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あらゆる企業が、イノベーションを起こす方法を模索している。そんな中で注目を浴びているのが、ダイバーシティ経営だ。コンプライアンスや人権対応、CSRといった「守りのダイバーシティ」ではなく、社員1人ひとりの違いを企業の力としてイノベーションにつなげていく「攻めのダイバーシティ」はどうしたら実現できるのか。LGBTコンサルタントであり、LGBTに関する豊富な企業研修実績を有するトロワ・クルール 代表取締役 増原裕子氏が、2種類のダイバーシティの観点から、イノベーションを起こす方法を解説する。
LGBTと「佐藤・鈴木・高橋・田中」は同じくらいいる
日本社会の中で急速に注目が集まるLGBT。言葉は知っていても、詳しい知識を持っている人はまだ多くはない。
LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティの総称であり、また、そこに属する人たちを肯定的にとらえようとする概念でもある。
最近の調査によると、日本でもLGBTは5%~8%程度という結果が出ており、仮に少なく見積もって5%としても20人に1人の割合だ。生産年齢人口の大幅な減少が見込まれる中、LGBTの社員は貴重な人的資源のうち20人に1人を構成するのだ。
「LGBTの人に会ったことがない」「うちの会社にはいない」と言う人がいるが、20人に1人というのは、日本の4大名字である「佐藤・鈴木・高橋・田中」さんの合計と同程度の割合である。過去にこれらの名字の人に1人も会ったことがない人はいないはずである。
つまり、「LGBTに会ったことがない」のではなく、「カミングアウト(自分がLGBTであると公言すること)しているLGBTに会ったことがない」ということになる。
イノベーションを可能にする2種類のダイバーシティ
近年、「ダイバーシティ経営」という言葉が注目されている。ダイバーシティ経営とは、 「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていく経営」のことだ。
イノベーションの本質は「既存の知と知の新しい組み合わせ」であり、これはオーストリア・ハンガリー帝国生まれの経済学者、ジョセフ・シュンペーターが「neue Kombination(新結合)」と名づけたものである。そして、「知と知」を「結合」するには、ダイバーシティが必要となる。
経営学ではダイバーシティを「デモグラフィ型のダイバーシティ」と「タスク型のダイバーシティ」の2種類に分ける考え方が主流だ。デモグラフィ型とは、性別・国籍・年齢など属性の多様性のことで、タスク型とは、能力・経験・知識など実力の多様性のことだ。
企業経営において「ダイバーシティが組織のパフォーマンスにプラスになる」という場合、一般的にはタスク型のダイバーシティのことを指している。組織の中で多様な知見や能力を持った人が集まれば、イノベーションを生み出しやすくなるからだ。
しかし、このタスク型ダイバーシティの実現には、組織の中に「多様な属性」の人材が集まっていることが前提となる。つまり、タスク型ダイバーシティの前提として、デモグラフィ型ダイバーシティが必要なのである。
LGBTはどんな組織でもすでに働いている可能性があり、その意味では多くの企業がLGBTについてはすでにデモグラフィ型のダイバーシティを保持しているはずだ。
ただし、揶揄やからかい、偏見に基づくハラスメントへの恐れから、LGBT社員のカミングアウトと可視化は進みづらく、すでにあるはずのデモグラフィ型ダイバーシティはなかなか活かされない。だからこそ、日本の職場におけるLGBTが働きやすい環境の整備は、解決すべき経営課題なのだ。
【次ページ】約4割の企業がLGBT対応施策を実施
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