• 2017/03/22 掲載

「InsurTech(インシュアテック)」とは何か? 保険業界をどう変える?PwCが6つの新たな事業機会を解説

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InsurTech(インシュアテック)と呼ばれる先進テクノロジーを活用した、新しいビジネスが続々登場している保険業界。将来も変わらず生き残っていくためには、今保険会社にはどのような変革が必要か。PwC US 保険コンサルティング リーダー ジェイミー・ヨーダー氏が、保険業界が抱える将来の懸念事項や、一方で生まれている6つの新しい事業機会を解説。インシュアテックによる業界変革の必要性を説いた。
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インシュアテックは保険業界の変革者か、破壊者か
(© MichaelJBerlin – Fotolia)


保険業界はインシュアテックに戦々恐々か

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 保険(インシュアランス)分野における技術(テクノロジー)活用をインシュアテックと呼ぶ。インシュアテックによって、保険業界にはどのようなイノベーションが生まれるのか。

 PwC Japanは「保険業界におけるイノベーションと変革 日本の保険会社への機会と示唆」と題して業界セミナーを主催した。

 このセミナーに登壇したヨーダー氏は、長く保険業界を自らの領域とし、情報とテクノロジーが保険業界の風景をどのように変えていったのかを27年間にわたって見つめてきた人物だ。

 PwC USで保険業界におけるコンサルティングリーダーを務めている同氏は「年間を通して世界の何百人もの保険業界のエグゼクティブチームやリーダーと面談する中で、ここ数年この業界に大きな変化が起こっていることを実感する」と語る。「他社は何を始めようとしているか、お互いがお互いを見張りあう、戦々恐々とした状況だ」というのだ。

 実際、PwCが最近発表したCEOサーベイによると、保険会社の経営層は、将来の成長見込みに関して、ほかのどの業界よりも懸念を抱いているという。それを示したものが次の図だ。

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保険会社の経営層は将来の成長見込みについて他のどの業界よりも懸念を抱いている
(出典:PwC資料)


 「貴社の成長に対して、以下の潜在的な脅威にどの程度懸念を持っていますか?」という質問を提示して、潜在的な脅威の選択肢として「過大な規制」「技術進化のスピード」「変化する顧客行動」「新規参入者」を挙げた。

 これらに対してCEOが「非常に懸念している」と回答した割合を積算した結果、保険業界のCEOからの回答が最も棒グラフが長くなったのだ。

 しかし、インシュアテックに関してヨーダー氏は「プレッシャーを感じる必要はない」と断言する。その理由はどこにあるのだろうか。

インシュアテックによってビジネスモデルに変化も

 たしかに、社会の変化や技術革新とともに新しいリスクが出現する。保険会社はそれらのリスクを予測しつくさねばならないと身構えている状況にあるが、一方でインシュアテックによって、今までに比べてリスクはより予測・管理しやすくなる側面もある。

「(インシュアテックによって)保険会社のビジネスモデルも、何か起きた時の払い戻しや補償といったものから、何か起こることを予防するもの、それを最小化するものに変化可能で、すでにそうした保険商品は登場し始めている」(ヨーダー氏)

 そして、なにより保険業界には、多くのプレーヤーで繁栄を享受するエコシステムの概念が存在する。今までそのエコシステムは、保険者、サービスプロバイダー、仲介者、再保険者などと保険業界の中だけに閉じていた。

 しかし、これからはIoTやリモートアクセス、AI、コグニティブコンピューティングなどのテクノロジー、医療業界、自動車業界など、業界の外で生まれている進化や変化を取り入れることで、これまでのエコシステムとビジネス機会を拡大できるのだ。

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保険における変革機会は業界の外で生まれる進化や変化によってもたらされる
(出典:PwC資料)


 実際に、IoTテクノロジーに関しては、世界490もの保険会社が取り組みを始めており、新しいリスクとは何か、予防のためのモデルをどう構築するかといった洞察を得るために活用しているという。

保険業界に存在する6つの事業機会とは

 具体的に保険業界にはどのような変革チャンスが存在するのか。ヨーダー氏は、PwCが2016年に発表した「保険の未来」をもとに、大きく6つの事業機会を紹介した。

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保険業界には大きく6つの新しい事業機会が存在する
(出典:PwC資料)


 たとえば「新たなオファリングで変化する顧客ニーズに応える」という項目では、同氏はある保険会社のインシュアテック事例を挙げた。

 この会社は自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリを提供する米ベンチャー企業と提携し、乗用車利用がユーザーの個人利用か、ビジネス利用かを見分けるデータを収集した。

 同ベンチャーの商用保険でカバーされない個人利用に対し、「走った分だけ保険をかけられる」という商品を開発した。この事例はいわば「Pay-Per-Mile」だが、別の保険会社は、ユーザーが自分の所有物に対して、必要な時に必要な期間だけ保険をかけられるオンデマンド型の保険契約というビジネスモデルを開発した。

 また、「顧客とのやりとりを促進し、信頼をベースとした関係を構築する」という顧客とのエンゲージメント強化に注目したビジネスモデルも出現している。

 Web、モバイルなどで蓄積されるユーザーの健康に関するデータソースを、クラウドベースのプラットフォーム上に収集し、ユーザーと保険会社がデジタル契約を結ぶことを可能にしたものがあるという。

 そのプラットフォームには保険代理店や保険管理者がコントロールできるバックエンドソフトウェアとともに、ユーザー向けWebアプリケーション、モバイルアプリなども用意されている。

 ヨーダー氏は「これは、既存の保険契約モデルを変革する顧客エンゲージメントの非常によい例で、保険会社としては、彼らがどう取り組みを進めているか、この動きにどう関わっていくかを考えることが大きなポイントとなります」と語る。

インシュアテックを破壊者と捉えない

 一方、組織の内側から変革を進める方法としてはどのようなものがあるか。

 「リスク引受と損失回避に新しいアプローチを活用する」という項目に属するものに、リスクの考え方を再定義するケースがある。

 たとえば、これまでHIV患者は生命保険に入りにくかった。しかし、ニーズは確実に存在する。ある保険会社はリスクを適切に補償するとともに、患者の健康管理に役立つプログラムも提供しているという。

 こうした取り組みにより、保険に入っていないユーザーに有意義な形でアプローチすることができ、市場を拡大していくことができるというわけだ。

 AIを導入してモバイルアプリ機能を強化した保険会社もある。これは、ユーザーインタフェースをチャットボットにしてバックエンドのレガシーシステムと接続、ユーザーの保険契約手続きをシンプルにしたという事例である。

 ヨーダー氏は「こうしたプレーヤーは、前例のないレベルの変革を起こしています。彼らは破壊者として認識されがちですが、保険会社の多くは十分に協業可能です。御社が機会を提供すれば、彼らも同じように機会を提供してくれます」と語る。

「まずは顧客のニーズの何が変わってきたかを、外側から探っていくことです。それにどう対応するのか。可能性はどれぐらいあるのか。重要なのは、新しい体験をデザインしていくことです。そして、そうした変化に対して組織的能力をどう移行するか。こういう風に点と点を結びながら、変革への道すじをつなげていくことが重要です」(ヨーダー氏)
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