業種連携が容易になり、新たなエコシステムが誕生して、これまでにない価値が次々に生まれていること、3つ目が情報の非対称性が企業上位から顧客上位へと逆転し、顧客価値の視点が大きく変化していること、そして4つ目が、限界費用ゼロの社会になっているということだ。

 ちなみに限界費用とは「生産量を1単位増加させることに伴う総費用の増加分」のことで、たとえば部品を100個作る場合を基準とした時の、生産する個数をあと1個増やした時に発生する総コストの増加分のことだ。限界費用が限りなくゼロに近いものとしては、ソフトウェアを考えれば分かりやすい。

「こうした第4次産業革命の最大の脅威は、我々の本業が破壊されてしまうということだ。たとえば私は損害保険会社の出身だが、自動運転の普及によって交通事故が減っていくことは社会的には非常に喜ばしい一方、自動車保険はあまり必要なくなる。またカーシェアリングが当たり前の世の中になれば、駐車場は不要になるし、広い駐車場を備えた郊外のショッピングセンタのビジネスモデルも変わるだろう。こうした状況の中で、どのように新しいビジネスを作っていくのか。それを考えることが今、企業には求められている」

 また現在ではライバルが誰なのかも分かりにくくなっており、自社の競合は、業界の外からやってくる。

「さらに技術の進化を予測することは難しく、予想外のさまざまな出来事が起こる可能性もある。たとえばAIが人間の職業を奪うという議論の前に、我々のビジネスそのものがAIによって奪われてしまうかもしれない。まずはこうした第4次産業革命の本当の脅威を認識することが何よりも重要だ」

新しい価値創造には2つの機能が求められる

 現在日本の国際競争力は低下しており、労働生産性はOECD(経済協力開発機構)参加35か国中22位で、米国の半分より少し多い程度だ。

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日本の労働生産性はOECD参加35か国中22位だ


「日本製品の品質は世界で一番だとか、日本のおもてなしは世界一だという幻想がずっと続いているが、この30年間、日本は何もしていない。そこに今デジタル革命が来ている。日本の経営者はデジタルに疎い。相当厳しい状況だ。この中で日本は勝たなければならない」

 ではどうやって勝つのか。

「周知の通り、価格競争で勝つ時代はもう終わっている。新しい商品、新しいサービスを創造して、その価値で勝負しなければ、もはや生き残っていくことはできない。しかしそれはそう簡単ではない」

 たとえば、独ダイムラーは約3年前、自分たちは自動車を生産する会社を止めて、顧客に“移動する”サービスを提供する会社になると宣言した。また米GE(ゼネラル・エレクトリック)も、飛行機エンジンを生産して販売する会社から、機体やエンジンからさまざまなデータを収集して、たとえばどんな飛び方をすれば燃料を節約できるかをアドバイスする会社に変わってきている。

「このようにすべての産業が、新しい価値創造に向かっていく必要がある。ではそのために企業には何が求められるのか。私は2つの取り組みが必須だと考えている」

徹底して顧客を観察し、そこから課題を発掘する

 まず1つめが、顧客が何を望んでいるのかという“顧客の課題をデザインする”こと、そして2つめが、その課題を解決する製品を“ロジカルに実現する”ことだ。

「しかしこれらの取り組みを社内の限られた人たちがやるだけでは間に合わない。この2つの機能を会社の中に組織能力として持ち続ける必要がある。そのためにどんな組織にして、どんなビジネスプロセスを作っていけばいいのかを真剣に考えていかなければならない」

 まず“顧客の課題をデザインする”ことについて、横塚氏は「これが非常に難しい。しかしデザインできたらもう勝ったようなもの。ここが勝負の分かれ目」と強調する。

 顧客の課題をデザインするということはつまり、顧客に寄り添い、顧客が本当に望んでいることは何かを発掘していく作業に他ならない。

 たとえばエアコンを売ろうとする時、日本では部屋全体を均等に冷やす製品が望まれるが、非常に暑いバングラディッシュでは、ある一点を集中的に冷やすことができるエアコンが売れるという。

「世界を相手にエアコンを売っていくためには、各々の国の人たちが、どんな心持ちで、涼しさを求めているのかを深堀りしていく必要がある。しかし、たとえばiPhoneを見たことがない人は、iPhoneを欲しいとは絶対に言わない。ここで重要なポイントは、求める価値は顧客自身も気が付いてはいないということだ。そこを発掘していかなければならない。加えてどれぐらいの価格なら受け入れてもらえるかも考えていく必要がある」

 ただし社内でいくら会議をしても、顧客が何を欲しがっているのかは分からないし、顧客アンケートで聞けるような話、顧客自身が気付いている話なら、もう既にどこかの会社がやっている。

「そこで今、世界中で活用されているのが“Design Thinking(=デザイン思考)”というフレームワークだ。このデザイン思考を使って、しっかり顧客の価値を掘っていくというのが、世界ではもう常識となっている」

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顧客の価値を掘るフレームワークとして有効なデザイン思考


 たとえば、次世代の洗濯機を作るというプロジェクトがあった時、まずは消費者がどんな洗濯の仕方をしているのかを、色々な家に見学に行く。そこで消費者に「共感」し→「観察」し→「観点を定め」て、そこから顧客の課題を「想像」して構想を練り→「プロトタイプ」を作って「テスト」する。実際に使ってもらって意見をもらうのだ。

「この一連のプロセスを約3か月で行い、このサイクルを6回繰り返す。これはあくまで目安だが、こういう作業をすることで初めて、顧客が本当に望んでいるものを発掘することが可能となる。徹底して顧客を観察して共感し、そこから課題を発掘するというのが今の世界中のトレンド」

 ここで横塚氏は、今年9月にシンガポールで世界から大学生が集まって開催されたニュービジネスコンペティションにおいて、あるチームが発表した“よりよいガン治療薬を作るため”の課題デザインを紹介した。

「ガンの治療薬は、患者によって合う、合わないがあり、また実際の効果があるかどうか分かるまでに約半年もかかるという。だから患者は概してなかなかいい薬に巡り合うことができない。そこでそのチームは“ガン治療薬の効果を2週間で分かるようにする”ことを課題として設定し、バイオのプロやAIのプロなどが集まって新薬の開発に取り組んだ。こうした本当の課題を発掘していくためのフレームワークがデザイン思考だ。これはスポーツと同じで、トレーニングをしっかりと積まなければ、うまく使いこなすことはできない」

【次ページ】徹底して顧客を観察し、そこから課題を発掘する

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