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事務用品通販大手アスクルの物流センター火災は、出火から6日が経過してようやく鎮火した。火災が同社の経営に与える影響は今のところ限定的と考えられるが、配送の混乱はしばらく続くと考えられる。このところ、通販大手は相次いで大型の物流センターを建設し、配送サービスの強化に乗り出しているが、今回の火災は、ネット通販の意外な弱点を露呈する結果となった。
出火した物流センターは首都圏の中核施設
火災を起こした物流センターは、埼玉県三芳町にある「ASKUL Logi PARK 首都圏」。地上3階建てで、延べ床面積は7万2000平方メートルあり、法人向け通販サイト「ASKUL(アスクル)」や消費者向けサイト「LOHACO(ロハコ)」の商品を中心に約7万点の在庫を管理していた。
火災は16日朝に発生し、6日間にわたって燃え続け、22日になってようやく火が消えた。全体の約6割にあたる4万5000平方メートルが焼失したという。現在、首都圏の物流センターの半分が機能しない状態となっているため、横浜のセンターに在庫を集中させたり、関西のセンターから商品を配送するなど、対応に追われている。
出火原因など詳しいことは分かっていないが、同社によると出火場所は1階の使用済み段ボールの保管場所で、普段は火の気がない場所だという。商品在庫の中には可燃性のものも多く、倉庫はひとたび火事になれば鎮火させるのが難しい施設である。火災が広がってしまった後は、手が付けられなかった可能性が高い。ただ、この物流センターは最新鋭の設備を導入したアスクル自慢の施設だっただけに、関係者のショックは大きいだろう。
このところ通販各社は配送サービスの強化に乗り出しており、次々と大型の物流センターを建設している。同社もその例外ではなく、全国に7カ所の物流センターを構えている。埼玉のセンターは2013年にオープンしており、横浜と並んで、首都圏や関東向けの配送を担う中核施設だった。
アスクルは配送作業を効率化するため、積極的にロボットを導入しており、このセンターでも作業の自動化が進められていた。内部にはベルトコンベアが配置され、ロボットが商品をピックアップして、段ボール箱に梱包していく。画像認識システムと組み合わせることで、ロボットが自動的に商品の形状や状態などについて認識するという。
同社は東日本大震災で物流センターが被災した経験から、埼玉のセンター建設にあたっては災害対策を強く意識していた。だが皮肉なことに、今回は火災という自然現象ではないトラブルが発生してしまい、これに対してはほぼ無力であった。
被害額はいったいいくらなのか?
では今回の火災でアスクルにはどの程度の被害が発生するのだろうか。同社では被害総額などについては、まだ正式に発表していないので、あくまで現時点における筆者の推定だが、最大でも120億円程度に収まる可能性が高いと見ている(本稿掲載後、アスクルが被害額の参考値を公表したが、本稿での予想とほぼ同じであったことから、本文は修正していない)。
同社の財務体質を考えれば、今回の火災で経営が傾くということはないだろう。ただ、同社の物流システムの混乱は当分続く可能性があり、長期戦略などにおいて見直しが必要となるかもしれない。
通販会社における物流センターは、REIT(不動産投資信託)や不動産会社など外部の組織が所有し、企業側は施設を賃借するだけというケースも多い。だが同センターはアスクルが直接保有する自社物件であり、被害についても同社が直接負担する必要がある。
同センターは2013年から稼働を開始しているが、同社は施設の建設にあたって、土地代として約47億円、建物の建設費用として約106億円を支出している。さらに内部の設備に約40億円を投じた。建物と内部の設備をすべて再構築した場合には約150億円の費用がかかる計算になる。
今回の火災では施設の約6割が焼失したとされているので、単純にこの割合を掛けると施設に関する被害額は約90億円ということになる。どの程度、再利用ができるのかは現時点では不明なので、施設に関する被害額はざっと100億円程度とみておけばよいだろう(建物については火災保険に入っているはずだが、保険契約の内容は現時点では不明である。ここでは保険金の支払いは考慮に入れていない)。
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