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ITの進化や技術革新によって、労働者を取り巻く環境は劇的に変化した。インターネットとモバイルデバイスさえあれば、いつでも、どこからでも、どんな環境でも仕事ができる。技術の進化は労働者に「価値」と「ゆとり」をもたらす…はずだった。しかし、「労働者の生産効率性は過去25年間で最低水準だ」と指摘するのは、デロイトコンサルティングで企業のタレントマネジメントなどを手がけるジョシュ・バーシン(Josh Bersin)氏だ。同氏は、「これからの企業の成長戦略には従業員が成長できる環境を提供し、潜在能力を引き出してエンゲージメントを高めることが重要」と主張する。その真意は何か。話を聞いた。
技術革新で生産性が低下した理由
日本の少子高齢化が止まらない。2017年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来の推計人口」によると、2065年における日本の人口は、2015年に比較し30%減の8808万人となり、高齢者の割合は38.4%に達するという。
ロイター通信が同データを基に試算したところによると、2017年に7,578万人だった15歳から64歳までの労働力人口は、2027年には7,071万人に減少。さらに、2030年には6875万人まで落ち込むと見られている。
「少子高齢化による労働力不足は深刻な課題だが、それ以上に喫急にとりくむべきは、個々の従業員の生産効率性向上だ。実は先進国の生産効率性は、過去25年間で最低水準だといえる」
こう語るのは、企業のラーニングに特化した研究やアドバイスを行うBersin by Deloitteの創業者で、デロイトコンサルティングの戦略責任者をつとめるジョシュ・バーシン氏だ。
同氏は「先進国の経済サイクルは8年~9年周期であり、新たな技術革新によって従業員に要求されるスキルと職業の内容は大きく変化する」と指摘する。それに伴い、本来であれば効率化できる作業が、技術革新の端境期に入ることで、副次的に発生する大量の作業の結果、現場が長時間労働を強いられているという。ある欧米の調査によると、15年前の同一職種を比較した場合、現在のほうが1カ月当たりの残業時間が10時間以上多いとのデータもある。
経営者がもっとも留意すべきは「従業員の愛社精神」
さらにバーシン氏が「経営者がもっとも留意する課題」として挙げるのが、「従業員のエンゲージメント(engagement)向上」である。「契約」や「約束」といった意味を持つエンゲージメントだが、この場合には従業員の会社に対する「愛着心」や「貢献意欲」を指す。日本流でいうなら「愛社精神の向上」と言い換えてもよいだろう。ストレスが多い職場ほどエンゲージメントは低く、また報酬の多さとエンゲージメントの高さは、必ずしも一致しない。
Deloitte Human Capitalが2014年~2015年に調査したところによると、米国労働者の49%が週50時間以上、20%が週60時間以上働いているものの、人口の40%は「仕事で成功し、バランスの取れた家庭生活を送ることは無理だ」と考えているという。
さらに調査では、米国の労働者は労働時間の25%をメールのやり取りに費やし、1日に150回もスマホをチェックすること。米国企業の80%以上が、『現在のビジネスは従業員にとって非常に複雑/複雑』だと認識にしているにも関わらず、ビジネスを簡素化したり、従業員に対してトレーニングの機会を設けたりしている企業は、たった16%にすぎないことも明かになった。
バーシン氏は「従業員の70~75%が自分の会社に対してエンゲージメントを感じていないという企業もある。もちろん、生活のために目の前にある仕事はこなすが、『充足感を持って仕事をしているか』と言えば、答えは『No』だ。これでは会社も従業員も幸せにならない」と説明する。
さらに、社会情勢も従業員の不安材料となっている。米国政府の移民政策に対する“ブレ”や国際競争の激化など、その先行きは不透明だ。特に30歳以下の、いわゆるミレニアル世代の70%は、「世界はよい方向に向かっていない」と感じており、「自分の生活水準は、親世代よりも低くなる」と感じているという。
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